第十六話 そして王都へ
戦いは、一旦終わった。
だが、本当の意味では何も終わっていない。
「……戻ろう」
グレンが言った。
「村にも報告しないといけない」
その声には、別の決意が混じっていた。
村に戻ったとき、空気は一変した。
魔物の気配が消えたことで、村人たちに安堵が広がっていた。
だが同時に、何かが動き出している気配がしていた。
村長の家へ向かう。
奥まった静かな部屋に、みるくたちは呼ばれた。
「……話さなければならないことがあるわ」
村長の声は、いつもより低かった。
「この村が襲われ続けていた理由」
「そして、私がここにいる理由」
みるくが、息を呑む。
「私は――」
少しの沈黙。
そして。
「王都の第三王妃よ」
空気が止まる。
「……その事は二人から聞いたのね」
グレンとエルナは、静かに目を伏せた。
「正式には、“元”に近いわね」
村長――いや、王妃は苦笑する。
「宮廷の権力争いに巻き込まれて……」
「表向きは“病死”ということになっているわ」
「……それって……」
「暗殺されかけたの」
あっさりと言い切る。
重い事実。
「だから私は、ここに“隠された”」
「王の判断でね」
グレンが続ける。
「我々は、その護衛兼監視役だ」
「文官という立場でな」
「……戦えないのに?」
みるくの素朴な疑問。
エルナが少し笑う。
「戦う必要がなかったからよ」
「ここは“安全なはず”だった」
だが。
「……レヴァンが現れた」
グレンの顔が険しくなる。
「あいつは宮廷時代、王妃の敵対派に属していた」
「追放されたといえ、王妃の存在を伝えていた可能性が高い。復職を狙ってな……」
重い現実が、場に落ちる。
「……このままでは、この村も危険ね」
王妃が静かに言う。
「いずれ暗殺者が来る」
「今度は確実に、ここを狙って」
みるくが、ぎゅっと拳を握る。
「……じゃあ……どうするんですか……?」
グレンが、はっきりと言った。
「王都へ戻る」
「え……?」
「本来いるべき場所に戻るべきだ」
「戦力も、情報も、こことは桁違いだ」
エルナも頷く。
「そして……あなたも」
みるくを見る。
「例外じゃないわ」
「……私が?」
「ええ」
まっすぐな目。
「あなたの力は、もう“村の中だけで隠せるものじゃない”」
ラテが、しっぽを揺らす。
(うん)
(それはそう)
「……それに」
王妃が、少しだけ微笑む。
「あなたには、確かめてもらいたいの」
「“自分が何者なのか”を」
みるくは、言葉を失う。
でも。
逃げる理由は、もうなかった。
「……行きます」
小さく、でもはっきりと。
ラテが、ぴょんと肩に乗る。
「きゅん」
(いこっか)
こうして。
小さな村での物語は、一つの区切りを迎えた。
そして、舞台は王都へ。
新たな陰謀と、真実が待つ場所へと移っていく。




