第一話
「五六七五番起床」
怒号のような声で俺は起きる。
俺の名前は斑目仁
ここでは五六七五番受刑者だ。
ある罪で俺は関東拘置所に服役している。
もう自分の名前すら忘れそうになる生活が
もうすぐ十年だ。
そんな事を考えていると刑務作業の時間になる。
作業場に着くと刑務官が大声で「刑務作業開始」
と言った。
俺達は黙々と作業を開始する。
そんな時だった
ふと外を見ていたら大粒の雨が降っていた。
雨に良い思い出なんて俺にはない。
激しく雨が降った十年前
俺は路地裏で債務者だった男 梶原豊を
殴りその場に倒れさせた。
「梶原さんよお金は借りたら返すそれが常識だよ」
「す……いま……せん」
俺はそう言って
梶原の財布から現金だけを抜きその場を後にした。
俺はこの時あんな事になるなんて
夢にも思わなかった。
「五六七五番よそ見をするな」
刑務官が俺に言う。
ふと少し昔を思い出した
もう少しの辛抱だ
そうすれば外の世界に戻れる。
でも俺には帰る場所なんてどこにもないのに
ふとそんな事を考えてしまう。
刑務官が大声で「刑務作業終了」と伝えた。
房に戻り夜になると一人の刑務官が俺の所に
一枚の封筒を渡してきた。
「五六七五番手紙だぞ
お前に手紙がくるなんて珍しいな」
「ありがとうございます」
俺は封筒を刑務官から受け取った。
「悪いが中身は読ませてもらった」
そう言うと刑務官は行ってしまった。
封筒の宛名を見て俺は驚いた
それは鬼頭忠雄だった。
「おやっさん」
そんな声が出てしまう
おやっさんは俺にとって父親ような存在
その人からの手紙に正直驚いた。
すぐに封筒から手紙を出して俺は読んだ。
「仁元気か
私はなんとかやっている
もうすぐ出所だと聞いたぞ。
面会にも行かなくて申し訳なかったと思う。
お前を迎えには行けない私をどうか許してほしい。
本当は迎えに行きお前と話がしたいが
それを上の連中は許さないだろう。
こんな頼りない親父で申し訳ない。
もし街に戻るとゆうのであれば
やめておけ
もうお前が知っている街はもう無い。
私はお前に生きていて欲しい。
お前を守れなかった私を許してくれ。
本当にすまない。
鬼頭忠雄」
手紙を読みながら泣きそうになった。
十年と長い月日の中俺の事なんて誰からも忘れ去られていると思ってた。
この手紙は俺にとって励みになった。
封筒に手紙を戻し
格子から外を見ていた。
「おやっさん申し訳ありません」
拳を握り締めて
俺はそう呟いた。
関東最大の歓楽街 天鳳街
俺にとっては故郷みたいなもんだ。
あの街で育った俺はやらなければいけない
それは十年前の真実
俺は「梶原豊」を殺した罪で逮捕された。




