第26話「御影資源開発、政治との接続が見え始める」
御影資源開発が、行政と“繋がり始めた”直後。
変化は、予想よりも早く、そして静かに訪れた。
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「県のほうから話が来ています」
一条朔也が、本邸の会議室でそう告げた。
その場には、業真、業高、神崎理央、そして業継がいる。
「市じゃなくて、県か」
業高が言う。
「はい」
一条は頷いた。
「名目は“広域資源活用に関する意見交換”」
「また随分と柔らかいな」
「ええ」
一条は淡々としている。
「ただし、今回は少し違います」
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「何が違う」
業真が短く問う。
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「発信元が、“課”ではありません」
一拍。
「“部”です」
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その一言で、空気が変わる。
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「……上がってきたな」
業高が呟く。
市の担当レベルから、県の部局へ。
それはつまり、
単なる地域企業ではなく、“政策対象”として見られ始めたということだ。
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神崎が静かに口を開く。
「想定内です」
「早くないか?」
業高が聞く。
「御影の伸び方なら、むしろ遅いくらいです」
淡々とした分析。
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「理由は三つあります」
神崎は指を三本立てる。
「一つ、雇用。二つ、資源。三つ、外部の動き」
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「外部?」
業継が反応する。
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「はい」
神崎は頷く。
「商社が動いた時点で、“外から見られている案件”になります」
「それが県に?」
「伝わります」
即答だった。
「企業は隠せても、動きは隠せません」
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業継は少し考える。
確かに、商社は二度も来ている。
それを誰も見ていないはずがない。
「……なるほどね」
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業真がゆっくりと口を開く。
「内容は」
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一条が資料をめくる。
「現段階では、正式な提携ではありません」
「だろうな」
「ただし――」
一拍。
「“県としての支援可能性の確認”が含まれています」
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補助金。
規制緩和。
インフラ優先。
人材支援。
そのすべてが含まれる可能性がある。
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「……便利だな」
業高が言う。
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「はい」
神崎も同意する。
「非常に」
一拍。
「だからこそ危険です」
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業継がすぐに聞く。
「またそれなの」
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「ええ」
神崎は視線を外さず答える。
「行政よりも、政治は強い」
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その言葉に、少しだけ空気が重くなる。
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「どう違うの」
業継が聞く。
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「行政は運用です」
一条が答える。
「決められた枠の中で動く」
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「政治は?」
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神崎が答えた。
「枠を変えます」
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業継は一瞬だけ黙った。
それは、これまで聞いたどの説明よりもわかりやすかった。
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「……強いね」
『妥当な評価です』
アークが表示する。
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業真が口を開く。
「今回は俺が出る」
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全員の視線が動いた。
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「父さんが?」
業継が言う。
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「そうだ」
短い答え。
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「いいのか」
業高が聞く。
「表に出るぞ」
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「出ない」
業真は即答した。
「“出ていることにしない”だけだ」
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それは、この家ではよくある言い方だった。
実際には関わる。
だが、関わっていない形にする。
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「一条」
「はい」
「表はお前がやれ」
「承知しました」
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「神崎」
「はい」
「条件は詰めろ」
「もちろんです」
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短い指示。
だが、それで十分だった。
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数日後。
県庁近くの会議室。
表向きは、地域資源に関する意見交換会。
参加者は数名。
県側の担当部長と補佐。
御影資源開発からは一条。
そして――
もう一人。
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「お久しぶりです」
穏やかな声。
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県側の部長が、わずかに姿勢を正した。
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「……九条先生」
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業真だった。
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だが、そこに“議員としての名刺”は出ていない。
あくまで、地元の有力者の一人として座っている。
それでも、空気は明確に変わった。
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「今日はあくまで話を聞くだけです」
業真が言う。
「御影の動きが面白いと聞いてね」
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“面白い”。
その一言で、圧が和らぐ。
だが同時に、
無視できない存在であることも示される。
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「ありがとうございます」
一条が話を進める。
「現在、御影資源開発は二鉱区での安定運用を確立しつつあります」
数字は控えめに。
だが嘘はつかない。
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県側も、すでにある程度の情報は持っている。
だからこそ、確認が中心になる。
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「今後の拡張予定は」
「現段階では未定です」
一条は即答する。
「足場の安定を優先しています」
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業真が横から軽く言う。
「若い会社だからな。無理をさせるつもりはない」
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その一言が、大きい。
県側にとっては、
制御できる存在に見えるからだ。
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「なるほど」
部長が頷く。
「では、県としても過度な介入は控えつつ、必要な支援を検討する形で」
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その言葉に、神崎の狙いが完全に一致する。
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――使えるが、使われない距離。
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会議は穏やかに終わった。
だが、その意味は重い。
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帰りの車内。
業継は業高と並んで座っていた。
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「すごいね」
ぽつりと呟く。
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「何がだ」
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「父さん」
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業高が少しだけ笑う。
「今さらか」
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「だって」
業継は少し考える。
「何もしてないのに、全部動いたよ」
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「何もしてないわけじゃない」
業高は言う。
「“いる”だけで動かしてる」
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業継は黙った。
それは、これまで自分がやってきたことと違う。
資源を作る。
AIを作る。
会社を動かす。
全部、“何かをする”ことだった。
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でも今見たのは、
存在そのものが影響になる力。
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「……あれ、チートじゃない?」
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思わずそう言うと、業高が吹き出した。
「お前が言うな」
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『同意します』
アークが表示する。
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「アークもかよ」
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笑いが少しだけ広がる。
だがその奥で、
業継は確かに理解していた。
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力には段階がある。
資源の力。
企業の力。
行政の力。
そして――
政治の力。
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「順番、ね」
業継が呟く。
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『その通りです』
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小さく頷く。
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まだ先は長い。
だが確実に、上へ繋がっている。
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御影資源開発は、ついに政治と接続を持ち始めた。
それは守りにもなり、
同時に、逃げ場を減らす鎖にもなる。
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九条業継は、その中心で、
静かに理解を深めていく。
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力とは何か。
どう使うべきか。
そして、
どこまで広げるべきか。
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その答えは、まだ途中だ。




