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2話 空白と充満

朝だ。鳥の鳴き声と共に目が覚める。


『…』『夢か。』

昨日の声はなんだったたんだろうか。

夢が現実かの区別もつかない。スッキリとしない朝があの日から続いていた。

ソファに横たわったまましばらく時間が過ぎた。

思い返してみる。

『ぼんやりとなにか小さな何かが俺に声をかけていた様な気がする。』

『ただハッキリとは思い出せないんだよな。』

その後も小さな独り言が続いた。


ただ不思議な夢を見ただけであって特になんの変化もない。何も無い。そう。何も無い日常だった。


それから数日はご飯も喉を通らずリビングと

洗面所を行き来するだけの生活が続いた。

飲食は水分しか摂っていない。


ふと思った。このままではダメと。

『…たまには外にでも出るか。』

ソファから起き上がろうとした瞬間

『!?』

目の前が真っ暗になった。

『……』

精神的疲労と睡眠不足、栄養不足のトリプルコンボで俺は倒れた。

『…』『…き』

まただ。またあの時と同じ声が聴こえた。

『……づき』『…て。…づき』

(ダメだ。聴き取れない。)

段々と声が遠くなる。俺はこのまま逝ってしまうのだろうかと気を失っている間に何度も思った。

何時間経っただろうか。それとももう数日経ったのだろうか?時間の感覚がわからない。このまま目が覚めないのだろうか。良くないことばかり考える。それもそうだ。ここ最近はなにもいい事がない。だからこの先もきっと何もいい事がないんだ。何も見えない。真っ黒な世界。いろいろなことを思い出した。幸せだった日常が無くなって空白になって全部壊れてしまった。自暴自棄にもなる。自分の無力さで後悔が消えなかった…

このまま死ぬのだろうか。俺の思考はなにもかもがネガティブになっていた。


よくある転生系ってやつはこういうタイミングでなるのだろうか。意識を失った暗い世界の中、思考が現実逃避を始めていた。考えたところでしょうもない事を何十回、何百回とループした。『ハハ。転生なんてあるわけないだろ…』心の声がそう言った。


『ボクガイルヨ』


目が覚めた。時計を見る。

経ったの5分しか経っていなかった。

長い時間気を失っているかと思っていたのに。

日付も確認する。同日だった。

俺はまた思い返した。


(またあの時と同じ?声が聴こえた。なんども俺の名前を呼んでいるような、でもハッキリとは聴き取れなかった。)

『今は考えるのはよそう。とにかく何か食べないとな。』


覚束ない足で近くのコンビニへと向かった。

この時間帯は通勤通学で結構人が多い。

皆んな生きる為将来の為に仕事や学業に励んでいた。俺はどうだろうか。まだあの日のことを引き摺っている。それもそうだ。まだ数週間しか経っていないのだから。それでもすぐに立ち直って前に進むやつは進むし、中々進まないやつもいる。そこで諦めて全てを終わりにするやつだっている。

(俺はどっちだ?)

進む方か?終わる方か?

くどいようだが何度もこんな事を考えている。


そんな事を考えているうちにコンビニに着いた。

俺はポテサラサンドが好きだ。

なんだかって?ポテサラが好きだからだ。

いや、厳密言えばじゃがいもが大好きだ。

カレーにはデッカいじゃがいもを入れるし

フライドポテトは細いやつじゃなくて芋感がある大きいやつが好きだ。なんなら素のまま食べれる。

というのは嘘だがそれくらい好きなのだ。


嬉しい事にポテサラサンドは残りひとつだった。

それとレモンティーとホイップ系のスイーツを購入。

会計が777円だった。なんだか少し嬉しかった。

どうでもいい話しだが俺は偶数よりも奇数の方が好きだ。ちなみにレモンティーは飲み物の中で一番好きだ。

『ふふ。』

小さな笑みが溢れたのは久しぶりだった。


自宅を出た時よりも足取りが軽かった。

そのまま自宅へと帰った。


全てを失ったあの日。

今でも好きなものを好きと思えるだけでほんの少しだけ心が救われた気がした。

そしてほんの少しだけ前にも進めるような気がした。


家に着くとコンビニで買ったポテサラサンドと

ホイップ系のスイーツを食し、レモンティーを半分一気飲みした。

久々の食事だったせいか普段食べていたポテサラサンドがより一層美味く感じた。

食事は偉大だと改めて思った。


『今日はいつもより寝れそうだ。』



眠くなってきたので少し昼寝をする事にした。

最近はソファで寝ていたのでたまにはきちんと

ベッドで寝る事にした。

『ふぅ。久々の布団。こんなにも寝心地がいいんだな。』誰かと喋っているかのような独り言を口にする。今までは喋る相手が近くに居たからな。ふとした事でまた思い出す。

『いや、今は寝る事に集中しよう。なんだかんだで寝れそうだし。』

目を瞑ると案の定すぐに眠りにつけた。


2時間くらい経った頃、目が覚める。

大きなあくびをかいた。

『よく寝たなぁ』

『っつっても2時間程度か。久々に眠りの質が良かった気がするな』

また独り言を言う。癖になったら周りから冷ややかな目で見られてしまう。気をつけようと葉月は思うのであった。

(まぁ誰かに見られているわけでもないしな。)


夜になると流石に腹は減る。

けど食べれない期間が長かった分いきなり食うと腹の弱い俺は当然腹を下すだろう。

そう思い今夜は食べるのをやめることにした。


飯を食う気力すらなかった期間があったということは風呂にも入っていないのが相場である。

葉月ももちろん風呂には入っていなかった。

お湯を溜めてきちんと浸かる事にした。


風呂は不思議だ。

今までの疲れや嫌な事がスゥっと消えていく。

様な気がするのだ。気がするだけであって

消えていくわけではないのだがそれでも気持ちはかなり楽になった。

一時間くらい好きな動画を観ながら湯船に浸かった。


風呂から出ると22時近くになっていた。

さっきまで空いていなかった腹が空いた。


『面倒だがなにか買いに行くか。』


今朝と違って人通りが少なく静かな住宅街。

オレンジ色の街灯が今の俺の心をほんのり暖かくしてくれる。


(コンビニじゃなくて久々にカレーでも作るか。)


外で独り言言うと誰かに見られているかもしれないので心の中で語った。

深夜まで営業している徒歩圏内のスーパーへと着いた。



スーパーと言えばこの音楽。

(よびこみくんだ。)


俺はこの音楽を結構気に入っていた。

着信音にしたいくらいのお気に入りだ。

まぁいまはそんな事どうでもいい。


カレーの具材とお茶、レモンティーを買う事にした。もちろんじゃがいもはたくさん入れるので二袋買った。もう一つ言うと俺はカレーは鶏肉派だ。豚肉ではない。


買い物を終え、速やかに自宅へと帰った。


『よし!作るか!』


省略


じゃがいもゴロゴロカレーが8人前できた。

『三日間は食えるな』

『食パンも買っておいて良かった』


何週間ぶりかの自炊。そしてきっちりとした夜ご飯。


頗る美味かった。おかわりをした。

コップについだお茶を一気飲みして

『ご馳走様でした』


食器を速やかに洗い歯を磨いて今日は早めに寝る事にした。

気を失ったかのようにスゥっと眠りについた。


『ハヅキ…』

ハッキリとは俺の名前を呼ぶ声が聴こえた。

『やっと聴こえたみたいなのん』

『アタシの姿もみえてるはずだよん』

俺は夢の中で目を覚ます。

そこには大きな襟の服を着た大きな耳の小さな灰色のもふもふが居た。

見た目はウサギのようだ。

俺はウサギが喋っている事にビックリして唖然としてしまい黙ってしまった。

『おーーい?きこえてるん?』

『あぁ。すまん。ビックリして黙ってしまった。』

『ちゃんと聴こえてるよ。』

そりゃビックリもして黙るだろうよ。

現実世界に喋る動物なんて存在しないんだから。

それが流暢な完成日本語を喋ってるんだから。


『君が俺の事ずっと呼んでたのか?』

俺は冷静にそのウサギに質問をした。


『そうなのん!あの日の夜からずっとハヅキを呼んでたのん!やっと会えてよかったん!』

俺の質問を嬉しそうに答えてくれた。


『君の名前は?』


『アタシの名前はグルゥムゥ』

『グゥって呼ぶといいのん!』

見た目に反した強そうな名前にまた少し驚きを隠した。

『グゥか。わかった!』

『ところでなんで俺のことを?』

また質問する。


『アタシはハヅキが産まれた時からずっとハヅキの中に存在し続けていたの。ハヅキを護るために。』


昔母から聞いた話だが、

俺は産まれた時に一度生死を彷徨ったらしい。

その時助けてくれたのがグルゥムゥだったのかはわからないがその頃から俺のそばに居たらしい。

今思えば怪我をした時も病気した時も周りの奴らより治りがかなり早かった。


『全く気付かなかった…今まで見守ってくれてたんだな。』


俺がどん底へと堕ちかて死ぬか生きるか迷っていた時にグルゥムゥが俺の前に現れたというわけだ。

なかなか声が聴こえなかったのはどん底で何もかもシャットアウトしていた所為らしい。


『ありがとぅ。グゥ。』

俺はグゥを抱きしめながら言った。

『苦しいのん!』


唐突にグゥは言った。

『アタシと旅に行くのん!』


3話に続く


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