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これはどう言えばいい地獄ですか?

あ、こいつらはさっきシャワーブース近くにいたやつらだ!やつらはわざと19層以前の話を出してケンカを売っている。


「お、おい!おまえら!ちょっと事の先後を考えろ!ここには銃を持っているやつらがいて、女もいる!それが先じゃないのかよ!」

「カイロス!われら玉将たちが16層で分けた時、我らは君と一緒だったが、てめえの部下になった記憶はねえんだよ!」


反乱。


よりによって元玉将のやつらはここで長に反旗を翻した。そして、反乱者が仲間に抱き込んだやつらが話に口を挟んで、手の施しようがなくなった。


「カイロス、アイディの分配も納得出来ないし、女子も時にはデカブツとてめえが独占しただろう?」

「カイロス、我ら新人たちにも文句なら一杯あるんだよ!」


そして、反乱のトリガはぼくの予想通りに「相棒の死体」だった。


「これ!デカブツだ!デカブツが死んだ!あの銃を持っているやつに殺された!」


その話が決定的だった。


「ええい!デカブツがないなら、カイロスは問題じゃない!カイロスを殺せ!やつとデカブツが持っているアイディには三百万と二千万がある!」

「わあああ!カイロスをやっちまえ!アイディを奪え!」


これはまさに地獄図の中で地獄図だった。銃を持っている敵がいるのに、やつらは何気なく反乱を起こした。刃物がぶつかる金属音とやつらの叫びがこの風呂の中で恐ろしく響いた。


「長。なんでこんな事になったんだよ。」


ぼくがあの相棒を殺して長は殺されるかも知らない。長はもうぼくを攻撃しろって言っているが、ぼくは長を・・・・。長の「すまない」って一言がまだぼくの心には暖かく残っている。


「すまない。長。」


ぼくはそう言うしかなかった。しかし、森と一緒じゃなかったら長とぼくは一緒に戦う事が出来たのか?それは違うだろう。


長はもう選択をして、その選択はぼくと一緒に歩けない選択だった。


ただ、切ない気持だけだ。ただ。


「いこう。この間に降りる。」


ぼくはナミとマリア、森に首を振ったあと、のそのそ這って先に出た。周辺の浴槽に飛んできた矢がぶつかれて恐ろしい音がするたびにナミは震えた。


長やつらの内戦はぼくが思ったよりもっと激しいようだ。戦闘が終わる気配がない。

悲鳴、叫び、なんかが壊れる音。音だけ聞こえないのでその不安感はもっと大きくなった。マリアがその不安が堪らないようにぼくに話をかけた。


「お、おじさん。出口はどこ?」

「おじさんじゃない。ぼくは。そして、じゃんとわかっているから静かにしろ。」


出口がどこにあるのかはもう気づいている。上ってきたやつらの話声と足音の方向、そしてこのくそったれの風呂の構造からこの前が出口だと言っているようだ。


ぼくは地面の「排水路」を見て方向を決めた。やつらの声が聞こえたどころも排水路の方向と一致する。出口はそこにある。


「サウナかよ。」


出口はなんとサウナの入り口だった。しかし、この建物の構造を考えたらこっちに出口があってもおかしくない。


そして、ぼくらはこの不自然な水蒸気がどこから出るのが気づいた。

確かに長は「バルブ」をあげるっていったよな?サウナには大きいな配管パイプがあってそこから蒸気が出ている。


多分、蒸気サウナとかを作ろうとして、その完成はできなったようだ。サウナの入り口には壁が崩れれパイプの配線がそのまま見える。

この周辺は特に水蒸気がひどくで目の前にある手までよく見えないほどだった。


「も、森田。」

「しっ。」


やつら全員が反乱に加担しない場合もあるので、ぼくはなるべく用心深いに中を見つめた。


「だれだ!やっとカイロスは殺したのか!」


なんと、中から誰かの話声が聞こえた。ぼくは銃を照準して森に横目を使った。

あの反乱に加担したやつがここにいたのか?


森は「どうする?」って目でぼくを見つめている。シャワーブースでぼくが聞いた通りなら、反乱者たちには兵力が十分じゃない。つまり、予備兵力なんである訳がない。


「ああ、やっぱ、てごわいんだ!デカブツが問題だ!てめえもそこから出て手伝ってくれ!」


森はぼくの話を聞いてびっくりしたが、ぼくはぬけぬけと差し迫って話す振りをした。


「くそ!このままなら、我ら元玉将の兵たちが全部殺される寸前だ!」

「ほ、本当かい!こんな!可能性あるだといったじゃないが!」

「分からん!早く!早く出てけ!全部!全部出てけ!」


ここはもっとも水蒸気が深いので、前もよく見えない場所だ。やつらが何人かは分からないが、多分三人を越える数はない。ここなら三人ほどは何とかできる場所だ。ぼくは森の肩を叩いて、準備しろって信号をした。


「ええい、全部だと言ってもここは俺しかいないだと・・・。え?」


のこのこ出ているやつの首に銃剣がついた。武器を持ってサウナから出ていたやつはそのままその場で凍ったように止まった。


「て、てめえは。」

「死にたくないなら静かにしろ。武器を下ろせ。」


どうせ悲鳴をあげても無駄だ。反乱戦争が終わっていないので、風呂はまた悲鳴と戦う音しか聞こえない。


やつは静かに自分の刃物を地面に落した。マリアはただちに落ちた刃物を拾って、森はやつに別の武器はないか探した。


「て、てめえは何だ?ま、まさか、さっき言っていた女子付きグループ?」

「自己紹介する時間なんかない。言え。何人だ。」

「え?え?」


サウナで出てきたやつは目をキョロキョロしている。やつは40才ほどの中年の人で結構太った体型だった。これじゃどう見ても「戦士」とは見えない人だ。


「何人だ。二度と同じ事を言わせるな。」

「十五人。」

「ウソ。」


ぼくはやつの首を切るように銃剣を刺した。やつの喉から血が落ちて、やつの顔は真っ白になった。


「さ、三十五人!三十五人だ!」

「よし、よし。よいこ。よいこ。」


マリアが余計なお世話で口を挟んでいた。


「銃を持っているやつは?」

「な、ないんです。」

「いきなり敬語かよ。矢は。」

「竹で作ったのが何本、カイロスが持っているのが一つ。」


ぼくは中隊の投石機とかを考えていたが、やつの言う通りなら大した武器はないらしい。ぼくは続いて長から聞いた「ジライヤ」について問った。


多分、こいつらがここで止まっているのはなんかすごい強敵に叶えないって事だろう。その強敵が「ジライヤ」なのか?ぼくはなんだか分からないが、そのジライヤこそ中隊長が19層で通過した「ブリ─プケース」の男らしい。


「ジライヤは何だ。」

「ジライヤはその文字の通りの意味ですよ。」

「なんだと?忍者とかそれを言っているのか?ふさんけんなよ。」

「ほ、本当に。その意味で・・・。」


その瞬間どこから大きな声が聞こえた。


「カイロス万歳!カイロス万歳!」

「反乱は終わった!女子たちを追え!カイロス様万歳!」


反乱は長の勝利で終わってようだ。それにしてもカイロス様かよ?ぼくは「カイロス様」の言葉だけで直感的に長が中隊長ようなカリスマがあるリーダになった事を気づいた。


これからはちょっと生温い関係だったやつらが、序列を決めたらここまでとは違う集団になる。ぼくはもう一度中隊の波状攻撃を考えて身震いをした。


反乱とぼくとの戦いで失った数が20人、いや25人だとしても、35人のやつらより、真面に統制されている10人の方がもっと怖い。そして、長はもっと恐ろしい「毒」をやつらにの混ぜた。


「カイロス様がおっしゃった!女子付きのグループの中には三千万のアイディがある!」

「三千万だ!これからの苦労を全部補償するほどのお金だ!不動産企業の御曹司「森秀二」がそこにいる!」

「やつを生け捕りしたら、森秀二を人質としてやつの親を脅かしてもっと大きなお金を貰う!」

「女子たちはどうでもいい!森秀二を狙え!男の方だ!」


まるでウェスタン映画で保安官が犯罪者に懸賞金をかけるようだ。長は反乱の後始末のために森の莫大なアイディに自分の部下を幻惑させた。


不動産企業の森家は太田家よりは有名ではない地元の業者に近い規模だったが、森家を知るか知らないかはそもそもアイディ稼ぎに目が眩んだやつらにはなんにも問題ない。


「さ、三千万だと?さ、三千万なら、女房の手術も出来る。あの人が手術をして生きる。人工透析ももうしなくてもいい。」


太った男は急に森の方を見つめた。森の首にはなんと「秀二」って本人の名前が書いているアイディがかけていた。

太った男が大声で仲間を呼ぶながら森に飛び付いた。


「ここだ!ここに「三千万がある」!三千万だ!全部じゃなくてもいい!おれが握っているからちょっとだけでもいい!俺の妻に!手術を受けるように伝えてくれ!」


え?やつは武器を下ろして素手だった。彼はずっと妻に三千万の一部でも伝えてくれって叫ぶながら

森を両腕で抱えた。


森は慌ててどうしようもしなくてジタバタしている。


「サウナだ!サウナに三千万がある!」

「分かった!そこかい!ちょっとまって、おっさん!」

「妻に伝えてくれよ!だった五百万円でもいい!手術費を伝えてくれ!おまいら!俺が言ったことを忘れるな!」


太ったおじさんの行動に驚いたのは森だけじゃない。ぼくも銃を握っているのに何にも出来ずに、太ったおじさんが汲々に森を捕まっているのを見つめるだけだ。


このおじさんと彼の妻が建物の外でなんかあったのかは言うこともない。彼の服を見たら豊かな生活はないのに、妻が腎臓が悪いのでずっと手術を待っていたはずだ。


森ような金持ちに何百万円の手術費はなんにもないけど、こんな人には越えられない壁として見えただろう。ぼくもよくは分からないがこの太ったおじさんの気持が分かる気がする。


自分がここで殺されても妻だけは生かせて貰えたい。

自分はここで死んでも、せめて妻に手術を受けられたい。


ぼくは涙が出るのをやっと我慢した。こんなアイディなんかで、プラスチックなんかで、武器もないのに素手でなんであんなに戦うのかよ!


森は慌てて太った人を斧の棒で殴っている。太ったおじさんはどんどん身をかがめて森の足を握っていた。


「逃すもんか!絶対逃さない!絶対放さない!妻が!妻が死んでいるのに、俺だけ生きるもんか!」


マリアもナミもなんにも出来ずに不安な目でお爺さんを見ている。


森を見たら森もおじさんを殴るながら歪めた顔でわいわい泣いている。


殴る人も、殴られる人も泣いている。


森は口では「ごめんなさい」を連発しながら泣いていて、おじさんは意識がなくなっていても「逃さ

ない」を言っている。



神様よ、仏様よ。



これはどう言えばいい地獄ですか?



ぼくはどうすればいいんですか?

どんな選択をすればいいんですか?


「ナミ、マリア。先に行って。」

「で、でも。このままじゃ。」

「さっさと行け!喋る暇もない!」


マリアはぼくの顔を見てすぐナミを連れてサウナの中へ走り出した。例え、こんなに広い風呂だと行っても、もう時間がない。ぼくは銃を照準した。森の動きが止まってぼくを見上げた。


やつは泣いてめちゃくちゃになった顔でぼくを見つめている。そして、やつは覚悟が出来たようにぼくに向かって首を振った。森の涙はいつの間に止まっていた。

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