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竜種少女と静かに暮らしたい  作者: るっぴ
第一章 「竜の魔法使い伝説編」
19/86

19 「決着! カーラマン戦」

レオンハルトは根こそぎプライドを汚されたが、それは俺達にとって貴重な時間稼ぎとなった。

だから誇りを失うなと言ってやりたいが、そんな時間も余裕も無い。


クリスタの後ろまでようやくの思いで辿り着き、剣を地面に突き立てるとクリスタに囁いた。


「クリスタ。俺が奴の注意を引きつけ、一度だけ攻撃をかわす。

 俺の背後から二刀で攻撃するんだ。そこに突き立てた奴を使ってな。」


クリスタは頷く事も視線をこちらに向ける事もせずに、はい、とだけ小さく短く返事した。

俺は背中から2本の剣を取り出す。


これを衛兵の死体から取るために足を引きずる演技をしてたのだ。

重いし音で気付かれるかもしれなかったからな。

一本をカーラマンに左足めがけて投げつけ、もう一本を両手で構える。


カーラマンは軽く左手の剣で払いのけた。

よし、うまくルビィのすぐ近くに転がった。

気付いてくれよ。それを使うんだぞ?


「そこの無駄にデカいの! 人が勝負して疲れてる所なんて狙いやがって!

 デカい割りにやる事はせこ過ぎるじゃねえか! 教育してやろうか!

 俺の反魔力でテメーの魔力根こそぎ奪ってやる! 魔人なら効果もひとしおだろうよ!」


カーラマンは本懐、とばかりに頷いた後にまりと笑う。怖い!


俺は汗を拭う振りをして視線を隠し、ルビィにアイコンタクトを送る。


あ、ダメだ。さっぱり気付いてない。ワンナウト!

勝率下がるなあ。生き残ったら頬をつねってやる。

勘の良いアクエリアスのほうに転がるように右足を狙うべきだった。俺のバカ。


俺は大きく掛け声をかけ、剣に気合を込める。ただの演技だ。

本当にやってやりたいがもう精神力が残ってないんだ。MPが足りません。


剣の切っ先を地面に引き摺るように下段に構えながらカーラマンめがけてダッシュした。

奴の攻撃を、腕の動きを見ろ、見ろ! 見ろ!! 動いた!


見えない! 動きを追えない!


夢中で飛び跳ねてアクエリアスの脇へ転がり込む。

カーラマンの左手の剣は俺が居た場所の地面をゴガッと鈍い音を出して叩き付けた。


回避成功!


後はこの手の剣をアクエリアスに渡すだけ…


と振り向いた時には既に俺の目の前にカーラマンの右手の剣が迫っていた!


アクエリアスが俺の前に立ち強引にカーラマンの剣を受け上方に弾く。

しかしアクエリアスの体もまた吹き飛ばされ、俺にぶつかりもんどりうって倒れてしまった。


俺は衝撃で剣を手放してしまい、アクエリアスに剣を渡す目論見は崩れ去った。

ツーアウトだ!

アクエリアスは俺を蹴って飛び上がる。痛てえよ!


その隙にクリスタが振りかぶり片方の剣でカーラマンの左手首を深く切り刻む。

もう一本の剣で切りつけるもカーラマンの蹴りで体を跳ね飛ばされた。


ほぼ同時にルビィが跳躍してカーラマンの首筋めがけて攻撃している。

カーラマンはバランスを崩しつつ十分に力を込められないまでも、強引に右手の剣でそれを受け凌いだ。


そのがら空きの右の二の腕をアクエリアスが切り落とした!

彼女は俺を踏み台、いや発射台として飛び上がって攻撃していた。

ぶっちゃけこの日の内でこれが一番痛かった。


カーラマンは左手首を半ば切断されたがこらえた。

だが、右腕を切りと落とされて流石に叫び声を上げた。


「ぐぅ…いいだろう。今回は俺の負けだ。」


しかし、そういってる間に右腕の切断面からささくれ立った骨が飛び出している。

驚異的な再生能力があるのか。


骨はみるみるうちに形を修復し、隙間から赤黒い肉のような組織が湧き出して泡立つように膨れ始めている。



「10日だ! 10日を待たずして魔力王の軍が攻めてくる!

 決着はそこで付けさせてもらう! 今度は全力以上で挑ませてもらおう!」


「バカね! 逃がすとでも思ってるの?」


ルビィが距離を再び詰め、攻撃態勢を取る。


「追いすがるなら客席の市民を巻き込んで戦う。良き戦いの後は、できれば門から堂々と歩いて退場したいが如何?」


ルビィは思わず二の足を踏んだ。

それが戦闘終了の合図となってしまった。


カーラマンのその宣言で客席はパニックになる。

いよいよ魔力王の侵攻が開始されると言う事実に恐怖し、闘技場を逃げ出し始めていた。


衛兵や魔法使い達もカーラマンを追ったり、防衛体勢の事でてんやわんやになっている。



俺はもう命拾いしたことで体の力が抜けきって、その場で大の字に寝転んでしまう。

情けない行動もしたし、しくじりもしたがとりあえず生き残った。

今はそれだけでいいや。


クリスタが駆け寄ってきて俺を起こしてくれた。


「お疲れ様です、海くん。急場での剣の機転、見事でした。

 海くんは土壇場で実力を発揮するタイプなんですね。」


結果的に役に立っていなかった気もするが…まあここは褒められておこう。


「お疲れお疲れ。キレたら何をするか分からないタイプなんだよ。

 毎回良い方向に転がってくれればいいんだけどな。」


アクエリアスは俺を足蹴にした事をしきりに謝ったが、俺はむしろそれがあの一撃に繋がったという事を褒めた。

むしろアクエリアスに剣を渡す事に失敗してたし。


「だがルビィは許さねー。わざとお前の前に落ちるように剣を投げたんだから気付けー!

 アホの子でしょキミ。」


「き、気付くわけないでしょっ、あんなの!」


「俺がめっちゃアイコンタクト送っただろー!」


「スケベな人の目なんて見たくもないですー! そんな暇あったらもう一撃切りつけなさいよー!」



こいつとはケンカ友達になれそうだ。

そのうち泣かす。




ここで生存の安堵と状況の急変から、レオンハルトの存在をすっかり忘れていた俺は

後日その事を激しく後悔することになった。

たった一言だけでも声をかけていれば、未来は変わったかもしれないのに。



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