第一話 無視されるあの子
高校二年の秋、転入先でできた親友はクラス全員から無視されていた。
九月という中途半端な時期に転入してきた玲は、それまで特に人に興味も無かった。すでにクラスのコミュニティは出来上がっていたし、積極的に友達を作ろうとも思わなかった。
そんな玲を見かねたのか、クラス担任の大谷は「お世話係」なるものを、佐藤という明るくて人当たりの良い女子に任命した。
佐藤は、やたらとクラスの人間関係に詳しかった。
あの子とあの子が付き合っているだとか、あの子の親は会社の重役だとか、あの子は今、注目されてるインフルエンサーだから逆らうな、だとか……
「じゃあ、あの子は?」
ある日の昼休み、玲は窓際の席で、いつも一人で弁当を食べている女子に目を止めた。
誰も話しかけない。
誰も近くに寄らない。
まるで最初からそこに誰もいないかのように、クラス全体がその子を視界に入れていなかった。
「ああ、汐見ね」
佐藤は声を少し低くした。
「関わらない方がいいよ。なんか、いろいろあってさ。私も苦手。どのSNSグループにも入ってないし、まあリクエスト来てもOKしないけど……」
《《いろいろ》》の中身は教えてくれなかったが、玲もあえて聞かなかった。
その日の放課後の帰り道、玲はその子の後ろ姿を見かけた。自分でもよくわからないまま、気づいたら肩を叩いて声を掛けていた。
「ねえ、駅ってどっちの方向?」
その子は振り返った。玲を見て少し驚いた感じだったが、すぐに警戒心を解いた様だ。
「雨宮さん、だよね?あ、駅?案内するね」
そう言って小さく笑った。その子は想像したよりもよくしゃべる子だった。
道すがら、この店のケーキが美味しいだとか、そこがこの辺りで唯一の本屋さんだとか、ここに来たばかりの玲を気遣っていろいろ教えてくれた。
「あの、悪いね。わざわざ案内までしてもらっちゃって。口で言ってくれるだけで良かったのに……なんか用事とかあったんじゃないの?」
玲が悪びれた。
「ううん大丈夫、ちょっと説明しにくい場所だし。買いたい物もあったからちょうど良かったんだ。」
「ありがと、助かった。」
話してみれば凄く優しい。玲はこの子が好きになった。思えば、自分から誰かに話しかけたのは初めてかも知れない。そして、自分から友達になりたいと思ったことも。
「あの、私、雨宮玲って言うんだ」
「ふふ、知ってる。同じクラスだし。さっきも私、雨宮さんって呼んでたよ。」
「あれ、そうだったっけ?」
「私は汐見友香。よろしくね」
「汐見、友香ね……、あの、これから友香って呼んでもいいかな?私の事も玲って呼んでいいから」
「え、あ……うんうん、もちろん。」
ちょっと距離を詰めすぎたかなとも思ったが、友香の方も快く受け入れてくれたみたいなので良しとする。
「じゃあ、また明日、学校で話そう」
玲がそう言うと、友香の顔が途端に曇りだした。
「それはやめた方がいい」
「え?」
思いがけない返答に驚く。
「私と仲良くすると、その……目を付けられる事になると思う。たぶん面倒な事になるから。だから学校では無視していいから。じゃあね!」
それだけ言うと友香は寂しい笑顔を残し、駅内のショッピングモールの中に向かっていった。玲はしばらくその場に佇んだまま、見えなくなるまでその背中を追い続けていた。




