41 「勝利と喜び」
勝ち鬨の声を背に、俺は兵士から剥ぎ取るようにして借りてきたマントをクリスタにかける。
ルビィもアクエリアスもボロボロだ。
婆様はクリスタを労い、優しく背中をさすっている。
俺はと言えば、ルビィが褒めてくれてるも、背中をバンバンと叩かれている。
なんでだこの差。
兵士達に囲まれて賞賛される頃には、
エミィが急いで家から取ってきた服をクリスタに手渡していた。
ルビィが兵士から更に何枚かのマントを剥ぎ取り、クリスタに覆い被せている。
婆様が俺の前に来て賞賛の言葉を投げかけてくれる。
「海よ。お前は実に大した奴じゃ。碑文の伝説を現実にし、水晶竜まで顕現させるとは。」
「碑文って婆様の作り話ですよね?」
「うぐっ…察しておったか。」
「誰も碑文を見てないんでしょう。館での訓練の時といい、騎竜具の事といい、
不思議な点が多すぎます。少なくとも婆様はどこかで竜を見た事がありますね?」
「うむ…落ち着いたら一通り話そう。竜が顕現した今なら、どんな突飛な話でも信じるだろうからの。
簡潔に一言でいうなら、あれはわしであってわしでなかった。」
確かに。
白竜どころか全身水晶の竜まで現実に現れた今なら、
どんな与太話でも信じる。
クリスタが着替え終わり、いつもの定番のオフショルダーニットの服に落ち着く。
だが、いつもと違う点がひとつだけあった。
大きな首輪をしていたのだ。
黒くて一見革に見えるが光沢があり、謎の材質のようだ。
そして一本の細いベルトが垂れ下がっていた。
重さが無いように風に揺らめいている。
俺はピンと来た。
これは騎竜具が変化したものだ。
俺はそのベルトを握り締める。
クリスタが怪訝な顔をしていった。
「あれ? その紐、私が握ろうとすると逃げるのに…この首輪外れないし。」
「クリスタ、勝利のお祝いに熱い口づけが欲しいな。」
「うん、いいよ。 …って、あれ? 体が勝手に~」
クリスタが俺の肩に腕を回しキスをした。
流石にすぐ放したけど、このくらいご褒美があってもいいよね?
ダメでした。涙目で胸をポカポカと叩かれた。
可愛いなあもう。
直後にルビィに膝蹴りを食らった。
加減したのだろうが体が浮くほど痛いぞ。
俺たちを取り巻いていた兵士達からもドッと歓声と笑い声が上がる。
俺とクリスタは視線を交わして何となく通じ合った。
魔力王の事はまた時間を置いてから話そう、と。
ただ今は、ソーサリスを守れた事を素直に喜び合おうと。
クリスタがややわざとらしく大きく肩で息をした。
「あ~、本当に疲れました。もう、すっごくお腹が空いてます!」
俺もわざとらしく乗って大仰に答える。
「伝説のドラゴン様が供物をご所望だそうです。早く帰ってご飯にしないとクリスタが痩せてしまう。」
「太ってないよッ!」
ルビィが俺の腕を引っ張って言う。
「ちょっと海、私も竜にしなさいよ! どんな竜になるのか楽しみだわ!」
「今は勘弁してくれ。もう反魔力を使いすぎて精神力が空っぽだよ。」
「なによぉ。私とキ、キスしたくないの!?」
したいとかしたくないの問題じゃ無いっての。
私も私もと飛びついてくるエミィの頭を撫でてやりながら、
ふと疑問に思ったことをクリスタに聞く。
「クリスタって本名なの? つまり、生まれた時からその名前なの?」
「ええとね。ソーサリスでは子供の頃は親からもらった幼名で名乗るの。
クリスタはここに来てからお師匠様に頂いた名前よ。」
なるほどね。最初から分かってた訳だ。
これも後できっちり問いただしてやろう。
ゴールドドラゴンこと、グロリア・ゴールドバーグ婆様にね。
「子供の頃はミルクって呼ばれてたわ。ミルク・ディアマンテス、懐かしいなあ…」
ディアマンテス!
俺はめまいがした。
クリスタルドラゴンの上、第三形態までありそうじゃないか…
金剛石とは、これまた飛びっきりだ!
婆様を睨むと目を反らされた。
あれはゴールドドラゴンじゃない。
きっと腹まで黒い狐、ブラックフォックスだ。
そんないつもと大差の無い軽いやりとりをして、俺達は道場へと足を向けた。
何はともあれ腹いっぱい食わねば。
ソーサリスの飯は全くと言って俺の口に合わないが、
それでもきっと、人生で一番旨い飯になるに違いない。
道場に戻るため、兵士の波をかきわけてる中で俺はレオンハルトの姿を見かけた。
その時は声をかけるかどうか迷ってやめた。
今、声をかけても上手い言葉をかけてやれないと思ったからだ。
だが、それを頭から追い払おうと思ってルビィと軽口を叩き合っても、
なぜか不安がいや増すばかりだった。
何かがおかしい…
その理由に気が付いたのは道場の前まで来た時だった。
俺は皆が静止する声も聞かずに
体中から湧き上がる嫌な汗に急き立てられるように走り出した。
そうだ
目線だ
奴は俺達を見ていなかった。
俺達の後ろにあったものを見ていたんだ。
魔力集積装置の核、
魔力結晶だけを濁った目で見つめていた――!




