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狼皇子はウサギ令嬢を離さない~泥棒から始まる甘い溺愛~  作者: 伊賀海栗


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第21話 わかりやすい罠だなって気付くのはいつも罠にかかってからです


 バニール族で組織された窃盗集団はネイト殿下の配下です。もし先ほどの少年が窃盗集団に属しているのだとしたら……。

 慌てて城内へ戻ろうとした私の背後で、土を踏みしめる音がしました。


「ペットはペットらしくケージに入ってないと」


 ネイト殿下のお声です。振り返ると若い男性がいましたが、城からの明かりが逆光となって表情が見えづらい。


「ペットですって?」


「そうだ。お前は売り出され、それを俺が買った。俺がお前の飼い主で所有者だ。ダリルじゃない」


 一歩また一歩と近づくネイト殿下が明かりの照らす範囲から出ると、ようやくそのお顔が確認できました。それはまるで探し物が見つかったとでも言いたげな、嬉々とした表情で。

 同じ人間を相手に軽々しくペットと言えるその感性が理解できなくてゾッとします。


「ダリル殿下が飼い主でも所有者でもないのは確か。でも、あなたはもっと違うわ」


 伸びて来た手から逃れるように身を引くと、その分だけまたじりじりと近づいてくるネイト殿下。後じさった私のかかとが花壇のレンガを探り当て、もうあとがないことに気付きました。


 転身すれば逃げられるかもしれないけど、ドレスに埋もれてしまうので一か八かの大博打になってしまいます。それに――。


「素晴らしいネックレスじゃないか」


 勝ち誇ったような笑み。彼は私の首にかかる金真珠が前皇妃さまの形見であることを理解してるんだわ。転身すればこのネックレスを置いて行くことになるぞ、という脅しに他なりません。


 転身するか否か。その一瞬の迷いをネイト殿下は見逃しませんでした。素早く掴みかかる彼の手を払い落とそうと、私はただやみくもに手を振り上げます。


「いやっ……!」


 しかし私の手は何に当たることもなく空を切りました。私が手を上げるより一瞬早く何か黒くて丸いものが目の前を横切り、ネイト殿下の小さな悲鳴が暗い庭に響き渡ったのです。


「痛っ! くそ、なんだっ?」


 私の目には黒い何かがネイト殿下の顔へ強かにぶつかったように見えました。のけぞる殿下と、足元に落ちた黒いもの……。


「ぶっ」


 ウサギだ。ウサギでした。後ろ足をタシンタシンと踏み鳴らす黒いウサギ。さっきの少年とはまた毛色が違うし、こちらは大人のウサギです。一体バニール族はここに何人いるんでしょうか。

 それはそうとボケっとしている場合ではありません。千載一遇のチャンスですから逃げなくては!


「このクソウサギが!」


 ネイト殿下に背を向けようとしたそのとき、彼が足元で威嚇するウサギを蹴り飛ばそうと一方の足を背後へ引くのが視界に入りました。


「やめてっ!」


 黒ウサギを庇い抱き上げるつもりでしゃがんだのですがもちろん間に合いません。が、さすがウサギの敏捷性と言うべきでしょうか。ウサギのほうから私の腕に飛び込んで来てくれました。ありがとうございます。


 ふわふわの黒い毛玉を胸に抱え、目標に避けられたせいで態勢を崩したネイト殿下を尻目に駆け出します。

 ただ逃げると言っても……。私がこの庭へ出るまで警備の兵に遭遇しなかったと言うことは、ネイト殿下の指示で動いているに違いありません。安易に城内へ戻ればすぐに捕まるか、相手の意図した方向へと誘導されてしまう可能性が高いと考えられるわけで。


「どこに行ったらいいと思う?」


「ぶぶっ」


 いくら同じバニール族でも、さすがにウサギの鼻音だけでは何言ってるかわからないわ!


「おい、待て!」


「きゃー思ったより声が近いっ」


「ぶっ!」


 転身していない上に、ドレスを着てウサギを抱えながら走るという制限まであってはネイト殿下に捕まるのも時間の問題です。なのでとにかく早く隠れないと。彼は純粋な猫ではないし、夜目は利かないはず。


 元々薄暗い庭の中で、より暗く灯りのないところばかりを選んで奥へ進みます。


「くそ、どこに行った……」


 悔しそうなネイト殿下の声を背後に、大きな木の下にうずくまってゆっくり呼吸を整えました。

 ちょっとここに隠れて、隙を見て逃げるのがいいと思います。警備兵だっていつまでもおかしな動きはできないでしょうし、ダリル殿下やケネス殿下が異変に気付いて探しに来てくれるはずですから。


「ぷ」


「しー、静かにし……あら? あなた、この傷は」


 ふわふわの毛に埋もれて見えづらいのですが、前足の一部は毛がなくて皮膚が赤くただれていました。だいぶ治ってきているようですが、これは……火傷かしら?


 と、ウサギの怪我の様子を一生懸命観察していたその時。黒ウサギは私の身体を蹴って腕の中から飛び出してしまいました。


「――え」


 大きな声を寸でのところで耐えた私の腕を、背後から伸びて来た手が強く掴んだのです。

 ウサギは後ろまで全方向見えるけど人間の身体ではそうもいかないし、火傷に気をとられていて全く気付けませんでした!


「聞き分けのないペットにはお仕置きが必要だ」


「ひ……っ!」


 ネイト殿下でした。気持ち悪い!

 彼に掴まれたところを中心に肌が粟立ち、生々しい恐怖が背筋をせり上がってきます。吐き気が先立って悲鳴さえ出ません。


「大人しくこっちに来い」


 抗いきれない強い力で木陰から引きずり出されました。掴まれた腕は痛いし、引っ張られて肩も痛い。敬意が感じられないどころか、ヒトとしても扱われていないのがわかります。


「や、離して……っ」


 同じ獣人なのにどうしてバニール族ばかりこんな目に。悔しくて、怖くて。泣きながら抵抗していたらネイト殿下が一層その手に力を込めました。


「いい加減に――」


 これ以上耐えられないと目の前が真っ白になったその瞬間、私の肩が温かなものに包まれて引き戻されたのです。そして、感情を押し殺した低く掠れた声。


「触るな害獣が」


 薄暗い庭の中、ネイト殿下の首筋で銀色の金属が冷たく煌めいていました。ダリル殿下が私の身体を抱き寄せ、右手ではネイト殿下に剣を突きつけたのです。鋭く、蔑むような目で睨みながら。





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[一言] やめて! 私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!
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