82.ブタとデート
稚草ちゃんとイチャイチャしたけど、それだけだよ。
ここは違う世界、初潮が来れば女の子は一人前、女にしてあげても良いのだし、周りもそれを勧めるのだが、俺にも超えてはいけない一線があるのだよ。
男性棟を出たのは午後の授業の真っ最中の時間帯、今から教室に行くのも間抜けだなぁ~。
なんて思っていたら、警護の礼文さんと利尻さんがやって来た。
「カイト様、今から警護にご協力をお願い出来ますか、大丈夫です学校の許可はもらっております」
「協力なら構わないけど、何をするの?」
「そうですか、まずはこちらに」
礼文さんに案内されて職員玄関のアプローチに向かう。
「あれ、いつもと違うね」
「カイト様、警護の落とし穴はパターン化です。
完璧な偽装工作でも毎日同じ事を繰り返していると観察者には見抜かれます。
時々イレギュラーな行動を取ってパターンを崩す必要があるのです」
俺の斜め前にいる礼文さんが言う。
斜め後ろを歩く利尻さんが続ける。
「ネットを精査していたところ、カイト様が男性警護の淡路島と別行動をしているのでは?
と言う書き込みがあったのです、幸いまだわたし達の存在には気がついておりませんが、今日は淡路島と親密な行動をアピールしてください」
「今日のカイト様の目的は淡路島とデートです、現時点で市外居住者が20人程駅前広場におりますので、見せつけてください。
大丈夫です私服も潜ませておりますので、安全は確保されております、なんと言っても淡路島も優秀な警護員です」
職員玄関の前に停まっている無人タクシー、横に立っているのはオシャレなワンピースをと今風の髪型をしたお姉さん。
「カイト様、勉強お疲れさまでした、お疲れのところ恐縮ですが、偽装工作にご助力をお願い致します」
「淡路島さん、普通に話そうよ」
「カイト様がそう仰られるのならそう致したいのですが」
今一つハッキリしない淡路島さんに礼文さんが背中を押す。
「淡路島巡査部長、今日はご褒美だと思って楽しんで来い」
利尻さんは俺の耳元で囁く。
「カイト様、今日は淡路島とホテルに入る事も偽装工作に入っております。
上司の許可も取っております、淡路島を好きにしても大丈夫です」
▽
無人タクシーに乗る時は扉の横が指定席の淡路島さんだけど、今日は俺の横に座ったお姉さん。
普段と全然違うメイクとヘアスタイル、フンワリと柑橘系の香りが漂って来る。
「カイト君、今日はわたしのワガママに付き合ってくれてありがとう」
「淡路島さんとデート出来るんでしょ、ご褒美だよ。
あれ、淡路島さん下の名前なんだったけ? デートなら下の名前で呼ばないとおかしいよね」
「翠ですよ、男の人に下の名前で呼ばれるなんて、女の子の夢ですよ。
わたしもカイ君って呼びますからね」
ニコニコしながら俺の脇腹をツンツンしてくる翠。
▽
「カイ君、こっちの服はどうかな? ちょっと子供っぽいかな」
ゴメン、色が違うくらいしか感想が浮かんでこないよ、女性ばかりの世界でも女の買い物に時間がかかるのは定番だったんだね。
「カイ君、ねぇ、どっちが良いと思うの?」
「えっと、紫色の方」
「それは最初にダメだししたじゃない」
「 … … 」
午後の駅前広場でブランド店巡り、今日の為に特別に手当てをもらったから好きな服を買えると喜んでいるよ。
税金を有意義に使っているみたいで何より、あっ俺は一円も納税してないや。
ブランド店の並ぶ高級な通りから、スイーツ店の並ぶ通りに向かうと、やはり淡路島翠は迷いまくる。
「ねぇ、やっぱりジェラートより、最初のパンケーキの店の方が良かったかな?
カイ君はどっちが良いと思う」
「そんなに迷うなら両方食べれば」
「もぉ、わたしだって年頃の女なのよ、甘い物をそんなに食べたらデブチンまっしぐらよ……」
結局候補にも入っていなかった紅茶の専門店に入ったのだから、何の為に迷っていたんだと言いたくなるよ。
ティーカップの底が見えると、いよいよホテルに、
裏口の無人カウンターではなく、正面のカウンターから堂々と男女が入室、注目を集めているのが肌で感じるよ。
部屋に入ると、オシャレなワンピースがパサリと床に落ち、パステルカラーの下着姿になった翠。
ここまではいつもの流れだけど、ひざまずいて俺に足にすがって来た警護員。
「ご主人様、わたくし醜いブタです、イッパイ蹴って、踏みつけてください」
「ちょっと、それは、どう言う遊び、高校生の俺にはレベルが高いんだけど」
「遊びなんかではありません、わたし達男性警護員は殿方に欲情しない様に訓練を受けます。
簡単に言うとわたしはカイト様専用のマゾ人形です、痛くしてくだれば、くださるほど乾いた心が満たされていくのでございます。
さぁ、わたしの醜い身体を足蹴にしてくださいまし」
何と言うか情報量が多過ぎて頭がオーバーフローだよ。
「えっと、エッチはしないの?」
「わたしの様なブタにはもったいない話です、一日穿いた汗臭いソックスで踏みつけてください。
それとも、わたしは踏む価値もない女でございますか」
人に暴力を振るうのはハードルが高い、それがいつもお世話になっている優しいお姉さんだよ。
「叩いたりするのはちょっと嫌だな」
「そうですよね、わたしみたいなブタなんて蹴ったらお見脚がけがれてしまいますよね。
あの、言葉でイジメていてだけませんか」
暴力はハードルが高いけど、悪口がお手軽な訳ではない。
さっきまでデートしていた相手だよ。
「…… お前臭いんだよ」
「申し訳ございません、わたしは養豚場育ちでございます」
「お前の顔はウソみたいに汚いな、ブタに失礼だ、便器って呼んでやる」
「はい、わたしはご主人様専用の便器です」
これ以上ない笑顔になった淡路島翠。
俺はベルトのバックルをカチャカチャと外す。
「ほら便器、仕事をしろ!」
「はい、一生懸命ご奉仕致します」
▲
汚らしい水音を立てながら頭を前後に動かしている淡路島翠。
「もういい、やめろ」
俺の足元で申し訳なさげに、上目使いのマゾ翠。
口周りがヨダレだらけなのに拭こうともしていない、見苦しいメス顔。
「… 申し訳ございませんでした 」
「うるせー、この役立たず」
肩の辺りを軽く蹴ると、護衛のお姉さんはコテリと転がる。
「あっ、ゴメン、大丈夫?」
ヒマワリみたない笑顔になったお姉さん。
「ご主人様、足蹴にしていただき、ありがとうございます」
もうやだ、こんな事。
一番の常識人だと思っていた警護官が一番困った性癖でした。




