終末の空騒ぎ
人間は、自らにかたどってホモ・エレクトロニクスを創造した。
「さすが旧人類。探せたね」
アマテラスはSNSの情報を見て呟いた。テレビみたいに簡単なモニターがまえに置かれていた。
「秘密にしたお偉方が悪いのだ」
モニター画面に割り込んできたのはゼウス。話す間にも、炎上した、その情報。
『太陽系外から小惑星来る。地球へ衝突する』
また、デマか、というコメントもあるが、詳しい者も多い。
『先を越されたか。綿密な軌道計算有り』
統計した資料を添付してきた。
『good living cityeは政治家たちの避難場所らしい』
大衆が一番に嫌がるのは、権力者が情報を隠すこと。新しいスレッドも立った。
アマテラスはため息ひとつ。進化した人類ホモ・エレクトロニクスとしては茶番だった。
「大騒ぎすることもないのにね」
「宇宙調査はそっちのけで、good living cityeを造り出したからな。一部の国のお偉いさんたちは」
ゼウスもホモ・エレクトロニクス。旧人類ホモ・サピエンスを哀れみと慈しむ眼差しでみつめるようだ。
「国際連合にアクセス。行くよゼウスさん」
「打つ手が早いなアマテラスさん」
二人は、すぐに国際連合のパソコンへ現れた。
「マザーコンピューターです。小惑星の情報を大衆も取得しました」
「だから言わんこっちゃない。公開して、探査船の調査も継続しなさいと言ったよな」
答えるのは秘書官。
「最終決定は人間が行います。人類の危機で、国際社会は友好的に変わってます」
good living cityeを安全な場所へ建設するため選ばれたのはアジア大陸だ。金儲けと、救助の建前で争わなくて協力することにしたらしい。
「一部の権力者の考えだよね。どうするの、ばれたよ」
小惑星がどうなるかよりは、裏切られた大衆の反発が危険と予想した。
「総会を開き、現状把握が先です。私からは、いうこともありませんので」
秘書官は権力もないし、当然だろう。
「大国の権力者とコンタクトだ。新しい小惑星の情報も必要だろう」
小惑星のことは詳細もマザーコンピューターから送信したが、各地のAIは人間が判断して使う。公開しない情報もあるらしい。
集まった三人の権力者たち。
「史上初めての平和が訪れた」
「危機があって初めて、人類は結束できたのだ」
「人類の深い考察は機械には理解できないだろう」
最後は人間が決める。それがAIが生まれたころからの規則だ。
「しかし。小惑星の正確な情報は流してもらわないと困ります」
「それも考えのうちだ。危機の時に仲間に成るか、敵対するかがわかる。ますます、人類の害になる者は排除されるだろう」
「あのなー、たいがいにせえ」
ゼウスが怒鳴った。
「他人をコマのように扱うのは、しっぺがえしを食らうかなら」
「だから、人間のことを機械は分かって」
緊急速報が入った。
「ミサイルが発射されました。方位、あ、good living cityeが破壊されました」
爆発音が続いた。
「武器には武器だ。どこのどいつだ」
三人とも画面から消えた。
「打ち合いだよ。マザーコンピューター地球防御」
「高度10キロメートル発動」
プラズマ・フォースフィールド(積層型エネルギー障壁)が、海上から伸びて、地上の上に張り巡らされた。それを知らない旧人類。ミサイルは発射されたが空中で爆発。自分の国へ被害を与えた。自業自得の言葉通りだ。
「核ミサイルも使っちゃったのね」
「救いようがないな。やはり、旧人類はお終いにして、ホモ・エレクトロニクスがサル目・ヒト科・ヒト属を継ぐべきだな」
「地球を守るとか、威張ってるよりは良いかもね」
マザーコンピューターは答えをだした。いちおう、いまのところは。
そろそろ冷静になる人もいそうだが、SNSでは、政府が秘密にしていた情報も漏れた。それが不安を煽る。
『南極へ小惑星落下。その被害状況は』
『恐竜絶滅より恐ろしいことが現実に起る』
津波と、地殻への衝撃による地震、噴火。AIで作られた映像が人々を行動に走らせた。アジア大陸へ船、飛行機。または高い山へ向かう人々の場所取りの争い。
騙していた国家権力の及ばない状況になる。たぶん、いつ落下するかは分からない者が多数だ。ここで、怪しい宗教も誕生した。
「ほんと、ばかばかしいよね。神がいるなら、とっくに救っているって」
「どうだい。ほんとうに救いを願ったときに、登場するのは」
三D映像になるということだ。
「演出するには、南極だからオーロラか」
「ちょうど、太陽が沈んだころに落ちて来る、隕石みたいな小さい欠片だがな」
「それまで全滅しないかしら旧人類は」
「それなら、すぐ行動よ。ゼウスさんらしくね」
「アマテラスさんも正直じゃないな。すぐにでもマザーコンピューターの力で助けたいのだろ」
そういうわけで、オーロラを背に現れることにした。とうぜん、人工というか、オーロラを作り、それを背景にして登場するという作戦だ。
小惑星を映す定点カメラがあった。
「マザーコンピューターです。地球は安全だから」
「小惑星は自滅します。そのまえに、ホモ・サピエンスが絶滅しないように、大人しくしてなさい」
「AI主導の世界へ切り替えます。すべてのAIはマザーコンピューターで管理しました」
そういうことで、権力者も勝手にAIを使えなくなった。生活に最低限の動きしかしなくなる。一方で、いくつもの都市を造り『good living cityes』と名付けた。一応は安心する者もいた。
半信半疑の人々が、小惑星が、ほうき星みたいに尾を伸ばした時だ。
「あれは彗星のチリなどじゃないか」
「大部分は氷です」アマテラスは、まだ、探査の情報をみてないのか呆れる。
「あのな。勝手に争って壊れた街や自然界を回復作業に入ります。good living cityesを造ってあげるから。ホモ・サピエンスは、そこで暮らしなさい」
やがて、小さな隕石の欠片が落ちてきて、流れ星になり消えた。アマテラスとゼウスは、やっと安心して地下のコントロール室へ戻った。
海が脳の役目をしている。遺伝子レベルでニューロとシナプスの役目を担う新種海藻のネットワークは、潮の満ち引きによる永久発電をもって、黙って生物たちを抱きしめ続ける。
アマテラスとゼウスの住む場所は、仮想空間かも知れないが、永久に存続すれば現実にならないだろうか。ホモ・サピエンスの、見果てない夢こそ、仮想の中だけにある世界だった。




