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第4章

順子、君が結婚したことに僕は驚かなかったよ。責任感の強い君は、僕と別れた時点で、自分の身の処し方を決めていたんだろうと思ったからね。

あの日、訪ねて行った僕に、毅然と涙ひとつ見せず別れを告げた君を、僕はとても立派だと思ったよ。そして、自分も、君に恥じるような醜態を演じまいと心に誓った。

だから、君の結婚を見届けてから、翌月、僕も静かに玉砕した。


だが、この結婚は、男の子を2人もうけて、やはり、というか必然的に10年目で破局した。

離婚について、僕が弁明することは何もない。

ただ、家庭を持っても、女性とつきあっても、君の存在がいつも心から離れてくれなかった。

心から愛してやれなかったんだよ、女房も恋人も・・・。


そんな矢先、不謹慎かもしれないが、君がまた独身に戻ったと知って、僕は高揚する気持ちを抑えられなくなった。

君を教育諮問委員会に招聘したのは、僕の在任中で唯一、私情を交えてしまった人選だっただろう。でも、それを悔いてはいない。なぜなら、僕は君の前で、君に恥じない指導者であり、男であろうとやせ我慢し通したからこそ、今の僕があると思うからだ。

たとえ満身創痍になっても、ぶれない決断を貫き通してきた君を前にして、逃げ出す訳にはいかなかったからね。

そして、そんな僕を君は5年間、ずっと見守ってくれた。感謝している。

あとは、もう一度、あの日に帰って、僕たちの続きをやり直したい。それだけだ。



洋次郎さん、本当に私でいいの?

今のあなたは、私には手が届かない、遠い存在になってしまったような気がするわ。

あなたのパートナーならば、若くて綺麗な女優さん、お金持ちの女性起業家、頭の切れる専門職のキャリア・ウーマンとか、好意をもってくれてさえいれば、候補は沢山いる筈よ。

だから、なぜ私なのか、とても不安なの。

昔の名前で出ている歌手をひいきに思う程度ならば、どうか、このままそっとしておいて欲しいの。

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