17 「乱入者と真剣」
「良いものを見せて頂いた。おかげで血が騒ぐ。」
その男はもう一人の衛兵の首を剣の一振りで跳ね飛ばすと俺達に向かって歩いてくる。
全力でも無く、ただ腕の力だけで人の首を刎ね飛ばす。これは明らかに人間業じゃあ無い。
乱入者だ。しかも酔っ払いとか賭けに負けた暴漢じゃない。
奴の体が俺に迫り立ちはだかる。俺の視界を塞ぐほどに大きくなる。
いや、心理的な表現ではなく本当に巨大化していたのだ。
歩きながら巨大化し、俺の前に来た時には3mを超えるであろう巨人と化していた。
「だが、剣術があまりに御粗末。話にならない。」
巨大化する魔術があるのか。それとも人外の者なのか。
大きさを覗けば普通の男のようだ。
逆立った短い黒髪に浅黒い肌、鉢金のような鉄板を縫い付けた鉢巻で上半身は裸。
太い革のベルトで関節部と胸部に金属の防具を直接着けている。
右肩に大きく反った先へ行くほど幅広になる剣を担いでいる。カトラスって奴だ。
だが、言葉と共ににやりと笑った口からは太くとも短い牙を覗かせた。
これは人外の民だ。
呆気にとられていた俺はクリスタに後ろに投げ出され、地面を転がった。
クリスタを中心に右やや後方をルビィ、左後方をアクエリアスがカーラマンを囲む。
三人とも修練中には見せたこともない厳しい表情をしている。
「魔力王の軍、副官カーラマンである。敵情視察と宣戦布告に来た。」
カーラマンと名乗った巨人はクリスタ達を無視し、俺に向かって言う。
「ここの最強魔術師のお前。剣対魔法、ひとつ勝負願おう。」
冗談じゃない!
そう叫ぶ俺の言葉を受け入れる気は無いらしい。
初試合を終えたばかりの俺が殺し合いなんてできるわけが無い。
両腕を交差させ吼えるような唸り声で気合を入れている。
うわ…角が生えてきた……しゃれにならない強さだろ絶対。
「竜種、クリスタ・ドラゴニス。参る!」
名乗りつつ下から引き摺るように滑らせた大剣を振り上げクリスタが攻撃を繰り出した。
当たれば股間から真っ二つになるような一撃だぞ。
俺に当たったら二つどころかケチャップをぶちまけた豚のピカタになる所だ。
だがカーラマンは巨大カトラスでクリスタの攻撃を易々と防いだ。
クリスタ達は演武用の、見栄えはするが実用性は低い剣しか持っていない。
「むっ、竜種か。確かに人外の膂力。相手にとって不足無し。」
クリスタはあえて名乗りを上げ、俺をターゲットにする事を防いだのだ。
俺がクリスタを取り合って勝負したのは真剣であっても競技に過ぎなかった。
今、目の前では本物の戦いが始まろうとしていた。
「多刀のカーラマン、全力で参る!」
宣言と共に両手でカトラスを握りなおす。気合を発すると両手を広げた。
広げた両方の手にはそれぞれ別に、先ほどまでと同じ形と大きさのカトラスが握られている。
クリスタら3人が地面を蹴った。




