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目が覚めた。
地続きで新鮮味のない朝だ。惰性で目を開けて朝日を確認したぼくはしばらくして、大輔とよく寝たベッドから抜け出した。
顔を洗って、それでもすっきりしないからシャワーを浴びた。それからぼくはなにも食べず、やるせないままズルズルと壁に体を預けた。昨日と同じように、ぼくは長い間そうしていた。湿った髪が頬に張り付く。
講義に行かなきゃいけないのに、どうにも動けない。体の一部が壊れてしまったかのようだった。
昨日の痛みはまだ抜けきっていない。
他の女の子と寝たことが悲しいわけじゃない、といえば嘘になる。流石に恋人が知らない女と子供をつくっていたら、誰だってショックだろう。
けれどもそれ以上に、彼がその子をほったらかしてまでぼくと一緒にいようとしたことが許せなかった。
その子供の将来はどうなるのだろう。親をなくして施設にあずけられて、それでいいのだろうか。第一望まない相手とのあいだに子供ができてしまった彼女の両親は、彼女に向かって一体なんと言うのだろうか?
その責任を取らないとは言わせない。なにしろその子が不憫すぎる。自分勝手な感情の押しつけではあるけれども、そう思わずにはいられないのだ。
そんな自分を馬鹿だとは思いつつも、してしまったことはごまかせない。仕方ないのだと言い聞かせて目を閉じる。
そこではたと、ぼくは全く別のことを考えた。
合コンとは出会いを求める場だ。数合わせとはいえ医学部の大輔なら将来も有望で、申し分ないだと思ったのだろう。だとすれば女の方から大輔に近付いて酒を飲ませ、酔ったところをつけこんだ。作ってしまえば、あとは男の方の「責任」になるから。
ぼくは大輔のいない部屋で、ひたすら考える。
深読みのしすぎだろうか?
こんな意地汚い推測をする自分が嫌いだったが、どうにも、ぼくの心の綺麗な部分はどんどん汚されていくようだった。彼のことを信じていたのに信じられなくなって、それでもまだ彼を信じようとする自分がいる。
黙考。矛盾。回帰。
まるで息が詰まりそうだ。壁もカーテンも天井も、すべてが沈黙したままでいる。
外の光だけが、視界の隙間で少しずつ移動していた。
ひとしきり気が済むまで壁と同化したぼくは、夕日が傾いた頃にようやく立ち上がった。さすがにいつまでもこのままというわけにも行かない。ぼくはなんの気なしにリビングへと向かった。
重金属を含んだような体を引きずって行くと、机の上に置きっぱなしにしていた携帯電話が視界に飛び込んできた。ふと、昨日バッテリーパックを抜いていたことを思い出す。
一日経って冷静になったぼくは、なにをやっているんだとバッテリーを入れ直す。すぐに電源が入り、画面に並んだのは着信履歴の嵐だった。二、三件別のものがあったが、そのうち一件は遥からで、あとはいつも掛かってくる迷惑電話だった。
さすがに懲りたのか、大輔からの最後の着信は昨日の日付を刻んでいる。今日の分はない。呆れてぼくは携帯を机の上に置き直し、背後を振り向く。
明日はレポートを出さなければ。
家から持ってきてそのままにしておいた本に視線をやって、ぼくはおもむろに手を伸ばす。携帯は、リビングに放置した。
それ以来、大輔からの連絡は一切絶えた。




