86.新庁設立 ◆ 三田 由宇理 ◆
潜在的繁殖成功度と言う言葉が有ります、女性が生涯にわたって何人子供を産む事が出来るのか。
実際は二年毎に妊娠出産を繰り返すと、母体が消耗してしまうので、あくまでも“潜在的”ですが。
この理屈でいけば、初潮が来たばかりの女性が潜在的繁殖成功度が一番高くなります。
本作ではこの理屈を反映させました。
現実のボリュームゾーンは18~20代前半で、胸元や腰回りが豊満な人が一般的です。
豊満な体形の方が妊娠しやすく健康だからではないでしょうか。
男性に関して繁殖成功度はあんまり関係ないです、妊娠をさせるだけならシニア世代でも可能だからです。
若さよりもむしろ子供を養うだけの経済力が重視されます。
あくまでも作者の見解です。
ヴィオラ学校から更に森の奥に有る窓一つない建物。
新人の娘達の養成所になっています、外との連絡は禁じられ、同級生達との会話は禁止。
そして、ご奉仕授業の最後に女性が嬲られる映像を見せつけられます、10歳児のメンタルはボロボロになっている事でしょう。
今日は二人目の娘のデビューです、わたしは悪役を演じる事に。
部屋には白いワンピース一枚の女の子、不安そうな顔でわたしを見上げます。
「お前、名前は?」
「…草那です」
「草那か、お前はこれからスタリオン学園に送られる事が決まった、これからは大勢の殿方に可愛がってもらえよ」
わたしはついて来いと手招きします。
何の飾りも無い廊下を歩くと、向こうから明神坂事務官がやってきました、今から小芝居の始まりです。
「三田さん、草那をどこへ連れて行くのですか?」
「スタリオン学園に決まっているだろう、この前の娘が潰れてしまったそうなのでな。
この子は丈夫そうだから、長持ちしそうだぞ」
わたしは精一杯ゲスな雰囲気を出します。
「待ってください、草那はまだ10歳ですよ」
「ここにいると言う事は孤児だし、スタリオン学園生の遊び道具として教育をしているのだろう」
「確かにこの子は孤児ですが、カイト様がお嫁さんを所望です、この場合はカイト様に優先権が有るはずです」
「……まぁ、規則ではそうなっているな、だがカイト様がお嫁さんとして受け入れなければスタリオン行きだぞ……」
▽▽
今までは孤児院と言う施設に所属していて、学校にも通っていましたが、今はどこの所属でもない、宙ぶらりんの状態で、男性からの暴力映像を繰り返し見せつけられ、不安イッパイな小学生。
数人の体格の良い男性が幼い子を押さえこみ、下品にゲタゲタ笑っている映像はトラウマものでしょう。
次はいよいよ自分の番と、恐怖と絶望感が高まったところで、最後の砦としてカイト様に会わせる。
種明かしをすれば単純な事ですが、子供を不安にするのには充分、そして優しいカイト様は不安まみれの子を優しく抱っこ。
モニターには体格の良い男子高生が、溢れるほどの愛情を注ぎこんでいる最中。
「三田さん、上手く行きましたね、それにしてもカイト様は優しいお方ですね、男性はもっとワガママと言うイメージがあったのですけど、あんなに優しくされたら一生着いていきますよ草那は」
「しっかり不安感を刷り込んだ後で優しくする、心理誘導の初歩ですけどね。
ところでヴィオラ学校の教師はずいぶん大勢いますね、これから生徒が増えるとは言え、ずいぶんな量を確保されたようで」
「ああ、ほとんどがF棟の女性ですよ、厚労省の社会・援護局から手回しをしてくれたそうで。
もうすぐ発表がありますが、そうなれば厚労省も文科省も関係なくなりますよね」
文科省の明神坂事務官、役職は知りませんが、行政職の等級はそれ程高くなかったはず、そんな彼女にも新庁設立の情報は当然の様に流れている訳ですね。
明日には全職員に向けて新庁設立の発表が有ります。
今までは内務省の男性管理部と言う部署だったのだが、男性庁と言う新組織として独立する事になりました。
男性専属担任から公務員の道を歩き始めたわたしですけど、官僚機構の無駄には驚きとため息の連続でした。
そんな無駄は会計検査院からも指摘されていたらしく、もっとシンプルな組織をと言う事で、男性庁では部局制を廃止して、課が基本組織。
我々公務員のトップは事務次官、現男性管理局の局長、半蔵門局長が横滑りで収まります。
庁付き参事官には厚労省の医政局から清瀬が入って来ます、厚労省が内務省に“貸し”を作ったから事務次官は内務省出身者に譲ったらしいです。
雲の上の話出来ごとですが、
わたしは三係長から三課長に、役職だけ見ればワンランク上がっただけですが、男性庁は部局が無いので、事務次官直轄の様な物。
気になるのは厚労省や文科省から移動して来る職員が結構います、新しい派閥争いは既に始まっています。
▽▽
翌朝日王市から帰って来たわたしを待っていたのは信じられない報告でした。
「……つまり荒川カイト様が復活したのは、ヴィオラ学校で最初の娘を相手にしたのよりも前と言う事か?」
「はい、三田さん、男性活動審査会の報告を確認しましたが間違いありません」
今は復活してメイド達と契っているカイト様、復活のきっかけはヴィオラ学校の娘達と言う筋書きだと思っていたのに、それでは誰の手柄かが分からなくなってしまう。
「何をしてもダメだったのに、どうして突然復活したのですか?」
「男性専用マンションの管理人に問いあわせたところ、その日の午後カイト様宛てに大量の郵便物が届いたそうです、所管の郵便局によるとリズムの里からの郵便が来た記録が残っているとの事です。
内容に関しては残念ながら確認が出来ませんでした」
リズムの里からどの様な形でも外部に連絡は出来ないはず、それが手紙を送るとは、所管官庁のかなり上の人物の横車だろう。
ヴィオラ学校には文科省や厚労省から上位職員が大勢入っている、派閥争いの先制パンチを食らったわけか。




