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きっと人はそれを『運命』と呼ぶ  作者: 緋風 希望
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似ていないようで、似ているような二人

相変わらず、顔を上げる気配のない歩美はそのまま「ねぇ、澪ってさ?」と声をかけた。


「うん?」


「女慣れ、してそうでしてなさそーだよね」


異性に対してという意味だろうが、澪は自身もそんなになれていないと自覚している。


「ハッキリ言うけど、してないよ。面倒だって思うことのほうが多いし」


「女は、基本的に面倒な生き物なの」


「そうなんだ」


「そうだよ。自分を守るためなら、平然と嘘もつけるのが女なの」


「男と女の違い――なのかな」


「そうかもしれないよね。ほら、男の人ってさ、やっぱり独占欲とかもあるじゃない?」


「うん、あるかも」


「女はね、男の自尊心っていうのかな。そういうのをあおるの。そうやって、あなたは特別なのって気持ちを高ぶらせて、貢がせるの」


歩美は唐突に、人間心理について話し始めた。


「それがもとになって、男を争うの。金をもってるだとか、いい性格してるとか、ルックスがいいとかね。私、芸能人とか本当に興味ないしさ」


「元本職の説得力だと、段違いに響くね。勉強になる」


「勉強って……まぁ、澪にはそういうの感じない。ルックスだって、もっと身長高ければいいなって思うし、もっと堂々とすればそれなりに格好もつくのに。多分お金もそんなに持ってないだろうし」


「全部あたってるからある意味恐いよ。女の勘ってすごい」


「嘘だらけの世界で生きてきた女に、嘘で塗りたくられた言葉を並べても意味ないの。嘘よりも、馬鹿みたいな一つの真実がほしいのよ、女は」


なるほど、と澪は納得した。


同僚の女子から相談された時も、社内で陰湿なイジメがあるという話をきいたこともある。


女同士のいざかいには、男は踏み入れない方がいいという暗黙のルール、なのかもしれないねと、その時に聞いたような気もした。


「特にそれが、自分を愛してくれてる。好きになってくれていると分かる人の言葉なら、どんなお酒よりも酔いしれることができるの」


「そうなんだ」


歩美は顔を上げ、両手で顎を支え微笑んだ。


「ウフフ。シラフなのに、なんでこんな話しちゃってるんだろ。私。でも、澪だったらその先に、何か見出してくれるって思ってるのかな?」


「過度に期待されても、何もでないし出せないよ。凡人だからね」


「ねぇ、澪って何人の子とヤッたことあるの?」


「3人」


「少ないんだね。純粋なんだー。いいな。私もその1人になりたかったかも」


その言葉を、澪は許せなかった。


まるで自分の身体を道具のようにしているとしか思えなかったから。


澪自身、実家にいた頃は自分自身が『家の道具』のようにしか扱われていなかったとすら思っている。


だからこそ、なのかもしれない。


「歩美、ふざけた冗談も程ほどにしろよ。初対面の人間なんだから、少しは警戒心を持て。俺も男だ。男は狼だからな」


静かな怒りを顕わにしたのだが、ハッとなって気づく。


いくら身近に感じる相手とは言え、なんて軽はずみな言葉を口にしたんだ。と。


「あ、ごめん。なんだか、さ」


澪は、怒りっぽい口調をしてしまったことを謝罪した……つもりなのだが、


「ぶっ。澪には似合わないよ」


歩美には笑われてしまうだけだった。


「ついでに、教えてあげる。ねぇ澪」


「ん?」


「女が好きになる男はね、可愛がってくれる男と、可愛い男なんだよ」


可愛がってくれる男と、可愛い男。


澪は自分の中でその言葉を繰り返してみる。


自分の理想とする男は、頼りがいのある男だ。


ただ単純に、古い人間から教わってきたからなのかもしれないが。


「どっちも無理かな」


「そんなことないよ。澪は私のこと可愛がってくれそうだし、大切だと思うからちゃんと注意もしてくれたでしょ?」


「それは、まぁね」


「そういうのが大切なの。いい? 嘘をついちゃダメ。男なんてのはね、女に騙されて強くなるの。いい男は、女で成長するものよ」


なるほど、と納得した上で、暫く澪は考えた。


思えば、誰かを本気で頼るなんてしたことはない。


自分でできることは、なんとか自分でしてきたつもりだ。


家族には甘えることもできなかった。


したくなどなかった。


でも、目の前にいる人間だからこそ――歩美だからこそ、こんなバカなことを言ってもいいんじゃないかとすら、思ってしまったのだ。


「じゃあ、頼みがあるんだ。歩美」


「何?」


「俺は、もっと強くなりたい。だから、君が俺を成長させてくれないか?」


「変人だ。変なおっさんがここにいる!」


「結構真面目に言ったつもりなんだけど!」


周囲から見ればただのボケとツッコミじゃないか。コントかよ――そう思うと、澪は急に可笑しくなってしまった。


それに吊られたように歩美も微笑む。


「いいよ」


「えっ?」


「いっぱい、色んなこと指導しちゃうから」


澪からすれば、まさかの返事だった。


「だから、私のことも、もっと強くしてね。澪」


そういった歩美の声は、どこかか細く、


「澪とだったら私も、もっと強くなれる気がするから」


祈りにも似ている。


他でもない。願っていることが一緒なのだ。


だからこそ、かも知れない。


俺達は似ていないようで、似ているんじゃないか。


澪はそう感じていた。

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