5歳児と魔法の修行その1。
翌日、私はいつものように目が覚めました。ただ、いつもと違って何故かお師匠様の腕の中にいて一緒のベッドで寝てましたけど…。
お師匠様を起こさないように腕の中から静かに抜け出し、朝食を準備するためにキッチンへ向かいました。
しかし、そこには先客がいました。昨日、着ていたコートと防具を外した姿のキースさんです。キースさんは、すぐに私に気が付きました。昨日と同じ飄々とした笑顔を向けてきます。
「おはようございます、キースさん。」
「おう、おはよう。わりぃな、おじょーちゃん。勝手に使わせて貰ってるぜ。」
キースさんの手元からはとても美味しそうないい香りがします。昨日は、二人のお陰で夕飯を食べ損ねました。ですので、美味しそうな香りだけでお腹のむしが鳴いちゃいそうです。
「いえ、大丈夫です 。でも、キースさんはお師匠様のお客様です。
昨日はお客様より先に寝ちゃったばかりか、朝食の準備までさせてしまってすみません…。」
「ほんっとに、おじょーちゃんがあいつの弟子とは思えねーな。
子どもは、んなこと気にしなくていーんだよ。」
キースさんはわしゃわしゃと私の頭を撫でながら言います。なんだか、お父さんみたいです。
「…ありがとうございます。」
なんだかくすぐったい気持ちになりました。キースさんの顔を見るのが恥ずかしくて、うつむきながらお礼を伝えます。
うつむいていた私には見えませんでしたが、キースさんは少しだけ寂しさを宿した瞳で穏やかに微笑んでいました。
私は朝食を準備するキースさんのお手伝いをしたり、キースさんと一緒に畑の水やりをしました。全てが終わった頃にお師匠様は起きてきました。寝癖を治すこと無く、慌てた様子のお師匠様は私を視界に写すとすごい勢いで駆け寄って来ました。
「リクーーっ!!」
ちょうどキースさんはキッチンへ朝食をお皿に盛りつけていました。お師匠様の標的である私はリビングにあるテーブルの横にいました。お師匠様の声と私を目指して走る勢いに、流石に危ないと思ったのか助けに来ようとするキースさんの姿が見えます。
この勢いのお師匠様に抱き締められると気絶するまで離して貰えない事を、私は過去の苦い経験から知っています。そのため、私は慌てること無くお師匠様をギリギリまで引き付けてから"ひょいっ"とテーブルの下に隠れました。標的を見失ったお師匠様は見事に"べしょっ"と顔から地面へつっこみました。
「リクっっ、ひど・・・」
「お師匠様、私はいままでに何度も言いましたよね?
あんな勢いで抱きついたら危ないと。ふふふ、これで何回目ですか?」
お師匠様の言葉を遮って喋ります。ふふふ、過去何回あの締め付けるような拘束(抱っこ)の餌食になった事か。
「うぐっ。・・・リ、リクさん?お、怒ってる?」
「怒ってないように見えますか?
お師匠様、忘れてしまったようなのでもう一度お話ししましょうね?」
「ごっ、ごめんねっっ、リク!次から気をつけるからっ!!」
お師匠様?それは前回も言っていましたよ?
お師匠様にお話しという名のお説教をしていたんですが、キースさんの苦笑混じりの取りなしもあり私たちは遅い朝食を食べ始めました。お師匠様は涙目でいつもより顔色は悪かったですが、これに懲りてしばらくは控えて頂けると助かります。
気を取り直してキースさん作ってくれた朝食を味わいます。スープやパンといった一般的な朝食なのに、とても美味しかったです。パンはふわふわで、スープは野菜などの具がたっぷり入っていて野菜のうまみが感じられます。・・・これは、キースさんがいなくなる前にしっかりと教わらなければいけませんね。
美味しい朝食をしっかりと味わって食べます。大人2人は私より食べ終わるのは速かったんですが、お師匠様は自分が食べ終わると何故かそわそわしています。不思議に思いながらも食べるスピードは上げません。だって、生まれてからここまで美味しいご飯は初めてなんです。よく味わって食べないともったいないです。
そして、私が食べ終わったのを確認するとお師匠様は意外なことを言いました。
「リク、魔法を覚えてみる気はないかしら?」
その言葉を聞いた私は、その言葉の意味を理解するまで数秒の時間を要するのでした。




