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HEAVEN!へヴン!HEAVEN!4  作者: coconeko
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五人組

「旦那。はっきり言っちゃあいけませんぜ」

 禿げ頭がそう言って、青年が馬から馬車へ移動するのを手伝う。

 青年は馬の鼻面を撫でてやると、手を借りながら、元いた場所へと座りなおした。

 青年に続いて、彼の連れも、何事もなかったかの様に、元の場所に収まった。

 しかし、ほかの乗客たちはそうもいかない。みんな固まったまま、まだ呆然としていた。

「タカ。お前後で覚えてろ?」

「あらやだ。手下いじめよ。手下いじめだわ」

 そんな呑気な会話が、彼らの行動と、まったくもってちぐはぐしているのだが、本人たちは気にした様子もない。

「キャルちゃん、すまないね」

 怪我をした御者を手当てしていた黒髪の美女が、金髪の少女の頭を撫でた。

「ほら。なにせこの人、目立ちたがりで寂しがりだろ?こんなこと言っているけど、セインさんとキャルちゃんに、ちゃんと褒めてもらいたいのさ」

「な!ば!馬鹿言ってんじゃねえよジャムリムお前!」

「へー」

「ふーん」

「あー」

 なんだか、どんどん変な方向へ話が流れていく。

「あ、あのお・・・」

 手当てが終わったらしい、御者がおずおずと手を挙げた。

「発車してもよろしいでしょうか?」

 もっともな提案をする。

「馬はみんな無事ですし、点検をして、走れるようなら動いたほうが良いんじゃねえかと」

「ああ、ごめんね。それはそうだね。ほかの乗客の皆さんも、何事もありませんか?お怪我は?」

 御者の提案を受けて、セインと呼ばれた眼鏡の青年が馬車の中を見渡した。それに、乗客全員が頷く。

 眼鏡の青年の問いかけが合図になったのか、ようやくこの場所から移動できると安心したからか。乗客たちはいそいそと、各々の位置を確認し、落ち着ける場所を見つけて席に着いた。

 駅馬車に、ようやくいつもの賑わいが戻る。

 それを見て乗客に何事もないのを確認すると、御者は荷台を降り、車輪や馬たちの綱などを点検してゆく。

 何事かがあってはまずいので、護衛に禿げ頭がついた。

「あの」

 御者が、裂けた幌の応急処置をしながら、小さく尋ねた。

「お宅ら、どういう団体さんで?」

「あー?あー・・・。うん。普通、そう思うわなあ」

 ぽりぽりと禿げ頭を掻きながら、うーん、と唸った後。

「どういう団体かって言われたら、何でもねえんだけどもよ」

 などと言うが、あの腕の立ちっぷりで、何でもないわけがない。

「どっかのお偉いさんの護衛かと思ったんだがね」

 御者が言うのも尤もで。

「護衛っちゅうか、護衛を訓練しに行くんだけどさ」

「へえ!そりゃ、達人なんでしょうなあ。強いわけだ」

 妙に感心しながら、御者がにっこりと笑った。

「で、ものは相談なんだがね?」

「は?」

 つまりは、目的地に着くまででいいから、用心棒をしてくれないか、という事だった。

 たしかに、普通駅馬車には用心棒が付くのが当たり前だ。用心棒がいたって、先ほどのような盗賊や山賊に狙われるのだから、いないほうがおかしいのである。

「今回は、ほれ。あの町で足止め食ったうえに、用心棒なんざ雇っている余裕もなかったしな。崖崩れやら倒木やらで、そっちのほうに人件費取られちまったから」

 この駅馬車に乗った町では、ちょうど嵐に遭遇したのと、へんな泥棒集団が発生した。おかげで、足止めを食いそうになったのだが、爆発騒ぎや盗難騒ぎのおかげで、ルートを変えてでも駅馬車を走らせることになったのだった。

「報酬は出るのかい?」

「もちろん!大きな町に着いたら、組合に掛け合ってはずんで貰うよ!」

 護衛を勤めるような連中を訓練するのだから、下手な護衛よりよほど腕が立つに決まっている。

 真剣な面持ちの御者相手に、禿げ頭はつるりと頭を撫でて、にやりと承諾した。

「よし。旦那がだめでもおれっちとキャプテンで何とかなるしな。金になるならやるぜ」

「おお!ありがてえ!あんた、名前は?」

「おれっちはタカってんだ」

「じゃあ、タカ。よろしく頼むよ!」

 にこにこと頼まれて、悪い気はしない。タカは、これで商売が出来たとばかりに、上機嫌で幌の中の定位置に戻って、他の四人に用心棒の件を説明した。

 御者は御者で、御者台に戻ると、乗客全員の定員数を確認し、よっぽど安心したのか、鼻歌交じりに馬車を発車させる。

 馬車はゆっくりと動き出し、どんどんスピードを増していった。

 この御者もほかの乗客も知らないことではあるのだが、運が良かったというべきか。

 確かに、この五人にかかれば大船に乗ったも同然である。

 タカは泣く子も黙る海賊船クイーン・フウェイル号の一味だし、彼がキャプテンと呼ぶ男こそ、そのまま海賊王と名高いキャプテン・ギャンガルド本人であったし、金髪の少女は、見た目こそ可愛らしいが、これでもゴールデン・ブラッディ・ローズの二つ名をもつ凄腕のヘッド・ハンター、キャロット・ガルムその人である。

 そして、一番謎な眼鏡の青年なのだが。彼は数か月前に、キャルが引き抜いた伝説の聖剣、大賢者セイン・ロズドの本体であり、化身である。

 まったくもって、そうは見えないが。

 ちなみに、黒髪の美女はジャムリムという。ギャンガルドの愛人であり、今のところ、海賊王を制御できる唯一人の貴重な人材だ。

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