表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/102

【第三十四話】贖罪の回廊

〈旧領主邸地下通路〉


石畳が軋む音を立てながら、ナナセたちは地下へ降りていく。


冷たい空気。


湿った風。


だが。


ただの地下遺跡とは違った。


「……妙だねぇ」


ナナセが壁へ触れる。


石壁には、淡い魔力が今も流れていた。


完全には死んでいない。


オボロも静かに壁面へ視線を走らせる。


「かなり古い結界です」


「ですが、未だに機能していますね」


「……でも、完全ではないね」


ミヨが小さく息を吐いた。


「数百年前の術式が?」


「普通じゃないわね……」


ナナセがゆっくり歩きながら呟く。


「保存よりも優先したいことがあるみたいだね」


「普通の侵入拒絶結界じゃないみたいだし」


「……どういう意味?」


サツキが問い返す。


ナナセは壁を指でなぞった。


「対象が限定されてる」


「特定系譜……かな」


「系譜?」


ヒナノが首を傾げる。


「エルフ系統の魔力」


「それに――」


ナナセの目が細くなる。


「妙に偏ってる」


「偏ってる?」


オボロが視線を向ける。


「うん」


「“特定の誰か”を拒絶してる感じ」


空気が少し静まる。


ミヨが腕を組んだ。


「つまり?」


「この場所を作った人間が、“誰か”をここへ近づけたくなかった

ってこと?」


「……いや」


「“誰かから守ろうとしてる”感じかな」


『……嫌な感じ』


ポラリスが小さく呟く。


『憎しみと、執着と、後悔が混ざってる』


地下通路は長かった。


進むほどに魔力濃度が増していく。


壁面には古い術式。


見たことのない紋章。


そして、しばらく進んだ先で――一行は広間へたどり着く。


その時だった。


――カチリ。


乾いた音。


オボロの目が鋭くなる。


「止まってください」


両脇の壁面が開いた。


中から現れたのは――。


古びた鎧。


人の入っていない空の甲冑。


胸部には赤い魔石が埋め込まれている。


そして。


一体ではない。


十、二十……さらに奥からも現れる。


ヒナノが顔を引きつらせた。


「うわぁ……」


「多くない?」


鎧たちが一斉に剣を抜く。


金属音が地下へ響いた。


「歓迎はされてないみたいだねぇ」


ナナセが苦笑する。


次の瞬間。


鎧たちが一斉に襲いかかってきた。


――ガギィン!!


サツキの双剣が鎧を切り裂く。


胴体が吹き飛ぶ。


だが。


床へ転がった魔石が光った。


砕けた鎧が再び動き出す。


「……は?」


サツキが目を細める。


ヒナノの大剣が別の鎧を叩き潰す。


だが同じ。


すぐに再構築される。


ミヨが後方から魔力弾を放つ。


鎧の頭部を吹き飛ばす。


それでも止まらない。


「ちょっと!」


「キリがないんだけど!?」


ミヨが叫ぶ。


「剣も魔法もダメですか……」


オボロが周囲を見回していた。


鎧ではない。


床。


壁。


天井。


魔力循環。


「……違いますね」


オボロが静かに呟く。


「これは守護兵ではありません」


「封印術式の一部です」


サツキが鎧を弾き飛ばしながら叫ぶ。


「どういうこと!?」


ナナセが床へ視線を落とす。


「こいつら自体が本体じゃないね」


「床面全体が術式」


「……鎧は時間稼ぎだねぇ」


ヒナノが息を呑む。


「時間稼ぎ……?」


「うん」


「“侵入者を殺す”ためじゃない」


「“奥へ行かせたくなかった”」


「もしくは――」


「“ここで生き埋めにする”感じかな」


その瞬間。


オボロが短剣を床へ突き立てる。


――ギィィン!!


床一面へ魔法陣が走った。


赤い光が鎧へ流れている。


「……供給元を見つけました」


「サツキ、ヒナノ……十秒だけ抑えてください」


「了解!」


「任せて!」


サツキとヒナノが前へ出る。


双剣が閃く。


大剣が唸る。


ミヨも後方から魔力弾を放ち、鎧の足を止めていく。


その間に。


オボロの短剣が、床を流れる魔力線を断ち切った。


――バキンッ!!


魔力が途切れる。


鎧たちが、一斉に停止する。


沈黙。


重い静寂が地下へ落ちる。


「……終わった?」


ミヨが息を吐く。


だが。


ナナセの視線は別方向へ向いていた。


広場奥の壁面。


そこだけ、風化とは違う傷跡が残っていた。


まるで、誰かが意図的に削ったように。


ナナセがゆっくり近づく。


壁には、古い文字が刻まれていた。


所々崩れ、読めない。


だが。


かろうじて内容は読み取れた。


ナナセが静かに読み上げる。


「――君は、自分の命を捨ててしまう」


「だから、君からこれを奪うしかなかった」


ヒナノが小さく息を呑む。


さらに下。


崩れた文字列。


掠れた跡。


「兄は、君の願いを叶えない」


「あの人の目的は――」


そこだけ深く抉れている。


まるで意図的に削ったように。


「君の願いは――僕が叶える」


空気が静まる。


「――これ……誰が」


沈黙を破るようにミヨが呟く。


そのさらに下。


最も崩れた部分に、名前らしきものが残っていた。


『――フェウ――』


「フェウ……?」


サツキが眉をひそめる。


ナナセは答えない。


ただ静かに壁を見つめていた。


まるで。


数百年前の誰かの後悔が、まだここへ残っているように。


『……ナナセ』


『拒絶が消えたみたい』


――不意に広場の奥に光があふれ出す。


巨大な白銀色の扉が現れる。


表面には無数の古代術式。


中央には、鍵穴。


ナナセがゆっくり鍵を取り出す。


鍵穴へ近づけた瞬間。


――ギィィィ……


扉全体へ魔力が走った。


空気が震える。


ヒナノが息を呑む。


「……まだ、あるの?」


オボロが静かに目を細める。


「この先が、本命ですね」


ナナセは静かに扉を見上げていた。


その瞳から、いつもの軽さは消えている。


数百年前の誰かの想いが……


この扉の向こうで今も眠っているようだった――


【第三十五話へ続く】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ