第十二話 林間学校1
・2025年8月24日 誤字修正
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惨事となった臨海学校が終わり、夏休みはまだ続きます。
そして、夏休み中の重要イベントがもう一つ。
林間学校です。
臨海学校であれだけの惨事が起こったにもかかわらず、林間学校は普通に行われます。
まあ、場所も全く違いますし、国内の治安が悪化しているとか、学園の生徒が狙われているとか言ったことはありません。
同じような事件が起こる必然性は全くなく、つまり予定されていた行事を中止する理由がありません。
縁起が悪いくらいで学校行事を中止にはできませんからね。
臨海学校に参加した生徒の中には、事件にショックを受けて林間学校への参加を取りやめた者もいましたが、極一部です。
一般の生徒は早々に避難したので、戦闘を直接見た者は多くいません。
多くの生徒にとっては、避難訓練の規模が少し大きくなったくらいの認識でしょう。
林間学校への参加を止めた生徒はよほど繊細だったのか、危機察知能力が高かったかでしょう。
ただし、私達生徒会役員は学校行事として中止されなかった以上は強制参加です。
今年は、林間学校でも戦闘イベントが発生します。
ゲームと同じ展開になるとすれば、ですが。
残念ながら、これまで私が発生を回避するために上手く立ち回れたイベント以外の出来事はゲーム通りに起こってしまっています。
これから発生するであろう林間学校のイベントは、防ぐ方法が見つかっていません。
イベントが発生する前提で、発生した問題をどうにかして被害を出さずに解決することに注力すべきでしょう。
そのための作戦を考えてきました。
上手くいけばよいのですが。
◇◇◇
「……そして、その男は三日三晩高熱で苦しんだ後に息を引き取りました。
その死に顔は、何か恐ろしいものを見たかのように恐怖で歪んでいたと言います。
男の蹴った祠には、かつて近隣の町や村を滅ぼし、国の騎士団でも倒し切れなかった強大な魔獣が封印されていると言い伝えられていました。
祠を蹴った衝撃で、封印されていた瘴気が漏れ、そこに籠められていた魔獣の呪いを浴びたのでしょう。
その祠は、今もなお存在しています。
ここから森を通り湖に向かう小道の傍らにひっそりと佇む小さな祠。
見たことのある人もいるでしょう。それこそが魔獣を封じた祠なのです。
ですが、見かけたとしても不用意に近付いてはいけません。
祠に触れたり、冗談でも壊そうとしたりしないでください。
本人が呪われるだけでなく、国を脅かす魔獣が復活してしまうかもしれません。」
話し終わるとカルミア様は、蝋燭の灯りを一本消しました。
はい、百物語です。
林間学校一日目(移動日除く)の夜、私達は生徒を集めて百物語を行っていました。
と言っても、さすがに九十九話も話しません。
魔道具の照明を落として薄暗くした部屋に蝋燭を十本灯して、最後の一本になったらそこで終わりというルールで始めたイベントです。
企画主催は生徒会。
飛び入り参加も可にしておいたのですが、結局こちらで用意した五話で終わりました。
取りを務めたのはカルミア様です。
何かと優秀なカルミア様は怪談も上手でした。
話が終わると静まり返ってしまいました。
私の時はキャーキャー言っていたのですが、まだ悲鳴を上げるだけの余裕があったのですね。
まあ、ともかくこの企画は成功しました。来年は一般の生徒からも怪談を語ってくれる人が出て来ることでしょう。
林間学校でいきなり百物語を企画したのには理由があります。
この林間学校にはちょっとした悪習、生徒の間に伝わる裏の伝統があります。
それは肝試し。
夜間、外出が禁止された時間にこっそりと抜け出して夜の森林を歩くのです。
別に心霊スポットがあるわけでもないのですが、夜の森はそれだけで暗くて恐ろしく、対照的に月夜の湖は神秘的で美しいそうです。
最も度胸が試されるのは、教師に見つからずに抜け出す部分にあるとか。
他愛のない遊びですが、勝手に外を出歩いて事故にでも遭われたら堪ったものではないので毎年教師と生徒の攻防が続いているそうです。
参加者は男子が中心ということで去年の林間学校では私は関わっておらず、その実態はよく分かりません。
ただ、今年は生徒会役員ということで、規則を破って抜け出す生徒を取り締まる立場です。
そこで考えた対策が、この百物語です。
肝試しと言っても恐怖体験を楽しむのではなく、ただの夜遊びに近いものがあります。
怪談を聞かせて怖がらせれば効果はあるでしょう。
特に最後にカルミア様が話したのは林間学校のこの場所にちなんだ身近な怪談です。
話に出てきた祠は実在します。
気を抜いていると見落としてしまいそうなほど地味で小さい、森を通る小道のすぐ側にある祠は、少し注意していれば容易に見つけられます。
うっかり見つけて恐れおののくがいい!
規則を守らない生徒に対する嫌がらせはともかくとして、私とカルミア様でこの企画を考えた背景にはもう一つの理由があります。
二年生の林間学校で起きるゲームの戦闘イベントは、肝試しに行った生徒が戻ってこない所から始まります。
第一犠牲者です。
イベント終了後も描写が無いということは、乙女ゲームとしては描けない状況だったということです。
シナリオライターさんはこの手の仕掛けを随所に施しています。
イベントが終わって丸く収まったように見せ、その実よく考えれば悲惨な状況になっている人がフォローされていなかったり、問題が放置されていたり。
先日の臨海学校の事件でも生徒や使用人に被害が無かったという説明はありませんし、今回の林間学校のイベントでは行方不明になった生徒の消息は最後まで明かされません。
ですが、ゲームのシナリオに合わせて余計な犠牲者を出すつもりはありません。
そこで、規則を破る学生を取り締まる生徒会の役割を利用して肝試しを阻止し、犠牲者を出さない作戦を立てました。
もちろん、怖い話で脅して終わりではありません。それでも抜け出す生徒がいないか見回りもします。
その見回りの中で事件の予兆を掴んで犠牲者を出すことなく上手くイベントを回避できれば良いのですが。
具体的には、戦闘を警備の兵士に代ってもらうとか。
林間学校でも警備の兵士はいます。王家の保養地でもあるので警備体制はしっかりしています。
ただ、やはり麓から上がって来る者に対する警戒が中心で、森の中から突然敵が現れたりすると対応が遅れそうな感じです。
つまり、戦闘で負けた時の救援ですね。
彼らが最初から戦っていれば、学生が危険な真似をせずとも事件は無事に解決する……はずです。
……大丈夫、まだ二年生です。負けると救出された後その場を脱出して後は知らない、となるのは三年生のイベントです。
まあ、学生が戦って勝てる相手を兵士が倒せないはずもないので問題はないのでしょうけれども……
去年大蛸の騒ぎのあった臨海学校とは異なり、特に問題の起こっていなかった林間学校の警備体制は従来通りです。
学園の行事で生徒が危険な目に遭ったのだから、別の行事でも警備を厳重にしろ! とはなりません。
場所も地形も想定される危険も異なるのだから他所で起きた事件は参考にならない、ということもありますが、それだけではありません。
兵士が警備しているのは王家の保養地であって学園の施設ではありません。
学園には軍の指揮権が無いことははもちろん、直接要請を出すこともできません。
今年の臨海学校の警備が強化されたのも、学園の要請ではなく王家の指示だそうです。
王族や王族に招待された他国の要人がプライベートビーチでバカンスしている最中に同じような事件が起こったら堪らないので用心のためだったようです。
生徒会で活動していたらそんな情報も入ってきました。
学園からの要請では警備の兵士を動かすことはできません。
そうなると、方法はただ一つ。
兵士が警戒するような異変の兆候を見つけ、現場の判断で動いてもらうことです。
兆候が見つかるといいなぁ。
ゲームでは多少怪しげな描写はありましたが、「この時点で兵士に相談していれば」と言えるほど明確な予兆はありませんでした。
「肝試しに行った生徒が帰って来ない」が最初の異変になります。
けれども、現実のこの世界ならばゲームでは描写されていなかった何らかの兆候を見つけることができるかもしれません。
見つからなかったら、夜に外を見回っている私達が第一発見者となるでしょう。
そうなった場合の行動についても一応考えてありますが……第一犠牲者にならないように頑張りましょう。




