第18章 ― 男なき世界の女王
その頃――
淡い桃色と白の色調に包まれ、
空が永遠に柔らかなオーロラに染められている惑星で、
一人の存在が絶対的な支配を敷いていた。
生きた水晶から彫り上げられた玉座に腰掛け、
深い黒の瞳を持つ一人の女が、
薄暗い微笑を浮かべながら広間を見渡している。
その姿勢は優雅であり、同時に支配的だった。
女王のドレスは、虚栄のためではなく、
力のために計算され尽くした形で彼女の身体を包み込んでいた。
彼女の前では、
すべての侍女が跪き、
頭を垂れ、
息を潜めている。
その名は――
クララ・コズミア。
彼女は顎に手を添え、
従順な女戦士たちをゆっくりと見回しながら、
満足げに独り言を漏らした。
「……なんて美しい世界」
低く、愉悦を含んだ声。
「男の存在しない惑星。
女だけが生きる世界……」
一瞬、間を置き、
唇が歪んだ笑みを描く。
「――完全な支配のための、理想郷ね……フフフフフ」
その瞬間、
遠い地平線を裂くように、一条の光が走った。
空気が――爆ぜた。
凄まじい衝撃風が王国を貫き、
柱をなぎ倒し、
旗を引き裂き、
身体を地面へと叩きつける。
宮殿全体が震えた。
まるで何かが、惑星そのものに触れたかのように。
全員が倒れ伏した。
――全員……
ただ一人を除いて。
クララは、座ったままだった。
髪の一本すら、揺れない。
まるで風そのものが、
彼女に触れることを恐れているかのようだった。
揺れは収まり、
重く、不穏な沈黙が戻る。
クララは目を細めた。
――感じたのだ。
異質な何か。
間違った何か。
「……この……気配……」
囁くように呟く。
「この力……この世界のものじゃない」
彼女はゆっくりと玉座から立ち上がった。
その所作だけで、侍女たちは息を詰める。
「強大な女……?」
思案するように続ける。
「それとも……それ以上の存在……?」
冷酷な優雅さを湛えたまま、
彼女は腕を上げ、
正面に跪く二人の女戦士を指差した。
「森を調べなさい」
磨き上げられた鋼のような声で命じる。
「そこに、強大な存在がいる」
一拍、間を置く。
「もし能力を有しているなら――排除しなさい」
そして、
計算された微笑が浮かぶ。
「……生きたまま、連れてきなさい」
「その力……
私の支配下に置く」
二人の侍女は拳を胸に当て、
絶対的な忠誠を示した。
「――はい、女王陛下。
ご命令のままに」
次の瞬間、
彼女たちは音速で消え去り、
空間に歪みだけを残した。
クララは再び玉座に戻り、
ゆっくりと脚を組み、
膝に手を置いたまま、
虚空を見つめる。
思索の眼差し。
彼女は感じていた。
その力が――特別であることを。
だが、知る由もなかった。
自らの世界に触れた存在が、
ケルベロスであることを。
そして――
いかなる支配も、
彼には通じないということを。
惑星は、静かに溜息をついた。
避けられぬ衝突が近づいていることを、
予感するかのように。
―――
次の章へ続く。




