アルヴァはクランで説明するようです
ギルドを出たアルヴァと魔王ことエクスだっだが、すぐにダンジョンに向かわず、アルヴァの所属するクラン《英雄の剣》に向かっていた。
というのも、
「そういえば、エクスはどうやって王都に入ったの?」
「俺も最初は侵入しようかと思ったんだが、試しに検問でお前の名前を出したらとんとん拍子に入れたんだ。お前、この国で何をしたんだ?」
「いや、まぁ……いろいろと、かな?」
「俺の身元保証をしてくれた人間―――確かマーカスだったか? そいつの人望もあるんだろうけどな」
「よく信じてもらえたね」
「あぁ、それはマーカスに『アルヴァと親しい証拠はあるのか?』と言われたから、『あいつと親しくないやつがあいつの名前を使って何かをして無事だと思うか?』と返したら大丈夫だったぞ?」
「あぁ~…… なるほど」
「それからマーカスは親切にしてくれてな。実は今はそいつのクランで生活してるんだ」
「じゃあ、一回クランに寄ろうかな。マーカスにお礼を言いたいし」
「ダンジョンはその後か?」
「そのことなんだけど、明日からでもいいかな? 他にも鍛えたい人がいるんだ」
「別にいいぞ? 俺は約束さえ守ってもらえるなら焦ってないからな」
というやり取りがあり、エクスを世話してをしてくれたお礼を言うためにクランに向かっていた。
歩くことしばらく、アルヴァとエクスはクランの建物の中に入った。
「アルヴァじゃない。丁度よかった。あなたにお客さんが―――ってもう会ってたみたいね」
エリーゼはアルヴァを見るなりそう言い始めたが、途中でエクスに気づき、そう言った。
「エクスが迷惑をかけたみたいだね」
「そんなことないわよ? むしろ私の依頼を手伝ってくれて大助かりだったぐらいね」
「むしろあんたよりは常識人よ」とエリーゼは付け加えた。
エクスが魔王だと知っているアルヴァは、その言葉に苦笑した。
「それはそうとマーカスさんは?」
「ここにいるぞ」
アルヴァの問いかけに答えたのはエリーゼではなく、奥から出てきたマーカスだった。
「どうやら無事に会えたみたいだな」
マーカスはエクスを見ながらそういった。
「お陰様でな」
「そのお礼も兼ねて今日は来たんだ。エクスがお世話になったみたいだったので」
「そんなことないぞ? むしろエリーゼの手伝いや、薬草採取でうちは大助かりだ」
「世話になったのはむしろこっちだな」とマーカスは付け加える。
「迷惑かけてないなら良かったよ」
アルヴァは自分より馴染んでいるエクスになんとも言えない心持ちになりながらも、馴染んでいるならいいかと思考を切り替えた。
「あと、いつもの報酬を置いていくね」
そう言ってアルヴァは【道具箱】から金貨の入った袋を取りだし、マーカスに差し出した。
「確かに受け取った」
そう言ってマーカスは苦笑しながら袋を受け取る。
「それはなんの金だ?」
エクスは純粋に疑問だったのか、不思議そうに首を傾げた。
「あぁ、これか。これはクランに所属しているやつは自分が受けた依頼料の一部をそのクランに納めることになってるんだ。代わりにクランは依頼を受けるやつを補助しなければならない」
「なるほど、弱き者を助ける機構か、悪くない。だから受け取るマーカスの反応が悪いわけだ」
エクスは全てを察したようにそう言った。
「そういう事だ」
自分で言葉にすることではないと思ったのか、マーカスもエクスと同じように言葉にしなかった。
「僕は気にしなくていいって言ってるんだけどね」
「それでも気にするのが善性を持つ人の性だと知りながら言うのは、たちが悪いと思わないか?」
アルヴァはそのエクスの言葉に苦笑するしかなかった。
「なぁアルヴァ、エクスについては触れない方がいいのか?」
急にマーカスは真剣な表情になり、そう言った。何かあったのか大体察しながらアルヴァは言う。
「もしかして、ワンダさん見ちゃった?」
ワンダはアルヴァの持つスキルと同じ【解析】を持っている。そしてエクスのことをワンダがスキルで見たことは想像に難くなかった。
「あぁ、その日以来、ワンダは俺たちとほとんど口を聞いてくれない」
「やっと来たわね」
会話を聞きつけたのか、ワンダが奥からゆっくりと現れた。
「これでもう黙ってなくていいわね」
「むしろよくエクスを追い出しませんでしたね」
アルヴァとしては魔王と知ったのにもかかわらず、遠ざけようとしなかったワンダの行動が気になっていた。
「当然よ。追い出したらどうなるのか分からなかったし、アルヴァの知り合いっていうのは間違いなさそうだから、様子見が一番だと思ったのよ」
なるほどとアルヴァは納得する。エクスが暴れればどうすることもできない以上、下手に刺激しないのが一番なのはアルヴァにも理解できた。
「それで、もう説明してくれるんだよな?」
「もちろんです」
アルヴァはギルドあったことも含め、ギルドで説明したことと同じ事を説明した。その間、マーカス、ワンダ、エリーゼは口を挟むことはなく、静かに聞いていた。
「―――って感じだから、気にしないのが一番だと思います」
アルヴァがそう締めくくると、三人は同時にため息をついた。その予想していなかった反応に、アルヴァは首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「あ~……いや、待ってくれ。色々整理する時間をくれ」
マーカスは現実が受け止めきれないのか、未だに頭を抱えたまま何かを呟いている。
「まぁ、今更あんたの知り合いがどんな人でもいいけどね。正直今更エクスが魔王って言われたところで……ねぇ」
エリーゼはエクスに視線を向けながら言った。視線を向けられたエクスは困ったように頬をかく。
エリーゼはこの中では一番長くエクスと過ごしたのだ。今更魔王と言われたところで自分で見たエクスのイメージがあるため、脅威に感じられなかったようだ。
「アルヴァが魔王とどう知り合ったのかは分からないけど、今の感じからすると、エクスはアルヴァに勝てないのね?」
その疑問にエクスは答える。
「無理だ。もし本気でぶつかれば、間違いなく俺は負ける。もっとも、周りに被害が全くないと言うことはないだろうが」
「被害が出るような場所で戦いませんけどね」
「そうだな。準備していれば別だが、今ここで俺が動いたとしても、被害なくどこかに連れていかれるだろうな」
エクスの言葉にアルヴァは補足するようにそう言い、エクスはそれに同意する。
「じゃあ、私は何も見なかったし、聞かなかったことにするわ」
ワンダは諦めたようにため息をつきながらそういった。
「ありがとうございます」
アルヴァはそう言って頭を下げた。
「俺も何も聞いていないことにしよう。エリーゼもいいな?」
「私も大丈夫。だって危険はないんでしょ?」
「アルヴァが契約を守る限り、王都は安全だ」
エリーゼの問いにエクスは条件付きだと言いながら頷く。
「なら、私としては手伝ってくれる人が増えて楽ができるわ」
エリーゼはそう言って微笑んだ。
「世話になる以上、義理は果たす。存分に頼ってくれ」
「それじゃあ、エクスは今まで通り頑張ってもらいましょう」
ワンダがそう言ったことで気持ちの整理がついたようで、近くにあった椅子に座った。
「改めてよろしくな」
そう言ってマーカスはエクスの肩を叩く。それにエクスは頷いて答えた。
アルヴァとしては話が早くて助かったが、本当にこれでいいのかなと内心首を傾げながら、そのことには触れずに話を変える。
「エクス、約束通り明日ダンジョンに行くけど、今日はどうするの?」
「ん? 特に予定はないな」
「じゃあ、今日も私の手伝いしてもらってもいい?」
二人の会話にエリーゼが加わる。
「かまわないぞ」
いつものことなのか、エクスは軽く了承した。
「じゃあ、僕はやることがあるから」
そう言った瞬間、アルヴァは右手を横に伸ばす。するとアルヴァの右腕は肘から先が見えなくなった。しかしそれが嘘だったようにすぐにアルヴァはすぐに腕を引っ込めた。
するとアルヴァは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「どうした?」
「伝言を頼もうとした相手に逃げられちゃったから、僕は追いかけるね」
そう言ってアルヴァは今度は姿を消した。
「行ったか……」
エクスは呟くようにそう言うと、マーカス、ワンダ、エリーゼを順番に見た。
「さっきはああ言ったが、迷惑をかけるのは俺の本意じゃない。俺は出ていく。今まで世話になったな」
エクスはそう言って頭を下げ、三人に背中を向けた。
「ど……どこ行くのよ!」
エリーゼは慌てた様子でエクスの手をつかむ。
「迷惑なのは分かってると言っただろう?」
「迷惑じゃないよ! むしろ助かってるって! ねぇ!」
エリーゼは確認するようにマーカスとワンダを見る。マーカスとワンダはお互いに目を合わせ、そして頷いた。
「……そうだな。確かにお前にはいてもらった方がいいだろう」
マーカスは少し悩んだ様子を見せながらそう答えた。
「そうね。それにどうやらエクスは本当にこちらに何かするつもりはないみたいだし」
「本当にいいのか? お前たちはーーー」
「アルヴァとの契約の範囲に入っていない、でしょ?」
エクスの言葉に被せるようにワンダはそう言う。その言葉にエクスは驚きの表情を浮かべた。
「知っていたのか?」
その問いかけにワンダは困ったような笑みを浮かべた。
「『アルヴァ自身と周りの人間に危害が加わらない限り、魔王軍に手を出さない』って契約みたいだけど、そんな曖昧な範囲で契約するわけないと思っただけよ。そう考えると、実際に契約で守られてるのは、アルヴァ君のいた村の人だけかなって思ったの」
その言葉にエクスは頷く。
「なるほど、そういうことか。確かにその通りだ。だが、そこまで分かっていながら俺を引き止めるのはなんでだ?」
「だからこそよ。契約でもないのにわたし達に危害を加える気がない。それが分かったから引き留めたのよ」
「……俺が裏切ったらどうするんだ?」
「裏切る人はそんなこと聞かないものよ」
「……そうか。じゃあ、まだしばらくお世話になろう」
「おう! 改めてよろしくな」
そう言ってマーカスは右手を差し出した。
「できる限りは役立たせてもらう。ただ、俺にも聞けないことはあるからな」
エクスはそう言ってマーカスの手を握り返した。
「人を殺さないとか出来ないの?」
誰もが気になっていたが、聞くに聞けなかったことをエリーゼは気にせず問いかけた。
「無理だ」
「なんで?」
エクスの言葉にエリーゼはすぐに問いかける。
「……すまない、禁則事項だ。答えられない」
「きんそくじこう?」
意味がわからなかったのか、エリーゼは|鸚鵡⦅おうむ⦆返しに言いながら首を傾げた。
「禁則事項? 誰が定めたんだ? アルヴァか?」
聞いても問題ないと思ったのか、マーカスも会話に参加する。
「それも禁則事項だ」
「……そうか」
(おいおい、これって聞いちゃいけないことじゃないのか? 禁則事項ってよく考えればそんなことできるのって……)
マーカスはそこまで考えて横にいるワンダを見る。ワンダも同じ結論に至ったのか、少し怯えた様子を見せながらも、諦めたように首を振った。
(俺たちが気にしても仕方がない……か)
「じゃあ、とりあえずしばらくは人を殺さないでね?」
エリーゼは話を理解できなかったのか、自分なりに理解できた範囲でそう言った。
「アルヴァがいるうちは何もしない。勝てないからな」
エクスはさっきまでの話を気にしていないのか、変わらぬ様子でエリーゼに答える。
「ならいいわ」
エリーゼはその答えで満足したのか、何度も頷く。
そんな二人をマーカスとワンダは複雑な感情で見つめていた。




