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第25章 ― 宇宙が息を止めるとき

ケルベロスは虚無の中に静止したまま、真の姿となった女王を見据えていた。

焦りはない。

ためらいもない。


そのとき、侍女たちが現れた。

生きた投射体のように、彼へ向かって飛来する。


ケルベロスはその接近を察知していた――

それぞれの軌道、すべての意図を。

だが、動かなかった。

視線は女王から一瞬たりとも逸れない。


彼は知っていた。

背を向ければ。

ほんの一瞬でも注意を逸らせば。

彼女は必ず隙を突く。

力ではなく……計算で。


数秒が過ぎた。


そして、異変が起きた。


侍女たちは攻撃しなかった。

彼を通り過ぎ、空間を切り裂き、そのまま女王へと向かった。


ケルベロスは目を細めた。


一人、また一人と、侍女たちはクララ・コズミアの巨大な身体へと融合していく。

それは単なる吸収ではなかった――

完全なる犠牲だった。


肉体は溶け、

骨は再構成され、

意識は粉砕され、

女王の皮膚と一体化した混成装甲へと作り替えられていく。


肉。

骨。

抹消された意志。


ケルベロスは低く唸った。

恐怖ではない。

嫌悪だった。


完全な精神支配のもとで命が喰われていくのを、彼は一つ一つ感じ取っていた。

それは、彼にとって許容不可能な行為だった。


女王は四枚の翼を広げた。

その羽ばたきが生んだ宇宙風は、惑星を軌道から弾き飛ばすほど激烈だった。

小惑星は塵と化し、

恒星系そのものが押し流されていく。


それでも、ケルベロスは動かない。


彼はそこに浮かび、笑っていた。

傲慢で、絶対的で、

まるで宇宙そのものが背景にすぎないかのように。


女王の声が響いた。

歪み、悪魔的に変質したその咆哮は、音だけで一つの恒星系を震わせた。


「お前には殺せない、ケルベロス!」

「彼女たちは、私の支配下にある生きた存在だ!」

「その覚悟があるか!?」


ケルベロスはゆっくりと腕を上げた。

その瞳が、致死的な光を帯びる。


「ならば……」

冷酷に、彼は言った。

「三〇%の力を使うしかないな」


女王は口を開いた。

その内部で、赤いエネルギー球が凝縮を始める。

回転し、崩壊し、

死にゆく恒星のように悲鳴を上げながら。


「受けろ! 必殺攻撃だ!」


光線が放たれた。

深紅の柱が宇宙を貫き、

局所的な現実を消し去るほどのエネルギーを帯びていた。


ケルベロスは目を閉じた。


そして、低く告げた。

だがその声は、空間と時間と法則を超えて響き渡った。


「覚醒……戦闘形態」


攻撃は逸れた。

爆発もしない。

衝突もしない。


現実そのものに拒絶され、

宇宙がその衝撃を許さぬかのように、上方へと歪められた。


ケルベロスの身体が変化する。

皮膚は崩壊した物質のように黒く染まり、

顔に四つの赤い眼が開いた。


深紅の口が現れ、純粋なエネルギーに刻まれる。

両手は金属の爪へと変わり、

宇宙の籠手と融合した。


彼は咆哮した。


その音は、遥かな銀河を共鳴させた。


女王は攻撃を止め、

ただ見つめた。


「なんて見事……」

彼女は呟いた。

「だが、もう……お前はいらない」


彼女が立ち上がったとき、

不可能が起きた。


クララ・コズミアは二本の脚で立ち上がり、

ほぼ人型の姿勢を取った――

自然法則への冒涜そのものだった。


怪物の身体は適応し、

翼は弧を描いて広がり、

融合した侍女たちは無言の痛みを脈打たせた。


彼女は咆哮し、同時に叫んだ。


「そして今度は……私がお前を終わらせるゥゥゥ!」


ケルベロスの声が応えた。

悪魔的で、深く、決定的に。


「そして俺は、お前を消す」

「この身体に囚われた侍女たちを解放し」

「この惑星に、これ以上の不均衡を残さぬために」


空間が収縮した。

時間が躊躇した。

宇宙全体が、一歩後退したかのようだった。


地獄的で、宇宙的で、普遍的な戦いが――

今度こそ、本当に始まろうとしていた。


次の章へ続く。

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