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教授のところにも報告に行くと言って、それから遥は席を立って去っていった。
自分一人が残されたテラスは閑散としていて、手持ち無沙汰になったぼくはデイバッグから取り出した新刊の文庫に手を伸ばす。しかしどれだけページをめくれども、ちっとも内容が頭に入ってこなかった。原因はとっくに分かっていた。
……なんで、あんな下らない嘘をついてしまったのだろう。
もやもやの正体に対して、苛立ちというよりは後悔の念が募る。無論、何気なく振った話題に関して正直に返答して、気まずい空気を作りたくなかった。
結婚を間近に控えた彼女に、到底言えるわけがない。「彼氏が女の子と寝て、挙句子供を作ってしまった」などと。
それに、少なからず意地を張りたかったというのもあった。自分は大丈夫、つらくない、なんて。
結婚――。
何気なくその言葉を口にしてみた。手にした本の、文字の隙間がにじむ。
ぼくの中身が本当に女の子だったら、有り得たことなのだろうか。
そこではっと気付いた。
大輔が他の子と寝たのは、ぼくのせい?
彼との経験は、数えるほどしかない。それがまさか、彼に我慢させていたというのか。
唐突に不安になる。
自分に自信がなかったわけじゃない。大輔とするのが嫌だったわけじゃない。ただ、自分が女として扱われる感覚に抵抗があったのだ。何度も男の体を望むくらい、ぼくはこの体が嫌いだったから。
それがいけなかったというのか。
たまらず、本に顔を押し当てる。答えを返さない紙の匂いに包まれて、ぼくはしばらくこの感覚に溺れていた。
今更気付いても、もう遅かったのだ。
罰ゲームみたいに連絡を取らなくなって、一週間が経った。
親友はフランスに渡った。ぼくは誰とも話さなくなって、家にいてすることといえば読書や家事くらいになってしまった。
大輔はぼくに会いに来るわけでもなく、謝るでもなく、電話も寄越さなかった。メールアドレスも変えたから、当然メッセージも来ない。こればかりは自業自得だけれど、本当になにもなくなると毎日が味気なく感じた。
彼がいない部屋は、とてつもなく寂しい。
つまるところ、ぼくはまだ彼のことを愛しているみたいだった。
夏の暑さでぼーっとしながらぼくは彼がよく腰掛けていたベッドを、ソファーを見つめる。
大輔はどうなんだろう。ぼくのことを少しでも考えてはくれているだろうか。
いや。考えてくれるのは嬉しいが、そんなことあっていいはずがない。首を振って、甘い幻想を自ら打ち砕く。
これは罰。他の子に手を出して、挙句子供を授かってしまったのだから。変に意固地になるぼくだったが、やはり手を出された女の子のことを考えると「戻ってきて欲しい」だなんて言えるはずがなかった。
「ごめん、大輔……」
やるせなくて、溢れた感情が言葉になった。ぼくは自分の指を――女みたいに白くて細い、遥と同じ指を見つめる。
その日、ぼくは携帯を解約した。




