第12話:世界を救ったのは、ただの猫だった件。-1
~ニャンてこった! 異世界転生した元猫の私が世界を救う最強魔法使いに? ~
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魔王城の最深部、巨大な貯蔵装置の中心で、世界の命運をかけた「遊び」が繰り広げられていた。
リリアーナは、世界の全ての魔力を凝縮した「魔力の核」を、まるで最高の毛糸玉を見つけた猫のように、両手で掴み、無邪気に転がし続けていた。
核は、リリアーナの小さな手のひらの上で、心地よい振動を伝え、まばゆい光を放っている。その光は、リリアーナの瞳をキラキラと輝かせ、彼女の好奇心を極限まで刺激していた。
「ニャー!コロコロするニャ!もっと速く転がすニャ!」
リリアーナが「魔力の核」を転がすたびに、核からまばゆい光の粒子が、まるで花火のように、あるいは無数の蛍が飛び立つかのように飛び散っていく。
光の粒子は、貯蔵装置の空間全体に広がり、やがて空気中に拡散し、世界へと還っていく。それは、世界の魔力が、貯蔵装置という檻から解放され、本来あるべき場所へと戻っていく光景だった。
枯れかけていた草木には、かすかな生気が戻り、その葉は再び緑を取り戻し始める。空気の乾燥も、わずかに和らぎ、肌を刺すような不快感が薄れていく。世界は、ゆっくりと、本来の姿を取り戻し始めていた。失われた生命の輝きが、再び息を吹き返し始める。
魔王シエルは、その光景に絶望の声を上げた。
彼のリスとしての本能が、彼の備蓄が、彼の全てが、目の前で失われていくことを告げていた。
彼の脳裏には、来るべき「大いなる冬」を乗り越えるために、どれほどの苦労と時間を費やしてきたかが、走馬灯のように蘇る。
一つ一つ集めた魔力結晶、築き上げた貯蔵装置、そして何よりも、この世界の未来を守るという彼の「崇高な使命」。それら全てが、目の前の「あの女」の無邪気な「遊び」によって、音を立てて崩れ去っていく。
「ああ…!私の…私の魔力が…!世界の魔力が…!全てが…!あの女め…!私の備蓄を…!私の…私の全てを…!なぜだ…なぜこんなことを…!私が…私がこの世界を救おうとしたのに…!」
シエルは、リリアーナの行動が、自分の計画を根底から破壊していることを理解した。
彼のリスとしての本能が、冬の備蓄を全て失ったことへの根源的な恐怖を叫び、彼の全身を震わせた。体から魔力が抜けていく感覚は、まるで体が砂のように崩れていくかのようだった。
しかし、リリアーナは、ただ「遊び」に夢中なだけだ。彼の絶望的な叫びは、リリアーナの耳には届かない。彼女の意識は、目の前の「究極のおもちゃ」に完全に集中していた。
「ニャー!もっと速く転がすニャ!もっともっと!」
リリアーナは、さらに勢いをつけて「魔力の核」を転がし始めた。
核から飛び散る光の粒子は、さらに増え、貯蔵装置の空間全体を光で満たしていく。
その光は、魔王城の外部にまで届き、夜空を照らした。
まるで、城が巨大な灯台になったかのように、まばゆい光が空へと昇っていく。
その光は、遠くの街からも見え、人々は空を見上げて、その光景に息を呑んでいた。
その光景を見た王国軍の兵士たちは、歓喜の声を上げた。
彼らの目には、それが賢者の放った、魔王の力を打ち砕くための最終奥義のように見えた。
彼らは、リリアーナの光が、魔王の闇を打ち払っているのだと確信していた。
「な、なんだ!?魔王の力が…弱まっているのか!?この光は…賢者様の力だ!」
「賢者様が、魔王の力の源を直接攻撃しているのだ!さすが賢者様!我々の勝利だ!世界は救われる!賢者様万歳!」
アリア・グランツは、リリアーナの「神業」に、さらに畏敬の念を深めた。彼女の顔には、感動と、そして絶対的な信頼が満ちていた。その瞳からは、熱い涙が溢れ落ちていた。
「リリアーナ様…!魔王の力の源を、遊びのように翻弄されるとは…!これが、賢者様の真の戦略…!魔王の力を、根底から破壊されているのだ!賢者様は、この世界の全てを救ってくださる!感謝の言葉もございません!このアリア、生涯をかけて貴方様にお仕えいたします!」
アリアは、涙を流しながら、リリアーナの「偉業」を称えた。
彼女の脳裏には、リリアーナが魔王の弱点を見抜き、その核心を突いた、完璧な戦略が描かれていた。彼女にとって、リリアーナの行動は全て、世界を救うための、計算され尽くした崇高な行為だった。




