カルボナーラとナプキンと本
「お待たせしました!」
加奈は、注文をされたカルボナーラとコーヒーを高級レストランのウェイターのように、静かに、音を立てないようにテーブルへ置いた。
「うっわぁ、おいしそう!」
「おいしそう、じゃなくておいしいんだよ。加奈ちゃん、ありがとう」
「いえいえ。ごゆっくりしてくださいね」
そう言い残して、加奈はゆったりとした動作で他のテーブルへ向かい、皿やコップを集めていた。
「可愛い子だね。」
「うん。可愛いと思う」
「素直そうだし。でも――」
「でも?」
「何か抱えてそう」
歩美は、加奈を見つめながらそう呟く。
「それも、女の勘?」
「そうそう。女の勘」
女の勘って怖いんだな。しかも当たってる。
確かに、加奈ちゃんは問題を抱えているとは言っても、それは勝手に口に出していいものでもないし。
でも一目見ただけで見抜いてしまうのはある種の超能力じゃないか。
女性のみが持つ力なのか。或いは、感性が鋭いものなら見抜けるものなのかと、そんな意味のないことに澪は思考を回していた。
「さって、いただきます!」
「うん、どうぞ」
と言いながら、澪は自分のコーヒーにシュガーとミルクを加えてスプーンを入れる。
正面にうつる女性は、慣れた手つきでスプーンの上にフォークでパスタを絡め、口に入れ「んっ!!」と口を手で隠しながらひょんな声を上げた。
「お、おいっしー!!」
「知る人ぞ知る名店ですからね。口に合ってよかったよ」
澪は得意げに言った。
都内には美味しいお店は数あれど、ここまで安く、美味しい店は滅多にないはずと自負している。
「ちょっと、どうしてこんなお店知ってるのに教えてくれなかったのよ!?」
「ちょっと、今日会ったばかりなのにどうやって教えろってんだよ!!」
「そ、そうだった。ついうっかり」
「うっかりしすぎだ!」
「ちょっと黙ってて! うわー、おいしー!!」
「全く……」
と言いながらも、綺麗な手付きで美味しそうに頬張る姿を見れば嬉しくないはずもない。
「ご満足ですか、姫?」
「うむ。よきにはからえ」
「何で和風の姫なんだ。ほら、頬にクリームついてるよ?」
「え、嘘?」
ナプキンを取った歩美は、丁寧な仕草で頬を拭くのだが完全な的外れだ。
「取れた?」
「取れてない。ちょっと失礼」
澪は前のめりになって歩美の頬をナプキンで拭くと、何故か睨まれてしまう。
「はい、取れた。で、何でふてくされてるの?」
「なんか、ムカついたから」
「親切でやってあげたつもりなのに」
子ども扱いされたように思ったのだろうか。と澪は思うのだが、
「許さない」
まさか、このくらいで許さないなどという言葉が出てくることすらも予想外だった。
いや待て、と開き直り、目の前の女性は「ガン見料」として食事を掲示してきたことを思い出し、なんだか可笑しくなる。
「許さなくていいよ」
「もー、ほんとにもー! むー!!」
「あはは。歩美はからかいがいがあるよ」
「澪、落ち着きすぎー!」
「んー!」「むー!」などと、犬の威嚇のような声を上げながらも、歩美は手を止めずパスタを頬張っている。
「ちょっと、そんなにマジマジと見ないでよ」
「あぁ、これは失礼」
澪はボディバックから徐に小説を取り出して、読書に勤しもうとして、
「ちょっと! だからって本読もうとしないでよ!!」
怒られてしまうのだった。
これから、厳しいご指導がありそうだと澪は直感する。
悪いのは自分だとも自覚しながら。




