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二度目の転生は上手く生きていきたい  作者: 江藤乱世
第四章 ~ギルド~
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ある男性は逃げるようです

 その男には特徴がなかった。顔も体型も身長も声もどこかで見たことがある、聞いたことのあるような、そんな誰の記憶にも残らなそうな男だった。

 そんな男は目立つことなど顧みず、街の中を疾走していた。


(避けた! ついに避けたぞ!)


 男は人目につかないように裏路地を駆け抜けながら、興奮した様子でこうなった経緯を思い出す。


(暗部の訓練生の一人で、もうすぐ暗部として仕事をすることになると噂されていた。そんな折に言い渡されたのがある少年を監視するという任務。言い渡されたのは俺を含めた三人。資料を見る限り何の変哲もない少年でしかなく、俺を含めた三人は期待されていないと思った。現に今まで俺を持ち上げていたやつらも、俺を見下すようになった)


 経緯を思い出しながら、男は務めて冷静であろうとする。そうしなければ高揚感に飲み込まれてしまい、次の目的が達成できない可能性があるからだ。


(ノーレス様は警戒は怠るなといい、ばれた場合はすぐに白状していいと言われた。その言葉を聞いたときは期待されていないと絶望したものだが、現実は違った)


 頭は昔を思い出しながらも、それでも周囲の警戒は怠らない。いつでも対処できるように体を動かし続ける。


(意味の分からない方法で居場所を特定され、意味の分からない魔法で拉致された。それから俺たちは認識を改めた。これは本当に重要な任務なのだと。ただ、暇そうだからとアルヴァにいろいろな技術を実戦形式で教え込まれ、課題を課せられたことには驚いたが)


 そして男は今日初めて課題の一つである、『アルヴァの手を回避する』というものをクリアした。その瞬間、次の課題に移行する。


(とにかくこのままノーレス様の元へ向かおう。それが次の課題だ。条件はできる限り裏路地を通ること。それだけだ。そしてこれを成功させれば、アルヴァからどんな知識でも一つだけ手に入れられる。それがどれほど重要か、今なら理解できる)


 今でもアルヴァがこの国に知識を与えていることは知っていた。ただそれはアルヴァが問題ないと判断した範囲であり、いかにそれがこの国では画期的でも、隣国と比べればそれほど優れたものでないことは想像できる。そんな中でどんな知識でもと言われれば、男がノーレスのため、ひいては国のためにがむしゃらになるのは当然だった。


(そうである以上、この課題がただノーレス様の元へ向かうだけのはずがない。必ず妨害があるはずだ)


 男はそう理解しているが故に、最速でノーレスのところへ向かう。隠れながら向かうという選択肢はない。隠れたところで謎の技術で見つけられてしまうのは経験からわかっていたからだ。

 しかし、何もないまま男は王城まで半分の道のりを走破してしまう。何もないのかとあるわけもないのにそう男が考えた、まさにその瞬間だった。


「見つけました」


 唐突に聞こえたその声に男は足を止める。そしてやはり来たかと考えながら、男は武器を構えた。


「なかなか見つからずに苦労しました。いつの間に周りと同化できるようになるまで魔力操作が上手くなったんですか?」


 アルヴァが何もない空間からそんな言葉とともに現れる。そして、男と正対した。

 男はアルヴァの言葉に男は心当たりがなく、首を傾げた。


「あれ? 無意識なんですか?」


 アルヴァは不思議そうに、確認するようにそう言った。男はなおも何を言われているのかわからず、ただ何が起きても良いように警戒する。


 そんな男の反応に何かを察したのか、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「なるほど、魔力操作ができるようになり、見つかりたくないという現状と本人の資質が合致した結果、と言ったところかな?」


 アルヴァは男に説明する気はないのだろう。自分に言い聞かせるようにそう言う。


「誇っていいよ。この僕の索敵を短時間とはいえ誤魔化し、見つけられなかったんだ。隠密技術だけなら、この国の誰よりも優れているよ」


 その言葉に男は内心嬉しかった。最近は仲間内で馬鹿にされることしかなく、アルヴァに出会ってからはどれだけ努力しようと出し抜くことは出来なかった。そんな相手が少しの間とはいえ、手こずったと認めたのだ。その事実が嬉しくないわけがなかった。


「へぇ、お褒めに預かり光栄だな」


 しかし、男はそんな内心を表に出さない。それはただの下に見られたくないという虚栄心からくる行動だった。

 そんな男の内心を知ってか知らずか、アルヴァは笑みを浮かべたまま続けた。


「本当ならあなたに決めてもいいんだけど、ノーレスさんとも相談したいし、他の人たちにも機会は必要だろうから、とりあえず試験を続けようか」


 その瞬間、アルヴァからの圧が男に襲いかかる。アルヴァがスキル【威圧】を使ったわけではない。ただアルヴァが放つ魔力と男の魔力が接触し、男がアルヴァの魔力に圧倒されたが故の圧だった。


「城を目指すことじゃないのか?」


「そのつもりだったんですけど、さっき事情が変わってしまって。詳細は省きますが、僕は暗部の一人を本格的に鍛えようと思っています。さっきも言いましたけど、僕の手から最初に逃れたあなたでも良いのですが、やはり皆の平等な機会がないと不公平です。かといって最初に目標を達成したあなたに何もないのは心苦しい。なのであなたにチャンスをあげます」


 そう言ってアルヴァは微笑んだ。


「一撃です。僕の一撃を回避してください。それで合格にします」


 その拍子抜けな内容に男は内心笑みを浮かべた。なにしろ男は先ほどアルヴァの手を避けたのだ。もう一度できる保証はないが、とはいえできる可能性は高いと男は考えた。


「別に回避だけじゃなくてもいいんだろ?」


 男はそう言ってニヤリと笑う。その表情を見て、アルヴァは一瞬何を言われたのか分からなかったようにきょとんとした表情になったが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。


「そうか、そうだよね。僕の実力なんて見たことないんだから分からないよね。いいよ。僕に先に一撃を入れても合格だよ」


(その言葉を待っていた。いくら知識で優れようと、所詮は成人したての子供。不意打ちならまだしも、正面からで反応できないほどじゃない)


 いつもの掴まれる速度から男はそう考える。そもそもそれこそがアルヴァの言う「僕の実力なんて見たことないから分からない」と言うことなのだが、男は浮かれていてそれに気づかない。


「じゃあ、行くよ。魔力操作をやめないでね?」


 アルヴァはそう宣言してから動き出す。そのおかげで男にはアルヴァの動きが丸見えだった。


(これなら対処できる!)


 男がそう確信したまさにその瞬間、アルヴァは急激に加速し、そして姿を消した。


(これはいつものやつか! どこだ!? さっきみたいに避けられるか!?)


 男は先ほどアルヴァの手を回避した時と同じように周囲を探る。感覚が不確かだったそれは男の不安とは裏腹に、アルヴァの出現を感知した。


(右後ろ!)


 男はほぼ反射で振り返った。

 間に合う。男にはそう確信があった。しかしーーーー


(え? 速ーーー!)


 しかし、アルヴァの速度は男の想像より遥かに速く、男の反応速度を軽々と上回る。思考は動くが、体が間に合っていない。

 実際の時間では、男がアルヴァを感知した次の瞬間には、アルヴァの右ストレートが男の脇腹に突き刺さっていた。

 男の口から殴られた衝撃で空気が漏れ、声にならない声が出る。そしてそのまま吹き飛び、建造物の壁に激突し、停止する。そこで男の意識はぷつりと途切れた。




(ここは……)


 男が目を覚したのは、それから十数分経ってからだった。男は意識が朦朧とし、うまく思考を動かすことが出来ない。しかし、徐々に先程までの状況を思い出していく。


「っ……!」


 アルヴァに攻撃されたことを思い出した瞬間、男の体に激痛が走り抜け、思わずうずくまった。


「痛いのは気のせいですよ。急激に回復したせいで体が治ったことに気づいてないだけです。そのうち良くなります」


 男は声のした方に顔を向ける。そこにはアルヴァが暇そうに魔石をいじっていた。


「……よく治せたな」


 男はゆっくりと体の調子を確認しながら起き上がった。ちらりと男が吹き飛ばされた方を見れば、ぶつかったと思われる壁は凹んでおり、血のような赤い液体が付着していた。

 男の感覚からすればアルヴァの攻撃の感触は重症、もしくは致命傷になってもおかしくないものだった。にもかかわらず、男の体には異常は認められなかった。


「そのくらいなら出来ますよ」


 アルヴァの答えに男は苦笑した。


(そうか、よく考えれば当たり前だ。こいつの知識は絵空事のような信じられないものだ。それを証明するためには使ってみせるしかない。それがアルヴァには可能なんだ。あのノーレス様が認める者がただの頭がいい少年のわけがないか)


「さて、確認も終わったので、僕はノーレスさんにお願いに行ってきます。あなたも出来れば一緒に来て欲しいんですけど」


「まだ体の調子が悪いんでな。少し休んでから行かせてもらう」


「そうですか」


 アルヴァはそう言って歩き出した。


「なぁ、一つだけいいか?」


「なんですか?」


 男が声をかけると、アルヴァは立ち止まって振り返った。


「気になったんだが、俺はさっきの攻撃でかなり重症だった気がするんだ。まさか死んでて、蘇生されたわけじゃないよな?」


 男としては半分冗談のような問いかけだった。アルヴァはどんなことが出来るのか。それを少しでも知ろうと思っての問いかけだった。


「面白いこと言いますね。蘇生なんて夢のような魔法、あると思いますか?」


 その答えに男は引っ掛かりを覚えた。アルヴァの言葉選びは迂遠で、後で違うと言われても嘘にならない言い回し。まさかと思いながら、男は言葉を続ける。


「それって答えてないよな? 俺は本当に死んでないんだよな?」


 男の問いかけに男は目を逸らした。その表情は事実を雄弁に語っていた。


「ま……まぁ、そんなことは良いじゃないですか。とりあえず、元気になったら来てください」


 アルヴァはそういうと、今度はその場から消えた。


(嘘のつけないやつだな。人間味のないやつだったが、最後は普通の子供だったな)


 人間離れした知識や魔法を使えるアルヴァが、男を殺してしまい、それを蘇生したことを隠そうとしている様に、まるでイタズラが見つかってそれを隠そうと嘘をつく子供を幻視し、その差に男は笑うしかなった。

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