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第18話 デカイ耳の聴力を考えてから囁いてもらいませんと


 そんなこんなで、夜会の時間が迫り。ケネス殿下は婚約者の女性と一緒に出席されるのだと言って、いったんご自分のお屋敷へ戻られました。私もお城での夜会に堪えるドレスに着替えたのですが……。


「アクセまで気が回らなくて悪い」


「いえ、そんな」


 以前お買い物に出かけた際にアクセサリーもいくつか買っていただいてるんですけど……国を挙げての夜会に相応しいものかというとちょっと難しいのですよね。やはり物にも格があって、しかも今夜は皇子のパートナーとして参加するので。


「あ、でも待って。確か――」


 ダリル殿下がご自身のお部屋から持って来たのは金色に輝く真珠のネックレスでした。そもそも真珠が希少だというのに、ゴールドパールは産出地が限られていて目にすることさえ稀。そんなものをなぜダリル殿下が、と思っていたら母君の形見なのだとか。


「こんな大切なものお借りできません」


「母上はパートナーに恥をかかせるほうが怒るから俺のためにも首元くらいは飾らせてくれ」


 眉を下げたお顔があまりにも可愛らしくて、私は頷かざるをえませんでした。お母さまに叱られてしまうんじゃ仕方ないですね。


 で、着けてみたはいいのですが。


「サイズがまるで合ってないな。こんな長いやつじゃなかったはずだけど」


「ウルフィーの血が混じる皇妃さまとバニール族を同列に並べちゃダメです」


「ぶふーっ! そりゃそうだ。ちっと後ろ向いてみて。確か長さは調節できたと思う」


 鏡に向かって立つ私と、その背後でネックレスを調節するダリル殿下。彼の指が首を掠めるたびにぞくぞくした感覚が背筋を這い上がってどうにも落ち着きません。

 でも、「あれ?」って呟きながらネックレスと格闘する姿は可愛らしい。手はあまり器用じゃないみたいですね。


「よーし、見られる長さになった」


 本来、鎖骨の少し下で揺れているべき真珠がもう少しだけ下方にいますが、確かに先ほどよりはずっといいです。薄いピンクのドレスには殿下の髪色によく似た光沢のあるダークグレーの糸で刺繍が施され、ほんのり大人っぽい雰囲気。

 横に立つダリル殿下は式典用の軍服をお召しになっていてとってもかっこいいです。確か殿下は第一インペリアル竜騎兵隊の隊長だって言ってたと思うんですが、こうして制服姿を見るとそれを実感しますね。うう、かっこいい。


「なに? 俺の顔なんか変?」


「顔っていうか……いえ、なんでもないです」


 見惚れてただなんて絶対言えませんからね。

 というわけで準備が整った私たちは城へ向けて出発することにしました。


 道中の馬車では耳が垂れちゃうんじゃないかってくらい「俺か兄上の傍から離れるな」って言われて、それはもう大変だったんです。心配してくれてるわけですから私も素直に聞くしかなく……しなしなになった耳を整えているうちにお城に到着。

 帝都のどこからでもその威容を見ることができるほど立派なお城ですが、門の中へ入ると一層その広さを実感します。イスター王国の王城の倍くらいありそう。


 本日の夜会は帝国主催のものではありますが、継承権争いで城を出ている皇子たちはこの期間中だけ皇族の扱いではなくなるそう。そして、会場内でのメダルの奪い合いも禁止。要するに水面下で争えということですね。

 ですので、私たちは一般の招待客と同様に案内に従って会場へ。城の従者がダリル殿下の入場を高らかに告げると、たくさんの視線が一斉にこちらへと向けられます。


「こんなに注目を浴びたのは人生で初めてです」


「みんなメダルの有無が気になってんだ」


 確かに男性諸氏の視線のほとんどはダリル殿下の胸元を探っているようです。が。若いご令嬢の視線は絶対こっちを向いてます。冷たい、値踏みするような視線。怖。


「あのウサギさん、どなた?」


「どうしてダリル殿下とご一緒なのかしら」


「ほらネックレス御覧になって」


「ゴールドパールだなんて。まさか彼の瞳に見立てた……?」


 全部聞こえてますー!

 また耳がしなしなになりそう。あらぬ誤解を生んでいそうな気がするので、おひとりおひとりに説明して回りたいくらいです。私は残念ながらネイト殿下の意識を引き付けるために連れて来られただけですって……待って、それはまた別の誤解を生みそう。


「ウサギってほら、ずっと発情してるから」


「やだ汚らわしい」


 発情してませんけど!

 思わず足を踏み鳴らしそうになった私の腰に、ダリル殿下が腕を回しました。


「今日だけそのデカイ耳は飾りにしとけ」


「そうできたらいいんですけど」


 耳に入って来てしまうものは仕方ありません。気にしないように頑張るけど。オオカミ獣人の血が混じるダリル殿下だって耳はいいんだから難しいってわかるはず……純粋なオオカミ獣人じゃないからそこまで聞こえないのかな。


「俺の声だけ聞いてて」


 ぶすっと唇を尖らせた私の耳元に口を寄せて殿下が囁きました。


「――っ?」


 ぞわってした! ぞわってした!

 何かこう痺れるような感覚がぶわーって駆け上がってきて、陰口とかどうでもよくなりました。こういうのを結果オーライと言うのでしょうか。ありがとうございます?


「さっき馬車で言ったこと、ちゃんと覚えてる?」


 耳元で囁かれた言葉はまず間違いなく私にしか聞こえていません。

 ですが。腰に回された腕と耳にかかる吐息のほうが気になって、正直それどころじゃないのです!


「ええっと……ぜんぶ忘れました」


「アンタまじでさ……。まぁいいや。俺は途中で外に出るから、その間は兄上から離れないでってこと」


「あっ、ああ、そうでした。はい」


 確かに耳がしなしなになる前はそう言っていた気がします。メダルの奪取は会場内で禁じられているだけで、別室であれば黙認されますから。ダリル殿下はネイト殿下が持ち運ぶであろうスペアのメダルを探しに行く計画だとか。


 しっかりしてくれよと苦笑を浮かべてダリル殿下が私の腰から腕を離したときでした。


「兄さま、ずいぶん可愛らしい女性をお連れですね。ご紹介いただいても?」


 少しだけ縦に長い楕円の瞳孔を煌めかせ、ネイト殿下が歩み寄って来ました。




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