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恋バナ?

*芸妓の制度について史実とすこし違うところがあります。ストーリーと私の伝えたいことを考えてあえてそのように書きました。どうか前もってご理解いただいた上でお読みください。



柚乃の見世出しまであと四日。

お座敷が早く終わった私は、置屋に戻って三味線を練習していた。

最近どうやら私は演奏がやや走りがちのような気がする。


同じく早く置屋に帰ってきた千晴を捕まえて立ち方の目線から演奏を聴いてもらっていた。


私の唄に合わせて千晴が踊ってくれる。この街に来る前から舞を習っていて、初めから上手だった彼女だけど、なんだかずっと綺麗になったみたい。

白い肌はシルクのようで、目を伏せると頰に影を作る長い睫毛はなんだか哀愁を感じさせる。

–––––もしかして。


「千晴、好きな人できた?」


白い頰がぽっと紅くなる。当たりかな?


「なんでわかるん」


「踊りが綺麗だったから」


千晴は、おおきにというと、小さな手で顔を覆った。


「好きな人、教えてほしいな〜!」


にやにやしてる私はさぞかし気持ち悪いことだろう。こんな顔、外じゃできないけど置屋の中だから勘弁してね。


「誰にも言ったらだめよ」


「言わないよ」


「政友さんにも、柚にもだめよ」


「わかってるよ」


華奢な人差し指と中指の間から千晴は瞳を覗かせる。私は目をしっかりと合わせた。




「池田屋事件の後に一回壬生の方に買い物をしに行ったのね、その時に休憩がてらお店でお団子食べてる時、隣の人にいきなり話しかけられたと思ったら新選組の、藤堂さんで、頭にまだ包帯巻いてて、痛いはずなのに明るくて、」



次から次へと言葉が出てくる。息継ぎすらしてなさそうだ。


「そんなん普通の人にはできっこないじゃない。素敵なお方だなとその時思ったの」



千晴は藤堂さんが好き。2人が並ぶ姿を想像してみると、なんだかいい感じかもしれない。

人の恋愛話というのはいつでもワクワクするけれど、相手も知っている人だとそのワクワクも倍増する。


「藤堂さんと千晴、お似合いだと思うな」


「もう! 恥ずかしいからやめてよお……」


「ごめんごめん。 ところで思いを伝えたりとかは…?」


「思いを伝えるとしたら、年季が明けてからだからまだ先だね」


恋の話で盛り上がるのは女子高生だった頃と変わらない。でも、やっぱり––––


「私たち、芸妓だもんね」


島原は他の街と比べると、芸妓の色恋にかなり厳しい。以前、宴会の席で顔を赤らめた芸妓が、先輩に酷く叱られたそう。客に気があるのか、と。

もし、片思いじゃなくて、恋愛をしようとするのなら、芸妓を辞めなければならない。しかし年季が明ける前に芸妓を辞めるには、かなりのお金を置屋に払わなければならない。私たちの生活費やお稽古費、お着物代はそのほとんどが置屋から賄われている。


「でもね、私、島原の芸妓で良かったなって思うことがとても多いの」


千晴が言った。


「他の街だと、遊女さん達だけじゃなくて芸妓も身体を売ることがあるんだって。私はあくまで芸を磨く場所を探してここにきた。色恋に厳しいのはきっと気品を大事にするからで、気品を大事にするから、芸を売ることに専念できてると思うの」


私も同意だった。

私たちは、日々色々な人を相手にする。幸せそうな家族から、明日の運命さえもわからない武士まで。しかし、きっとその全員が、この動乱の時代で安らげる場所を探しにこの街に来ているのだと思う。安らぎを私たちの芸に求めてくれている人たちに向き合うためだけに全力を尽くせる環境は、きっとここ以外には、ない。




「そういえばあや乃はどうなの。政友さんのこと好きなんでしょ」


自分でも頬が熱くなってるのがわかる。控えめに頷くと、千晴からの反撃が始まった。


「どこが好きなの?」



「はっきりどこが好きかは正直わからないんだけど、ただ、初めて政友さんが心から笑ったところを見たときに私の直感がこの人が好きなんだって叫んだんだよね」


自分で言っておいてすごく恥ずかしい。今度は私が人差し指と中指の間から千晴を除くと、彼女もまた紅くなっていた。


そんなとき。

「ただいま帰りました」

玄関から柚乃の声がして、私たちの恋バナはいったん中断。


「お帰りやす」


気がつけば私も千晴もしっかり京言葉に戻っていた。


「姐さん〜! 相談したいことがあって」


普段ならまだ政友さんに挨拶してる頃なのに、柚乃はすごい速さで玄関から二階の私たちの部屋へ目を真っ赤にしてやってきた。

どうやらすごく嫌なことがあったようだ。




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