第30話:運命の期末テストと、それぞれの背中
期末テスト当日の朝。
秋の爽やかな風が吹き抜ける中、絢咲家のダイニングテーブルには、いつも以上に豪華で彩り豊かな朝食が並べられていた。
「月菜、今日からテストでしょ? はい、湊特製の『脳活性化朝ごはん』だよ!」
湊が笑顔で運んできたのは、ツヤツヤに炊き上がった五穀米、タウリンとDHAが豊富な秋鮭の塩焼き、ビタミンたっぷりの具だくさん豚汁、そして集中力を高めるレシチンを多く含む納豆と卵焼きのセットだった。
「わぁ……美味しそう! 湊兄ちゃん、これ食べたら頭良くなるの!?」
末っ子の土和が目を輝かせると、湊は優しく微笑んだ。
「うん! 青魚のDHAと和食のブドウ糖は、脳の回転をすごく速くしてくれるんだ。月菜、しっかり食べて全力を出してきてね」
「……ええ。いただきます」
月菜は少し緊張した面持ちで箸を取り、秋鮭を口に運んだ。皮はパリッと、身はふっくらとジューシーで、絶妙な塩加減が炊き立てのご飯と抜群に合う。温かい豚汁を啜ると、昨夜の不安が嘘のように和らぎ、お腹の底からむくむくとやる気が湧いてくるのが分かった。
「……すごく美味しいわ。ありがと、湊」
「ふふ、頑張ってね、月菜姉ちゃん!」
「私と水樹も応援してるからね〜!」
灯華と水樹が弾んだ声でエールを送り、長女の陽葵も温かな眼差しで月菜を見守っている。家族全員の温かい応援を受け、月菜は力強く頷いた。
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登校の道中、月菜と湊は二人で並んで歩いていた。
秋の枯れ葉が舞う歩道で、月菜はカバンの帯をぎゅっと握りしめながら、チラリと隣を歩く湊の横顔を見上げた。
「……ねえ、湊」
「ん? どうしたの?」
「湊って……自分のテスト勉強、ちゃんとしてるの? 毎日家事とか私のアドバイスばかりで、自分の勉強する時間なんてなさそうなのに……」
月菜の疑問も当然だった。湊は毎朝誰よりも早く起きて朝食を作り、家事全般を完璧にこなし、夜は月菜の勉強につき合っていたのだ。
すると湊は、少し照れくさそうに苦笑いを浮かべた。
「あはは……まあ、一応やってるよ。俺、昔から時間の使い方だけは親父に徹底的に叩き込まれてたからさ。スキマ時間を活用するのが得意なんだ」
「スキマ時間……?」
「うん。煮物煮込んでる最中の十分間とか、洗濯機回してる間の十五分間とか。集中して単語帳見たり、暗記項目を整理したりね。……それに俺、実は暗記が得意なんだ」
「へぇ……。ちなみに、湊の成績って学年でどれくらいなの?」
月菜が興味津々に尋ねると、湊は少し耳を赤くしながら、人差し指を口元に当てて「内緒」と微笑んだ。
「……テスト返却の時までのお楽しみ、かな。でも、月菜に負けないくらいには頑張ってるよ」
「なによそれー! 思わせぶりな言い方しちゃって……! 絶対私の方が上にいってみせるんだから!」
月菜はぷっと頬を膨らませたが、その表情には先ほどまでの硬さは消え、いつもの強気で活き活きとした輝きが戻っていた。
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そして、悪夢のような(そして受験生にとっては真剣勝負の)四日間の期末テスト期間が過ぎ去った。
テスト結果が返却される日の放課後。
私立鳳凰学園の二学年廊下の掲示板前は、貼り出された『期末試験・学年総合順位トップ五十』の紙をひと目見ようと、大勢の生徒たちでごった返していた。
「キャー! 私、順位上がってるー!」
「うわ最悪、数学で大コケした……」
悲喜こもごもの声が飛び交う中、月菜は生唾をゴクリと飲み込み、人垣を押し分けて掲示板の前へと進み出た。
心臓がドックンドックンと破裂しそうなほど激しく鐘を打っている。指先が冷たくなり、呼吸が浅くなるのを感じながら、彼女は一番上の『第一位』から順に視線を下ろして走らせた。
(お願い……お願い……っ! 私の目標は二十位以内……っ!)
五十位……四十位……三十位……。
徐々に上がっていく数字。だが、まだ自分の名前はない。
そして――。
【第十八位:絢咲 月菜】
「――っ!!!!」
月菜は息を呑み、その場に固まった。
何度見目を擦って見直しても、そこには確かに自分の名前と『18位』という数字が刻まれていた。目標だった二十位以内を、見事にクリアしていたのだ。
「やった……! やったぁぁぁ……っ!!」
声を出して飛び跳ねたいほどの歓喜が全身を駆け巡る。血のにじむような毎夜の努力、湊が作ってくれた温かい夜食、そして頭を撫でてくれたあの言葉。すべてが報われた瞬間だった。
(湊に……湊に早く知らせなきゃ……!)
溢れ出す笑顔で振り返ろうとしたその時、月菜の目は、自分の名前よりもはるか上――トップ層の数字に釘付けになった。
【第二位:浅比 湊】
「……え?」
月菜の口から、ポカンと間抜けた声が漏れた。
二位。学年第二位。数百名いる鳳凰学園の二年生の中で、トップに王手をかける超上位層に、当たり前のような顔で『浅比 湊』の名が鎮座していたのだ。
「えぇぇぇぇぇぇーーーっ!? 湊、学年二位ーーーっ!?」
月菜の絶叫が廊下に響き渡った。
周囲の生徒たちが「あ、あの浅比くんでしょ? 家事もできるのに成績もほぼ学年首位とかハイスペックすぎるよね……」と噂しているのが耳に入る。
(な、なにそれ聞いてないわよバカ湊!! 学年二位って何!? いつそんな勉強してたのよーーーっ!?)
衝撃と脱力感でクラクラしつつも、月菜の胸の中には、驚きと同時に「やっぱり私の好きになった人は凄すぎる」という誇らしさと、愛おしさが爆発しそうになっていた。
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夕暮れ時。誰もいなくなったいつもの図書室。
月菜は閲覧席の椅子に座り、テストの個票を机の上に並べて湊を待っていた。
ガラリと扉が開き、湊が申し訳なさそうに頭を下げながら入ってくる。
「ごめん月菜! 送信テストの回収で遅くなっちゃった……って、月菜? どうしたの、そんな鬼の首を取ったような顔して……」
月菜は腕を組み、仁王立ちで湊を睨みつけていた。
「湊……アンタ、私に隠してたわね……?」
「え? 何を……」
「『スキマ時間を活用してる』とか言って! 『学年第二位』って何よー!! ほぼトップじゃないのよバカ!!」
「あ……見ちゃった?」
湊は「やばい」という顔で頭を掻いた。
「あはは……隠すつもりはなかったんだけど、自慢するみたいで恥ずかしかったからさ。親父に『勉強でトップを取るのは当たり前、その上で家事をこなして一人前だ』って言われて育ったから……」
「どんな英才教育よ……っ!」
月菜は呆れ果てて溜息をついたが、すぐに表情を崩し、フッと誇らしげな笑みを浮かべた。
そして、自分のテスト結果の個票を、ドヤ顔で湊の目の前に突き出した。
「ほら! 見なさいよ!」
湊は個票に目を落とし、そこにある『順位:18位』の文字を見た瞬間、パッと顔を輝かせた。
「すごい……! 18位!? 月菜、本当に20位以内に入ったんだね! すごいよ、有言実行だ!」
「ふふん! どうよ! 私だって本気出せばこれくらい楽勝なんだから!」
胸を張る月菜の頭を、湊は心からの祝福を込めて、優しく撫でまわした。
「本当にすごいよ。毎日遅くまで頑張ってたもんね。おめでとう、月菜!」
「あ……もう、子供扱いしないでよ……っ」
髪を撫でられ、顔を赤くしながらも、月菜は嬉しそうに目を細めた。
そして――静まり返った夕暮れの図書室で、月菜の表情がすっと真剣なものへと変わった。
彼女は湊の手を両手で包み込むように握りしめ、まっすぐな瞳で彼を見つめた。
「ねえ、湊。覚えてるわよね? 『20位以内に入ったら、お願いを一つ聞く』って約束」
「……うん。もちろん覚えているよ。月菜のお願いなら、何でも聞くよ」
湊がまっすぐに答えろと、月菜は緊張でゴクリと喉を鳴らし、耳まで真っ赤に染め上げながら、消え入りそうな声で、けれどはっきりと、そのお願いを口にした。
「私……今度の週末……湊と二人だけで、本当の『デート』がしたい」
「……え?」
「妹たちも、お姉ちゃんもいない……お世話係としてじゃなくて……『男の子』と『女の子』として……私を、デートに連れて行って」
夕日に照らされた図書室で、甘く切ない風が吹き抜ける。
月菜の勇気ある最高のおねだりに、湊の胸はこれまでにないほど激しくドクンと鳴り響くのだった。
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【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 #30】
『スキマ時間で成績アップ!忙しい人のための「分散学習法」』
まとまった勉強時間が取れない時は、「短時間の勉強を1日に何度も挟む」ほうが記憶の定着率が高まります!人間の脳は「思い出す作業」をする時に記憶が強化されるため、通学電車や家事の合間などの5〜10分で単語帳や公式をチェックし、夜に軽く復習するサイクルを作るのが最強の暗記術です!




