5歳児とお師匠様その2。
私の言葉を聞いた後、ショックを受けたお師匠様はしばらく部屋の隅でいじけていました。
「あの本の離乳食のレシピが悪いのよ・・・。」
「それにあたしの好きなものを食べて欲しかったんだもん・・・。」
わざと私に聞こえるようにぶつぶつ喋りながら、私へちらちらと視線を向けるのはやめて欲しいのです。まったくメンドクサ・・・コホン、手のかかるお師匠様です。
お師匠様が大人しかったおかげですぐに昼食はできあがりました。普通のパン、簡単な野菜スープ、サラダ、森で採れた果物です。まだ、5歳児の私が料理をするなんて危ないと普通は思いますよね。でも、料理をしているのにはちゃんと理由があるんです。一言でいえば、お師匠様の料理は人を殺せます。食べた私が言うのだから間違い有りません・・・(遠い目)。
なぜかレシピ通りに作ったはずの出来上がった野菜スープが紫色でドロッとして、酸臭をはなつのでしょう・・・?しかも、木のスプーンで掬おうとすればスープに漬かった先端が溶けて消えてしまいました。その先はご想像にお任せします。結果、生死の境を彷徨いましたが一命は取り留めました・・・。
この事件の後から私たちの生活は外食が中心となりました。幼い頃はしょうがないですし、私の命を守るためにも異論は唱えませんでした。でも、この迷いの森から街は遠くて数年は宿屋暮らしでした。前世が一般人の私にしてみればお金がもったいなくてつらかったんです。そんな状況を何とかしようと、4歳を過ぎた頃にお師匠様に料理を作りたいことを言ってみました。最初は、お師匠様に怪我や火傷をしたら危険だと猛反対されました。でも、私には最後の手段があったんです。
「おししょーしゃまに、おいしいごはんをちゅくりたいの・・・。」
涙目になって上目遣いに訴えるのがポイントです。大人な私では絶対にしませんが4歳くらいの幼子がすれば大人から見て大概は可愛らしく眼に映るでしょう。自爆覚悟の最後の手段です。お陰様で私の精神的ダメージは深刻で、心の中では血を吐く思いです・・・。
私の言葉を聞いたお師匠様は感極まった様子で、声にならない歓喜の悲鳴?をあげながら思いっきり抱きしめてきました。すごく苦しく抱き潰されるかと思いました。お師匠様は悩み悩んだ末に料理をする許可を私にくれましたが、本人曰く断腸の思いだったそうです。
料理を始めた最初の頃は、たくさん失敗もしました。日本のようにボタンを押せば火が付く訳でも無し、火加減の調整も難しく何度も黒こげにしてしまいました。井戸の水を汲み見上げるのは幼い私ではどうしようも無いし、私の覚束無い手元に何度もお師匠様は叫び声をあげました。でも、そんなお師匠様ですがどんなに黒こげの料理を出しても全部残さず食べるんですよ。そのことはすごく嬉しかったですし、尊敬しています。
だからでしょうね、最後はいっつも私がお師匠様に負けちゃうんです。いじけたお師匠様をなだめて、昼食を2人で食べ始めます。お師匠様は満面の笑みで代わり映えのない私の料理を食べてくれるんです。
「やーん、今日もリクのご飯すっごく美味しい。もう-、これにお酒がついたら最高よねっ。」
美味しいと大げさなリアクションを全身を使って示し、本人はさりげないつもりでお酒を希望します。私は、慌てることなく笑顔で答えます。
「お昼間からのお酒はダメですよ、お師匠様。」
「・・・あうぅ、笑顔でダメっていうリクがひどい。でも、かわいいよぉ・・・。」
お師匠様に弱い私でもこれだけは譲れないんですよ?
でも、せっかく美人なのに悲しいのか、嬉しいのかわからない微妙な表情のせいで美人が台無しになっていることは伝えないでおきましょう。




