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無駄話 早寝早起き、朝やまびこ

第4部分に投稿していた番外編です。本編が完結したことに伴って、場所を最終話の後に投稿しなおしました。


 グリア村に引っ越した次の日。朝日が昇り出している。リリアは玄関を背にして立っていた。大きく息を吸う。






「おはようございまーす!!」






 村人達の民家がある方に向かって、朝の挨拶を行う。すると、同じように返事が返ってくる。それから次々に声が木霊して帰ってくる。リリアはもう一度、大きく息を吸った。




「おはようございまーす!!」


「うるさい! 何時だと思ってんだ!」


「おはようビリー、今は朝の五時よ」




 扉をバンは無理なので、窓を開けて怒鳴る。目は半分閉じていた。リリアは、だらしない恰好をしている執事に朝の挨拶をする。




「お、お嬢様! おはようございます! 少々お待ちください!」




 半ば寝ぼけていた彼は、リリアの存在で目を覚ます。今の自分の格好を思い出して、急いで中に戻った。そして、わずか数分でいつもの執事服に身を包んだ格好で現れる。




「おはようございますお嬢様。良い天気ですね」


「今日のビリーの寝ぐせは鶏でしたー!!」


「ちょっ、なんてこと叫んでいるんですか!?」




 慌てて窓枠に足を乗せて外に出る。リリアはまだほかにも叫ぼうとしていた。




「今日のビリーのパジャマはいちご」


「やめてください!」




 朝から恥ずかしいことを言われそうになり、半ば無理やり彼女の口を塞ぐ。リリアは、もごもご言いながら抵抗はしない。うっかり彼の手を折りかねないからだ。


 移住してきて二日目。朝の新鮮な空気が美味しい。




 では、ここでなぜリリアが平地でやまびこをしていたのかお教えしよう。






「今日の家の旦那のパジャマはおそろいのウサギ柄ー!!!」


「!? 何だこの声」


「ぷはっ、へー!! 可愛いパジャマだねー!!」


「そっちのパジャマはー!?」


「ビリーが駄目だってー!!」


「ケチって言っといてー!!」




 なんと違う言葉となってやまびこが帰ってくるのだ。この現象は、朝5時から10分の間にしか見られない。そんなことも知らない移住初心者のビリーは、かなりビビっていた。




「今日の担当は村のマドンナ、マリアさんだったのね。相変わらずラブラブなんだから」


「いや、アンタ俺とここにきてまだ2日でしょうが。なんで村のマドンナと知り合いなんですか」


「そういう貴方だってハンナさんと知り合いじゃない」


「俺はたまたま去年死んだ旦那さんに間違われたんです」


「出会いが思ったよりもヘビー」


「俺の姿が旦那さんの若い頃に似ていたそうですよ」




 ビリーがリリアの両肩を掴んで揺さぶる。とても主従関係があるようには見えない。彼には、彼女がどうやって村の人と知り合ったのかよりも、もっと説明してほしいことがあった。




「お嬢様どういうことですか!? なんで村の人とこんな朝早くからやまびこなんてしてんですか!?」


「あらやだ、知らないの。ここでは毎朝やまびこでご近所さんと挨拶を交わすのよ」


「どんな習慣だよ!」




 こうやって話している間にも、いろいろな声が村を飛び交っていた。昨日のご飯についてや、日曜学校の授業、野生の猪が出るから注意してくれなど。毎朝やまびこで挨拶を交わすという習慣は本当のようだ。


 わざわざ朝から大声を出さなくてもいい気がするのだが、早起きには最適な習慣かもしれなくもない。いや、やっぱり要らない習慣だ。やがて、声は聞こえなくなった。どうやら終わったらしい。始まってからわずか五分の出来事だった。今日の挨拶は短めのようだ。




 リリアは朝日を浴びながら大きく伸びをする。






「今日も良いやまびこだったわね。ビリー、朝食の用意をして」


「お嬢様、まだ朝の五時です」


「この村では朝五時以降に起きた人はもれなく寝坊に分類されるわ」




 なんてことだ。早起きにもほどがある。






「ちなみに夜9時に寝ないと夜更かしになるわ」


「おじいちゃんの村ですか!?」


「若い人よりお年寄りが多いからね」




 グリア村は、村人の半数以上が六十歳以上という驚異的な過疎化地域だ。余談だが村のマドンナ、マリアは三十代後半のおば様である。




「ビリー、ここで暮らすからには、貴方も順応しなくては駄目よ。ちょっと耳の遠い方や足腰が不自由な方がいるんだから、ちゃんと助けるのよ」


「いや助けますけど、そうじゃなくて俺は何でこんな独自な文化が生まれているのかを知りたいんですけど」


「まあいいじゃない、それより早くご飯を食べて畑に行きましょう」




 リリアが屋敷のドアを開けて入る。




「はあ、なんかやっていけるのか不安になってきた」




 朝から疲れてしまったビリーも、後に続こうとドアに近づく。そして、ドアを開けようとした。開かない。






「あ、そうか。お嬢様がいないと開けられないんだった」




 すっかり玄関ドアのことを忘れていたビリーは、さっき外に出る時に開けた窓に近づいた。




「あら、窓が開きっぱなしじゃない。泥棒が入ったらどうするのよ」




 先に屋敷に入っていたリリアが窓を閉める。




「ん?」




 ビリーが、ガタガタと窓を開けようとする。開かない。リリアが窓から離れていく。






「ちょっと、お嬢様! 俺まだ中に入ってないです! お嬢様! 開けてくださいお嬢様! おじょうさまー!」






 窓を叩いて呼びかけるが、彼女には届かない。




「お嬢様! 開けてくださいお嬢様!! 開けないとお嬢様が部屋に隠してあるケーキ食べちゃいますよ!」




 リリアが、ビリーがいないことに気づいたのは、朝食の準備を始めて少し経った後だった。その間、彼は昨日知り合ったハンナ叔母さんの家に避難していたそうだ。


 そして、無事家に入れた後、リリアがこっそり隠していたケーキは、ビリーの(一方的な)約束通り彼がいただいた。



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