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きみがいない部屋
◇ ◆ ◇
それからいろいろあって、ぼくは彼と過ごした部屋を退去することにした。
最後の見納めに、なにもない部屋を一つずつ見て回る。家財は全てなく、まっさらで、引っ越してきた時はこんなだったかと思いを巡らす。その度に忘却の彼方に置いてきた幽かな記憶が一瞬蘇るけれど、ぼくはもう泣かなかった。
全部の部屋を見て満足したぼくは、綺麗な宝箱に大切なものをしまう時みたいにそっと微笑む。鮮やかな太陽が射し込むその部屋は、次の住人を心待ちにしているかのようだった。
玄関へと戻って、部屋に背を向けながら靴を履く。ようやく立ち上がったぼくは必要最小限の荷物を詰めたトランクの取っ手を引き出し、玄関から出た。
ドアが閉まる前に、最後にたくさんの時間を過ごしたその部屋に向かって振り返る。
「バイバイ、大輔」
そうして、きみがいない部屋に別れを告げる。
やがてすぐに、部屋の中の景色は閉ざされた。風が吹く。ぼくの隙間を縫い止め、柔らかく埋めてくれるような風だった。
ぼくは歩き出した。
Out of the blue 終




