第20話「御影資源開発、外部圧力の核心へ」
東京。
大手総合商社・資源部門の会議室。
前回よりも人数が増えていた。
資料も増えた。
そして――空気が違う。
「結論から言え」
部長が言う。
若手社員が深く息を吸い、口を開いた。
「御影資源開発は、“偶然”ではありません」
静かな言葉だった。
だが、重い。
「根拠は」
「ありません」
即答。
しかしその後に続く。
「ですが、統計的に説明がつきません」
資料がめくられる。
「第一鉱区、第二鉱区ともに、発見タイミング・品質・安定性が異常です」
「異常、ね」
部長が呟く。
「違法性は?」
「確認されていません」
「裏資金は?」
「痕跡なし」
「政治的関与は?」
「……可能性はありますが、断定不可」
そこで、別の社員が口を開いた。
「九条家の存在があります」
空気が一瞬、止まる。
「……確定か?」
「いえ。ただし土地、地元企業、資本構造の一部が繋がります」
部長は目を細めた。
「九条か」
その名前には意味がある。
地方の名家。
長く続く地盤。
そして――
簡単に触れていい相手ではない可能性。
「どうする」
誰かが聞く。
部長は少しだけ考えた。
そして、ゆっくり言った。
「引くな」
全員が顔を上げる。
「ただし、踏み込みすぎるな」
「……どういう意味です」
「関係を作る」
その一言で、方針が決まる。
「敵にするな。だが、無視もするな」
それが最適解だった。
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数日後。
御影資源開発・事務所。
「再訪問、ですか」
一条朔也が静かに言った。
「はい。前回のお話が非常に興味深く」
商社の男は、丁寧に頭を下げる。
だが今回は違う。
明確な意図がある。
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「共同開発の可能性を検討させていただければと」
その言葉に、空気がわずかに変わる。
探りから――
接続の提案へ。
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一条は微笑みを崩さない。
「ありがたいお話ですが、当社はまだ立ち上げ段階でして」
「だからこそ、です」
男は続ける。
「資金、流通、精錬設備、すべてで支援可能です」
明確なメリット提示。
だがそれは同時に、
踏み込む意思表示でもあった。
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本邸。
その報告を受け、業高が笑った。
「来たな」
「思ったより早いね」
業継も答える。
『外部圧力が“提案”へ変化しました』
アークが補足する。
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「どうするの」
業継が聞く。
以前とは違う。
ただの観察ではない。
判断が必要な段階だ。
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業高は即答しなかった。
代わりに、一言。
「父さんに任せる」
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業真の部屋。
「提案か」
短い言葉。
「はい」
一条が答える。
「条件は悪くありません」
「だろうな」
業真は頷く。
「だが――」
一条が続ける。
「主導権を握られます」
「当然だ」
業真の目は静かだった。
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「断る」
即答だった。
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一条も迷わない。
「理由は」
「早すぎる」
シンプルな答え。
「今繋がると、相手の枠に入る」
「はい」
「まだ、こちらの形が完成していない」
業真は言う。
「なら、繋がる必要はない」
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「ただし」
ここで少しだけ間を置く。
「完全に切るな」
一条がわずかに目を細める。
「関係は残す」
「はい」
「だが、踏み込ませない」
それが結論だった。
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事務所。
「今回は見送らせていただきます」
一条は丁寧に言った。
「現状は自社体制の構築を優先したく」
商社の男は、一瞬だけ沈黙した。
だがすぐに微笑む。
「理解しました」
拒絶ではない。
距離の調整。
それを感じ取る。
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「また機会があれば」
「ぜひ」
握手。
だがその意味は、前回よりも深い。
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帰りの車内。
「どう見ます」
同僚が聞く。
「黒だな」
男は言う。
「だが、触れない」
「なぜです」
「まだ小さい」
窓の外を見る。
「だが――」
小さく笑う。
「放っておけば大きくなる」
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本邸。
業継はその話を聞いていた。
「やっぱり断ったの」
「ああ」
業高が答える。
「もったいなくない?」
「そう思わせるのが向こうの狙いだ」
業継は少し考える。
「……なるほど」
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資源。
会社。
外部。
すべてが動き始めている。
そしてその中心にいるのは――
まだ五歳の少年。
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御影資源開発。
それはもう、ただの企業ではない。
狙われる存在になった。




