18 「戦いと戦」
クリスタを中心に時計回りに3人が移動しながら攻撃を仕掛ける。
何か符丁があるのか、掛け声も無しに突如同時に反対方向へ走り出し同時攻撃を仕掛けた。
しかしカーラマンは特に動きを読むでもなく、純粋な反射のみで対応した。
クリスタの攻撃を右手の剣でなぎ払い、アクエリアスの攻撃を左手の剣で足元を狙った牽制攻撃で中断させた。
そして正面からのルビィの攻撃は右足でルビィを蹴り飛ばし無効化に成功した。
ルビィが転がって起き上がるまでに、カーラマンの反撃が開始されている。
クリスタに2本の剣で攻撃し、その慣性力を利用してアクエリアスに回し蹴りを放つ。
それでバランスを崩すでもなく片足を外側へくの字に曲げ軽く跳ねて体勢を整えた。
離れて見ているのに、俺ときたら目で追うのが精一杯だ。
俺はまた何も出来ない…とか考えるのはもうやめだ。
うじうじしてる位なら、石の一つでも投げつけてやる。
俺は反魔力放出の疲労で鉛のように重くなった体を引き摺るように移動した。
恐怖と疲労で笑うように震える膝に左手をつき体を支える。
右手の治療もしてない。冷感とも熱感とも分からない痛みが右手を支配してる。
何が出来るわけでも無いが、奴は俺を狙ってるんだ。
気を引いてクリスタ達が攻撃をし易くなるように隙を作らねばな。
俺はレオンハルトとの試合で使用した剣を拾い上げ、それを杖代わりにして歩き出す。
「臆せず戦え! 魔術師とは臆病者の集まりか!」
カーラマンが挑発する。ああ、戦ってるぜ。
正面から剣を構える事だけが戦いだとか思い込んでんじゃねえよ。
クリスタ達はまだ竜気というのを発動させていない。
竜気はクリスタ達の身体能力を極限まで上げてくれるが、一度発動させるとコントロールできない。
周囲のマナを取り込んで無限に強くなり続けるのだ。
竜気を解除すれば、体内から魔力とマナが流れ出す。
蓄積されたマナと魔力が出て行く事は身体を極度に疲労させる。
先ほど俺がレオンハルトにやったように。
つまり竜気というのは最後の手段なのだ。
生きるか死ぬかという時まで実戦で使うことは許されていない。
逆を言えば、クリスタ達は追い詰められているが、まだ追い詰められきっていない。
俺達はその事を知っていた。だが奴はそれを知らなかった。
「化け物めッ! 僕の魔力剣で祓ってやる!」
レオンハルトが魔力剣を発動しカーラマンに挑みかかった。
カーラマンは強烈な怒号でそれを迎える。
「あほうめが! 戦いを児戯で汚すなッ!」
クリスタ達の相手をしながら、さらに同時4人目の相手となるレオンハルトに向かってさえ臆するどころか、己の戦いの美学を押し付ける。
その傲慢さを支える底知れぬ戦闘力にレオンハルトは気付くべきであった。
レオンハルトは竜種もかくやという程の俊敏さでカーラマンの蹴りをかわすと、左の脇下にもぐりこむ。
下から突き上げた魔力剣は、更にレオンハルトの意思でその刀身を伸ばし、カーラマンの左腕を貫いた。
「…それで? 何がしたいのだ、お前は。」
カーラマンはむしろ面倒臭そうに己の左腕から生えた魔力の刀身を見て言った。
「倍ほどもある体格差の相手に対して急所でもない部分に針のような刃を通してどうする? 魔人が痛みで転げまわるとでも思ったか!」
無造作にレオンハルトを、その魔力剣に貫かれた左腕で鷲づかみにして闘技場の中央に向かって放り投げた。
壁に叩き付けるでも握りつぶすでも武器で攻撃するでもない。
その動作の全てが「貴様は殺す価値すら無い」と物語っていた。
貴公子然たるレオンハルトは土埃にまみれた。
そしてその肉体以上に、レオンハルトの精神は下水にでも叩き込まれたかのように汚されきったのだ。




