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竜種少女と静かに暮らしたい  作者: るっぴ
第一章 「竜の魔法使い伝説編」
24/86

24 「対 魔力王戦」

「竜種か…いいだろう。」


魔力王ドルゲスタが重い口を開いた。老人のそれを予想していた俺を裏切って、若々しい声だった。

奴は目元を覆う2本の角が付いた仮面を着けている、身長が5mほどもある巨人だ。


体を覆うマントの隙間からは紫の色をし、ほのかに輝く魔力結晶が覗いている。

結晶からはチューブのようなものが伸びており雑な包帯を厚く巻いた体に繋がっている。


右手は空だったが、突き出されたその右手のひらから突如鮮血が噴き出した。

鮮血と共に魔力結晶が伸びて刃の形となる。


魔力結晶の刃の内側には血管が張り巡らされていた。

脈動する血管が結晶の鈍い光で浮かび上がり、不吉さをいや増している。


クリスタがその動作を棒立ちで見てるはずもなく、

素早く魔力王の左膝をめがけて飛び上がるように切り付けている。

竜気を発動した以上、彼女達に立ち止まる余裕は与えられないのだ。


ガシャッ!


積み重ねていた何かが崩れるような音を立てる。

魔力王のマントが裂け、血と共に千切れ飛んだ。


クリスタの攻撃は見事なまでに魔力王の膝を打ち砕いた…はずだった。

だがドルゲスタの膝の薄皮一枚とわずかな血の下は魔力結晶で占められていたのである。


魔人カーラマンの四肢をも切り落とす強撃は、魔力王の魔力結晶をわずかに削り落としただけであった。

生身の部分に見えても中身はほぼ魔力結晶そのもの、こいつに弱点はあるのか!?


ならば、とクリスタは魔力王の脇腹から伸びて自身の体と露出した魔力結晶を繋いでる管に目をつけた。

一閃、束ねてひとつにしてあるチューブをまとめて5.6本切断した。


千切られたチューブからは蒸気と溶かした結晶めいた紫色の液体が勢い良く噴出したがすぐに収まる。

やにわにチューブの切断面が鋭く変形したかと思うと、それ自体が意思を持つかのようにうごめいた。


10本のチューブの先端が蛇の如く鎌首をもたげ、驚くべき速度でクリスタに向かう!

クリスタは転がって回避しチューブは地面に突き立った。


そこへ魔力王の脈打つ結晶剣が襲い掛かる。

バランスを崩したままの体勢で強引に結晶剣をブロックしたクリスタは吹き飛ばされた。


「竜種も一人ではその程度か。」


攻守が完全に逆転し魔力王の攻勢が勢いを増した。

結晶の剣と10本のチューブによる触手攻撃の手数でクリスタを圧倒しようというのだ。


だが、流石は竜気を発動したクリスタ、魔力王の結晶剣と10本のチューブ触手を全て剣と体術で裁いている。

しかも時折、隙を突いて反撃し魔力王の結晶の体を少しずつ削り落としている。




「クリスタ! 一反距離を取れ! そのチューブの攻撃範囲は狭い!」


俺の声を聞いて、ドルゲスタの結晶剣を弾いた勢いを利用してクリスタが間を空ける。

既に肩で息をしていた。彼女の周囲に渦巻くマナも濃くなっている。

明らかにこのまま接近戦を続けてもジリ貧だ。


しかしクリスタの離脱を魔力王が容易に見逃すはずも無かった。

既に左手を掲げ破壊のエネルギー球を精製している。


俺の出番だ!

急いで反魔力を炊き両手を前に出しクリスタと魔力王の間に立ちはだかる。


視界が黒い光で塞がれた。

俺の予想より早い段階で破壊のエネルギーが射出されたのだ。

威力は先ほどの10分の1程度だろうが、確かに俺達だけを倒すならそのほうがいいのだろう。


突き出した手が酷く痛む。

恐らく手の平の表面はズタボロだろうな。


だが、それで済んだ。

俺は魔力王の攻撃を防ぐ事に成功したのだ!




「まさか…! 呪詛砲カーシングキャノンを防ぐとは。 貴様、何者だ?」


魔力王が怒りのような狼狽を湛えながら俺に問い質す。

俺は精一杯の不敵な笑みを浮かべて余裕があるような演技をして応える。


「長年魔力を溜め込んだからって、それだけで防がれないとでも思ったか?」


「防げるはずが無い。教えてやろう、今の呪詛砲は本来魔術師が千人がかりで使う

 呪術防御を無視できる物理化した呪いだ。」



…嘘ですよね?

それを聞いて今更に汗が噴出す。

ここはそういう場で、そういう相手なのは分かっているけれども!


先にそんな事を聞いてたら尻込みしたに違いない。

だが、もう防いだ。防げる事は確認した!


俺は奴と渡り合える!


虚勢でいい、ここは大きく出ろ!


タイミングも完璧だ。北側から正規兵が進軍してくるのが見えた。

その中には大量の馬に牽かせている荷台に乗った巨大な紫の結晶がある。


魔力集積装置、もちろんダミーである。

俺が婆様に頼んで魔術師達に作らせた表面だけのレプリカだ。


近づけばハリボテなのは俺の目にも分かる程のお粗末さだが、

この距離と戦場の騒ぎでは確かめようもあるまい。



「集積装置を使えるのはお前だけじゃねえって事だ。俺もあの装置から力を得ているからな。」


俺は馬車を指差しそう告げた。もちろんただのハッタリだ。

でも俺にも十分な魔力プールがある事を魔力王は推測したに違いない。


「ほう…得心した。だが、私の目の前にあれを持って来てくれるとは有難い。瓦礫の山から探す手間が省けた。」


強がっているが、あれを本物と認識している限り魔力王は正規兵達に迂闊に攻撃できまい。

集積装置を奪うことが魔力王の狙いなのだから。


正規兵達が鬨の声をあげ亜人達と交戦し始める。

魔力王の魔力で統率されている亜人達は瞬く間に劣勢に追い込まれる。

こちらに集中させて亜人達を操らせないようにすれば、装備と錬度で正規兵達が有利だ。



「分かったか、集積装置から力を得ている限り、千人分だろうが万人分だろうが俺には効かない。

 いいよ、何発でも撃って来な。全部片手で防いでやるよ。」


さっき両手で防いでた気がするけど、言っちゃったモンは仕方ない。

右手を挙げて斜に構え、奴を指差して手の平を返し、

人差し指を曲げてクイクイと挑発のハンドサインを送る。



「魔力王を名乗る私に魔力勝負を挑むとはな。いいだろう、面白くなってきた。

 手が大分傷ついてるようだが大丈夫だろうな。」


嫌とも言わせず魔力王が呪詛砲を撃ち出し続けた。

俺は右手に反魔力を集中させて奴の攻撃を無力化し続けている。


まるで右手を1ミリ刻みに削り取られているような痛みだ。

呻き声を漏らしつつも辛うじて耐えていた。


これでクリスタが少しでも呼吸を整えてくれれば。

タイミングを見て背後から切りかかってくれるだろう。


そう考えつつ、耐え難い痛みを耐えるために右手を左手で支えながらクリスタの方を振り向いて驚く。

全然回復してる様子が無い。


クリスタは地面に方膝をつき、大きく肩で息をしている。

竜気による消耗の方がスタミナ回復より速いのか…




これはダメかもしれないな。


「クリスタ、お前は一反戦場を離れろ。ここは俺が何とかしてみせる。」


何の算段もなく適当な事を言った。

クリスタは一瞬だけ間を置いて、顔を上げた。

その笑顔を作るにも時間が必要だったんだろう。


「大丈夫…ありがとう。まだ戦えるよ。竜気にはもう一段上があるから。」



俺はその言葉を理解した。以前言ってた奴だ。

戻れないラインって奴を越える気なんだ。


「やめろ。それは使うな。いいか、使ったら絶対許さ…」



「ごめんね。」



遮るように重ねた言葉は別れの言葉だった

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