5歳児とお師匠様その1。
皆様、お久しぶりです。
私は5回目の誕生日を迎え、晴れて5歳となりました。
あの衝撃的なお師匠様に拾われた"あの日の夜"から5年。出来ればその5年間の事はどうか聞かないで下さい。武士の情けです。
でも、そんな風に言われたら余計に好奇心が働きますよね?
簡単にいくつか紹介すれば、赤子には離乳食が必要だし、用意してくれたと思ったらあんな色のものは食べ物ではありません。絶対に。自分が食べさせたのに死にそうになっている私を見て泣きそうにならないで下さいよ・・・。あとは、お酒に酔っ払って私を抱えたまま外で眠ってしまうなんてことは数え切れないほど有りました。自分が好きだからと、赤子の私にもお酒も飲ませようとした時は、思いっきり吐き出しましたよ。お酒は20歳を過ぎてからです。
突っ込みどころ満載なお師匠様との生活は私のような成人した精神を持っているから成り立ったのであって、普通の赤子では耐えられなかったとものすごく思います(遠い目)。
あれ?私病弱じゃなかったっけ?と過去に思いを馳せながら、私は畑でとれたばかりの野菜を料理していました。そんな私の背後から、幾度となく私に死の覚悟を決めさせた張本人がやってきました。
「リクー、今日の昼ご飯まだー?
うん?リクがぼうっとしてるなんて珍しい。
何々どうしたの?貴女の頼りになるおししょー様に何でも言ってごらん。」
その言葉と満面の笑みと一緒に現れ、私を背後から抱きしめ頬ずりをしている女性。彼女こそ5年前の"あの日"に私を拾った魔女。強力無慈悲な魔力を操り、敵には情け容赦無く傍若無人な攻撃魔法をぶっ放す"破壊の魔女"メリッサ・エキザルトである。
腰の辺りまで伸ばしている赤銅色の長い髪、猫のように少しつり上がった大きな目に、自信に満ちあふれた黄金の瞳、なめらかな褐色の肌、うらやましいほどに整った女性らしい体型。胸元を協調したうえにおへそが見えるくらいに丈の短い白いシャツ、ジーンズのような生地の濃い青のホットパンツ。そして、黒いコートのような上着を羽織っている。そんな女性としての魅力にあふれた彼女が、密かな私の目標です(主に体型)。
「・・・お師匠様。いつも言ってますけど料理をしている人に抱きつくのはダメです。
その人が驚いて怪我をするかもしれませんよ?」
「うぐっ。でもね、でもね、リクが心配だったのよ?
ぼうっとしたリクも可愛いけど、やっぱり元気なリクが一番かなって…。
あぁ、でも憂おいを帯びた雰囲気のリクも捨てがたいし…。
うぅぅ、あたしには選べないわ。ほんとうに贅沢な悩みよね。」
ウットリとそう言いながら、お師匠様は私を抱きしめる力を強くしました。出会った時から何故かお師匠様は私に激甘なのです…。
でも、まあ仲が悪いよりはいいのでしょう。無理やり心の中で結論付けた私は野菜スープの仕上げに取り掛かりました。
「大丈夫ですよ、お師匠様。
ただ、お師匠様に拾われてからこの5年間に何度も死にかけたことを思い出しちゃっただけなのです。
何度も言ってるのに料理をしている私に抱きついていると、そんな思い出が増えちゃうかもですよ?」
笑顔で抗議することを忘れずに。