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狼皇子はウサギ令嬢を離さない~泥棒から始まる甘い溺愛~  作者: 伊賀海栗


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第28話 事件って解決したあとのほうが大変なんですよね


 帝国のお城のパーティーホールはイスター王国のそれよりも華やかです。様々な人種が集まる国だからでしょうか、壁紙にしろシャンデリアにしろその意匠は独特の色彩をもっていて美しい。


 以前ネイト殿下に拉致されそうになったパーティーでは、ダリルさまから率先していろいろな方に声を掛けていましたが今夜は逆。多くの貴族が我先にと私たちのもとへ挨拶に来るので疲れてしまいました。

 でも仕方ありませんね。だって今夜は私とダリルさまの婚約披露パーティーなんですから。まだ実感ないけど。


 小さく息を吐くと、ダリルさまが肩口から覗き込みました。


「疲れた?」


「ちょっとだけ」


「俺はすっげぇ疲れた。ちっと外の空気でも吸お」


 片目をつぶって見せたダリルさまは多分、私のために疲れた振りをしてくれたんだと思います。お言葉に甘えて頷くと、ダリルさまが私の手をとりました。並んで歩くこともすっかり自然になったなと、ちょっと照れくさいような気持ちになったとき。どこからか陰口が聞こえてきました。


「伯爵令嬢でしょう? 弱みでも握ったのかしら?」

「体ではなくて? だってウサギさんだもの」

「見た目には慎ましやかだけど、ベッドでの技術的なお話?」


 思わず胸に手を当ててしまった私に、ダリルさまが吹き出して笑います。ひどい。でも気にするなとでも言うように私の腰を強く引き寄せました。そして。


「にわかには信じがたいが……我が国の若いご婦人にとって婚前交渉は基本的な嗜みらしい。そうでなければ身体が目当てだなどという発想が出て来るはずがない。いやはや、時代は変わるもんだな」


 だなんて大きな声で言うものだから、ざわざわしちゃって大変です。

 顔を真っ赤にしてこの場を離れようとする女性と、それを指差してこそこそ耳打ちする人たち。それに怒り出した年配の男性は彼女たちのお父様方かしら?


「なんてこと言うんですか」


「んー? だいぶ平和的に解決したほうだろ」


 確かに皇子殿下の婚約者を馬鹿にした以上、普通ならもっと大きな問題にされると言えばそうなんですけど。解決したと言っていいかは正直疑問です。まぁいいか。


 ダリルさまに連れられてやって来たのはバルコニーです。星々が競うように輝く空の下で火照った頬を冷ますことにします。


「いやーしかしやっとここまできたな」


「ふふ。やっとって言うかたったの半年、異例の早さなんですけど?」


 皇太子を決めるための決闘から気が付けば半年経っていました。

 この半年は社交期だったというのに、どこか盛り上がりに欠けるというか……。


「なに笑ってんの」


「こんなに盛況なパーティーは久しぶりだなと思って」


「まぁねぇ。みんな明るい話題が欲しかったんだろうな」


「それはそうかも」


 継承権争いからこっち、帝国内はゴタゴタして大変だったのです。


 まずネイト殿下の脱獄に関しては想定されていたものだったそうで、協力者と合流したところを一気に叩いて計画を潰しました。

 それから一連の事件には皇妃さまも関わっていたことが発覚し、皇妃さまとネイト殿下は他国と共謀して国家の転覆を謀ったとして死刑。刑の執行もそれはもう迅速に運び、関係を疑われたくない後ろ暗い貴族が多くいたことがわかります。


 その()()というのはもちろんラガリア共和国を指します。戦争も危惧されたのですが、先方が関係者を切り捨てた上で全面的に非を認めて謝罪。領土の一部割譲と、誘拐被害者の救済支援とで平和的な解決にいたりました。それはそれとして、ラガリア共和国は我がイスター王国へも賠償金を支払っていますので、長くは持たないかもしれません。

 もちろん帝国もイスター王国への賠償義務はあるのですが、帝国内のバニール族の扱いと合わせて協議中だそうです。


 また、皇帝陛下は体調の悪化を理由に年内での譲位を決定なさいました。本当の理由は責任をとって、だそうですけど。ラガリア共和国を「狡猾な猫族」だと評し、皇妃さまも計画的に近づいて来たのだろうと複雑な心境を吐露してました。

 皇妃さまの件と譲位については、以前私が皇帝陛下にお会いしたときにケネス殿下に相談されていたそうです。それで私だけ外に出ろって言われたんですね。


 今夜の帝都は民もお祭り騒ぎです。お城のバルコニーから賑やかな帝都を眺めて、ダリルさまが穏やかな笑みを浮かべました。


「窃盗団を含めて被害ウサギの捜索もだいぶ進んだし、次に進んで行かないとな」


 窃盗団の多くは、売れ残ったバニール族や望まれずに生まれて捨てられたバニール族でした。転身できない者は調査や追っ手を混乱させる役。転身できる者は窃盗の実行役というふうに役割分担まである、そこそこの規模の組織だったことが発覚して驚きましたけど。


 彼らの罪はもとをただせばネイト殿下の罪。本人たちには少しの間だけ軽度な労役を科して、その間に社会で受け入れるための施策を打ち立てていくことになります。もちろん、帝国の偉い人たちがですけど。


「あの男の子だけ特別扱いみたいになっちゃいましたけど、大丈夫でしょうか」


「いーよいーよ。労役って年齢でもないし、鍵を盗んだって言いに来たのは自首みたいなもんだろ。助けを求める子どもは助けてやらないと」


 私の前に何度か姿を現した少年はやはり窃盗団の一員でした。ネイト殿下の収監されている牢の鍵を盗むこととなったとき、またこの生活が続くのかと誰もが絶望したのだと言います。少年はまだ小さいので主要な役割がなく、隙を見て私に助けを求めに来たとか。

 今はロビン殿下のもとで雑用をこなしながら礼儀などを学んでいるところです。


 ダリルさまは穏やかな笑みのままこちらへ顔を向け、手を伸ばして私の髪に指を絡ませました。彼のそういった仕草のひとつひとつに愛情を感じて、私としてはなんだかくすぐったい気持ち。


 私もずっと溢れっぱなしの好意と幸せをどうにか伝えたくて、髪をいじる彼の手をとって頬ずりをしました。大好きな手、大好きな人、ここが私の居場所……。




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