第31話「海外勢力、ついに直接接触」
国家に認識された存在は、例外なく次の段階へ進む。
それは、国内で完結しない。
必ず――
外へ出る。
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「来ました」
一条朔也の声は、いつもと同じだった。
だが、その意味は重い。
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「どこだ」
業高が聞く。
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一条は一瞬だけ間を置いた。
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「海外資源企業です」
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それだけで十分だった。
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「……名前は」
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「グローバル・エナジー・コンソーシアム」
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部屋の空気がわずかに変わる。
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複数の巨大資本が関与する資源連合。
いわゆる――
オイルメジャーの一角。
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「早いな」
業高が言う。
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「国家に認識された時点で、時間の問題です」
神崎が淡々と答える。
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「情報は流れます」
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業継が小さく呟く。
「全部繋がってるね」
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『はい』
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国内で動いたものは、
必ず外にも伝わる。
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「内容は」
業真が問う。
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一条が資料を開く。
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「名目は“共同開発の可能性に関する非公式対話”」
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「非公式、か」
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「はい」
一拍。
「正式ルートではありません」
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つまり――
探り。
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「どうする」
業高が聞く。
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神崎は即答する。
「受けるべきです」
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「理由は」
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「拒否すると、別ルートで来ます」
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一拍。
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「そして、その方が厄介です」
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それは明確だった。
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正面で受けるか。
裏から侵入されるか。
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選択肢は、実質一つ。
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「……なるほどね」
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業継が呟く。
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「また“マシな方”を」
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「その通りです」
神崎が答える。
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業真が静かに言う。
「一条」
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「はい」
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「表は任せる」
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「承知しました」
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「黒瀬」
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部屋の隅。
いつの間にか立っていた。
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「はい」
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「外を固めろ」
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「了解」
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それだけで、十分だった。
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数日後。
都内・ホテルのラウンジ。
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非公式の場。
だが、緊張感は高い。
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一条は席に着いていた。
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対面には、外国人の男。
四十代後半。
落ち着いた表情。
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「お会いできて光栄です」
流暢な日本語。
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「こちらこそ」
一条も穏やかに返す。
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「御影資源開発の話は、以前から耳にしていました」
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“以前から”。
それがすべてだった。
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「過分なお言葉です」
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定型のやり取り。
だが、水面下は違う。
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「単刀直入に申し上げます」
男が言う。
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「御社の鉱区は、非常に価値が高い」
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ストレートだった。
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「ありがとうございます」
一条は崩さない。
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「そこで」
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一拍。
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「我々と共同で開発を進める意思はありませんか」
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来た。
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これまでの商社とは違う。
スケールが違う。
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「具体的には」
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「資金、技術、流通、すべてを提供します」
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つまり――
世界規模での展開。
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「その代わりに」
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男は微笑む。
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「一部の権益を」
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当然の条件。
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一条は一瞬だけ考え、
そして答えた。
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「現時点では、単独運用を優先しております」
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断り。
だが、柔らかい。
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男はすぐに頷く。
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「理解できます」
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一拍。
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「ですが、時間は有限です」
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その言葉に、わずかな圧が乗る。
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「価値ある資源は、必ず競争の対象になります」
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事実。
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そして――
警告でもある。
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一条は微笑む。
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「承知しております」
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それ以上は言わない。
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会話はそこで終わった。
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だが、それで終わりではない。
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帰り道。
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黒瀬牙の部下が静かに報告する。
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「接触者、問題なし」
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「尾行は?」
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「なし」
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黒瀬は短く頷く。
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「今回はな」
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その一言がすべてだった。
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本邸。
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報告を受けた業真は、静かに言った。
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「想定通りだ」
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「どう見る」
業高が聞く。
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「まだ浅い」
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一拍。
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「だが、次は深く来る」
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確信だった。
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神崎が続ける。
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「今回のは“確認”です」
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「本命じゃない?」
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「ええ」
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一拍。
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「本命は、もっと条件を詰めてきます」
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業継がそれを聞いていた。
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「世界、ね」
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ぽつりと呟く。
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これまでの相手は、
企業。
行政。
政治。
国家。
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そして今――
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世界。
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「でかすぎるでしょ」
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『妥当な評価です』
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業継は少しだけ笑う。
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「でも」
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一拍。
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「順番通りだね」
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『はい』
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ここまで来たのは、偶然じゃない。
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積み重ねた結果。
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だから――
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「やることは変わらない」
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『その通りです』
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業継は頷く。
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御影資源開発は、
ついに世界に見つかった。
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それは、
最大のチャンスであり、
最大のリスクでもある。
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九条業継は、その中心で、
静かに立っている。
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まだ五歳のまま。
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だが、
その影響はもう、
世界規模だった。




