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竜種少女と静かに暮らしたい  作者: るっぴ
第一章 「竜の魔法使い伝説編」
31/86

39 「クリスタルドラゴン」

うわああああ!


俺は空中を落下している! 落下の空気抵抗で息もできない!

あの一瞬で一体何千m上空へ投げ出されたのか。

さすがに空が暗くなってないし、空気があるから何千mて事は無いが、

このままだと転落死は免れない!


クリスタどこだ! 俺を見つけてくれ!!


いた! あの光だ!

しかし空気抵抗のせいで手を振るのはおろか、ろくに息も出来てない!

目前に分厚く黒い雲が迫る。

苦しくて意識が遠のく。


クリスタ、上手く拾ってくれよ…!





雲の中で空気抵抗が軽くなり、ふわっと接地する。

俺はクリスタの、竜の背中に着地した。

何だかさっきより更にその背中は硬い…というか、角ばっている。


俺は目を見張った。

クリスタこと白竜は変身していた。

更に大きく…透明な、結晶の竜へと。


「ふう、危なかったぁ~。大丈夫だった? 海くん。」


羽や尻尾の先は虹色に見える。角度によって色々変わるようだ。

雲の下に来た今ではそうでもないが、明るい陽光の元でならさぞかし綺麗な事だろう。


「何か更に強くなったみたいだよ! 苦しくないし、力がモリモリ湧いてくる!」


強いだろうなあ。

大きさも更に1.5倍ほどになっている。

もう頭なんか俺の丸呑みしても平気そうだ。

口の中で四畳半部屋が作れる感じだ。


それにしても言うべきか、言わざるべきか。

いや、言わないと怒られるだろう。

予め顔を背けてから言う。


「クリスタ! 怒らないで聞いてくれるか?」


「うん。どうしたの?」


「その、な… 見えてる。」


水晶の竜の体だ。

中身丸見えなんだよね。

結晶の角度によってやや白や青味がかってるとは言え、

裸のクリスタが竜の首筋に立っている俺の目と鼻の先にいる。



「キャアアアアアアアアアアアアアアッ!」



水晶の竜が咆哮した。

耳にクリスタの地の声が直接入ってくる俺は

キンキン声に驚いて思わず手で押さえた。


「海くんのバカ! 見ないで!!」


クリスタこと水晶の竜はバタバタと身じろぎすると体の色が変わる。

ほぼ透明だったからだが曇りガラスのように白くなる。

体のラインはぼんやりと見えているが、クリスタはこれなら我慢できるようだ。


「あ…あんまり見つめないでね。」


「分かってるよ。ともかくパワーが戻ったなら後一押しだ!」


「うん! これなら絶対勝てるよ!」


俺たちは地面すれすれの低空飛行で城門前に向かった。


「あれ? お師匠様が何か叫んでるよ?」


クリスタが突如向きを変え、婆様達の居る所へ向かう。

目の前まで来てその場で急減速し、ホバリングのように停止した。

慣性無視しまくりだなあ。


婆様が叫んでいる。

もう俺が立っている水晶竜の首元は高さが20mほどもあり、

地上からは叫ばないと声が届かないほどなのだ。


「海よ! でかしたぞ! まさか一気に第二形態まで行けるとは! これを使え!」


婆様は木の箱を投げた。

なんで第二形態がある事を知ってるんだ、この人。

どうも何か隠して…いや、危ない!


木の箱が俺の目前に迫った!

当たったら死ぬぞ! 竜種の馬鹿力!


思わず避けた俺の脇に木箱が転がり落ちた。

ああ、騎竜具とか言う魔法の乗馬道具だ。


箱を開けると、竜をかたどったひとかたまりの道具が出てくる。

俺がそれを手にすると、驚くことにひとりでにスルスルと動き出した!

キモい!


なるほど。

これは第二形態になった竜に反応して、騎乗しやすくするための道具だったのか。

元のサイズから考えられないほど長く伸び、クリスタの手足、尻尾と首に巻きついている。

俺がまたがるための鞍もある。これは助かる。

水晶竜の背中はちょっとした家が建てられるほど広いが、

何分座り心地は最悪だ。しかも傾斜がある。


手綱も首に回してあるが、竜の首元に差し込んでいった3本目の手綱がある。

俺は何だろうと思い、それをクイッと引っ張った。


「きゃうっ!」


クリスタがそこから飛び出してきた。

3本目の手綱はクリスタの首に、首輪となって括りつけられていた。

一瞬、豊かな胸も何もかもがあらわになる。


「海くんのスケベッ!」


ビンタされた。

不可抗力…とは言い訳できないか。


「悪かった。もうしないから許してよ。」


すぐに水晶竜の体の中に戻ったクリスタに

3本目の手綱をプルプルたゆませながら謝った。


「分かった。もう気にしないです。」


あれ? 妙に素直だな。

クリスタ自身も首をかしげていぶかしんでいる。



ピンと来た。




「クリスタ。愛してるって言って?」


クリスタは恥ずかしがりながらも、


「海くん…愛しています。」


と言った。

言った後に中で身悶えしている。


何て素晴らしいんだ!

これは<絶対服従の手綱>だ!


だが、やった事と命令された事は覚えているようだ。

だってクリスタがこっちを睨んでるのが曇ってる結晶越しに分かるもの。

悪用は禁物だな…下手すれば嫌われるどころか命が危ない。


緊急時以外は手放しておこう。


「よし! 体勢は整った。クリスタ、魔力王との決着をつけよう!」


半ば誤魔化すように、鞍の上に立ち上がって俺は叫ぶ。


「うん。これ以上、苦しむ人を出したくない! 魔力王も!」


クリスタが決意のこもった声で言う。

そうだな。俺はそこまで考えていなかったよ。


クリスタは魔力王を救うつもりだったのだ。

命は無理でも、せめて心だけでも。


けたたましい歓声があがっている。

何かと思って振り向くと、ここまで生き残った兵士達だった。

武器や盾を掲げて鬨の声をあげている。


そうか、さっきまでの白竜はただの魔王対竜の怪獣大決戦だった。

でも今は俺が目の前で騎乗の鞍をつけて水晶の竜を御している。


今は人間対魔王の戦いに、彼らの目には映ったのだ。

口々に兵士達が叫んでいる。


「クリスタルドラゴン…!」

「新しい竜だ! 竜は味方だったんだ!」

「伝説の魔法使いだ!」

「竜使い(Dragon Tamer)が舞い降りた…!」


ドラゴンテイマー。竜を操る者。

何とも気恥ずかしい。

同じDTでもその意味には天と地の差がある。


声援を受けて戦うなんて俺の人生初の出来事だよ。

色々底を尽きかけてるが、最後のひと踏ん張りするしかない!



決着の時だ。



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