プロローグ:壊滅的な一軒家と、七色の少女たち
「――だから誠、頼んだぞ。お前だけが頼みの綱なんだ。あそこのご家庭は今、本当に破滅寸前なんだよ……!」
受話器越しに聞こえる親父の必死な声は、一切の冗談を含んでいなかった。
高校一年生である俺、浅比誠の手には、ズシリと重い一本の真鍮製の鍵と、雑な字でメモ書きされた住所が記された紙切れが一枚。
親同士が昔からの大親友らしく、相手の家は父親の長期海外出張やら何やらで大人の手が完全に途絶えてしまっているらしい。
幼少期から家庭的なスキルを叩き込まれ、自他ともに認める『家事のスペシャリスト』として成長した俺に、住み込みでお世話係をしてほしいというのが、今回の唐突すぎる依頼だった。
「まあ、親父の頼みだし、本当に困っているなら助けてやるか……」
そんな軽い気持ちで指定された小高い丘の上に立つ豪邸風の一軒家へと足を踏み入れた時のことだ。
門をくぐり、重厚な玄関の鍵を開ける。
カチャリ、と静かな金属音が響いた。
「お邪魔しま――っ!?」
足を踏み入れた瞬間、俺は激しい眩暈と強い衝撃に襲われ、言葉を失った。
玄関口に無造作に散らばる、サイズもデザインもバラバラな靴、靴、靴。
奥のリビングへと続く長い廊下には、脱ぎ捨てられた衣服や読み散らかされたファッション雑誌、さらには用途不明の巨大なぬいぐるみが山積みになっている。
足の踏み場もないどころの騒ぎではない。まるで大型の台風が家の中で直接炸裂したかのような凄惨な惨状だった。
そして――その混沌の中心たる巨大なリビングで、絶望に打ちひしがれている七人の美少女たちがいた。
「うぅ……お腹すいたぁ……。だれか、ご飯作ってぇ……」
高級そうなソファーに無防備に倒れ込み、肩口が盛大にはだけた部屋着姿で呻いているのは、長女の彩咲陽葵さん。
豊満な胸元が無防備にチラ見えしているが、本人は空腹のせいか気にする素振りすら見せない。
「陽葵お姉ちゃん、冷蔵庫の中、賞味期限切れのマヨネーズとポックリ折れたネギしかないよ〜!?」
「……水なら、まだ蛇口から出る」
ドタバタとキッチンを捜索し、悲鳴を上げている元気なギャル風の中学生が三女の彩咲灯華。
そのすぐ後ろで、キンキンに冷えた水を入れたグラスを無表情に抱えているのが、双子の妹である四女の彩咲水樹だ。
「もうっ! だからアタシが買い出しに行こうって言ったじゃん! お兄ちゃん、お腹空いて死んじゃうよ!?」
「絢金、それアタシのセリフなんだけど! あーもう、お腹減りすぎて絶対お肌に悪い! 最悪!」
リビングの中央でキーキーと激しい口喧嘩を繰り広げているのは、小学生の六女彩咲絢金と、五女の彩咲木乃香。
「……うぁぁん! お腹すいたのーっ! 誠おにいちゃんはー!?」
さらにその足元で、涙をぽろぽろと零しながら完全に泣き出してしまっている幼い天使、七女の彩咲土和。
壊滅。
文字通り、この家の生活機能は完全に壊滅していた。
あまりの光景に呆然と立ち尽くす俺の視線に気づいたのか、部屋の最も奥、影になった場所から一人の少女がゆっくりと歩み出てきた。
艶やかな黒髪を揺らし、冷徹なまでに鋭い瞳で俺を射抜く屈指の美少女。
俺と同じ高校の制服を着た、学校では誰もが遠巻きに見つめる高嶺の花――
「……は? なんで彩咲月菜がここに……?」
思わず口から漏れた言葉に、次女の月菜はハッと美貌を見開き、次の瞬間には顔を真っ赤にして怒号を上げていた。
「――はぁ!? なんで浅比くんがうちにいるのよ!?」
家事能力ゼロの7人姉妹と、苦労人のお世話係。
俺たちの、理性と胃袋を過酷に揺さぶる同居生活は、こうして唐突に幕を開けたのだった。
3センチの方もやっていますが同時並行で行なっていきます。




