第10話:最終決戦、そして「遊び」の介入。-2
その時、王国軍は、魔王城への総攻撃を開始した。
数万の兵士が、雄叫びを上げながら城門へと殺到する。彼らの足元からは、土煙が舞い上がり、地響きが轟く。空からは魔法使いの部隊が、城壁目掛けて炎の雨や氷の嵐を放つ。
「全軍突撃!賢者様が道を開いてくださる!魔王を討ち滅ぼし、世界を救うのだ!我々の未来は、我々の手で掴むのだ!」
アリアは、先頭に立って兵士たちを鼓舞する。
彼女の瞳には、燃えるような闘志が宿っていた。
彼女の隣には、リリアーナがいた。
リリアーナは、アリアの熱気とは裏腹に、どこか気だるげな表情を浮かべている。
リリアーナは、魔王城から放たれる魔力の波に、顔をしかめていた。
「ニャー…(なんか、すごく乾燥するニャ…)」
肌がピリピリと痺れ、毛並みがパサつく。日向ぼっこどころか、ここにいるだけで不快だ。まるで、全身が静電気を帯びているような、不快な感覚がつきまとっていた。
「ニャー…(あのネズミ、やっぱり邪魔ニャ!)」
リリアーナは、そう決意すると、城門へと向かう兵士たちを横目に、城壁を軽々と駆け上がった。
彼女の「猫の足音」は、兵士たちの耳には、ただの風の音にしか聞こえない。
彼女の足音は、まるで存在しないかのように、城壁の石に吸い込まれていく。
「リリアーナ様!?まさか、単身で城壁を…!?」
アリアは、リリアーナの行動に驚愕する。彼女の知る限り、城壁を単身で駆け上がるなど、人間には不可能だ。しかし、すぐに彼女は、その行動に「深遠なる意味」を見出した。
「賢者様は、魔王の注意を引きつけ、我々に道を開いてくださっているのだ!賢者様のご期待に応えるのだ!全軍、賢者様に続け!」
アリアは、リリアーナの行動を「魔王の注意を引きつける囮作戦」だと解釈し、兵士たちに指示を出した。
彼女の脳裏には、リリアーナが魔王の目を引きつけ、その隙に人間軍が城内へと突入するという、完璧な作戦が描かれていた。
リリアーナは、城壁を駆け上がると、そのまま魔王城の内部へと侵入した。
城内は、魔族の兵士たちが慌ただしく動き回り、人間軍の侵入に備えていた。
しかし、リリアーナの「猫の足音」は、彼らの耳には届かない。彼女は、まるで幽霊のように、兵士たちの間をすり抜けていく。
リリアーナは、城内の通路を、お魚の匂いを辿るように進んでいく。彼女の「猫の目」は、城内の暗闇の中でも、魔力の流れや、かすかな匂いを鮮明に捉えていた。
そして、その匂いは、城の最深部、魔王の貯蔵装置へと続いている。匂いは、強烈な魔力の匂いと、微かに混じる、ミーコにとっては抗いがたい「お魚」のような、しかしどこか人工的な匂いだった。
その頃、魔王シエルは、貯蔵装置のクリスタルに、さらに魔力を注ぎ込んでいた。
クリスタルは、まばゆい光を放ち、その輝きは城全体を照らしている。クリスタルからは、世界の魔力を吸い上げる、おぞましい唸り声が響き渡り、シエルの耳には、それが勝利の凱歌のように聞こえていた。
「フフフ…あと少しだ…!この世界の全ての魔力が、私の手中に…!大いなる冬は、もう怖くない…!このシエル様が、新たな世界の支配者となるのだ!誰も私を止めることはできん!」
シエルは、勝利を確信していた。彼のリスとしての本能が、備蓄が満たされていくことに、最高の満足感を与えていた。彼の体は、吸い上げた魔力で満たされ、力が漲っていくのを感じていた。
その時、城の奥から、リリアーナが姿を現した。彼女の瞳は、クリスタルのまばゆい輝きに釘付けになっていた。
「んニャー!すごいキラキラニャ!これ、面白そうニャ!」
リリアーナは、クリスタルに一直線に駆け寄った。その足取りは、まるで獲物に飛びかかる猫のように軽やかだった。シエルは、リリアーナの接近に気づき、警戒心を露わにした。彼のリスとしての本能が、再び貯蔵品が脅かされることに、最大の危険信号を発していた。
「キィィィィィィィッ!あの女め…!どこから現れた!?私の神聖なる貯蔵の儀を邪魔する気か!私の備蓄を狙うな!」
シエルは、そう叫びながら、貯め込んだ魔力を凝縮した、無数の魔力弾をリリアーナ目掛けて放った。それは、彼の「無限の備蓄」による、まさに弾幕のような攻撃だった。
魔力弾は、炎、氷、雷、闇と、様々な色に輝き、リリアーナへと殺到する。その一つ一つが、城壁を砕き、大地を穿つほどの威力を持っていた。
リリアーナは、その魔力弾が、まるで大きな「光る玉」のように見えた。ミーコは、動くもの、特に光るものが大好きだった。目の前に現れた、色とりどりの「光る玉」は、ミーコにとって最高の遊び道具だった。
「ニャー!キラキラしてて面白いニャ!もっと出してニャ!」
リリアーナは、そう叫びながら、無意識に「猫の気まぐれ(カオス・キャット)」を発動した。
魔力弾は、リリアーナに当たる寸前で、まるで意思を持ったかのように、あらぬ方向へと逸れていく。いくつかは、魔王城の強固な壁に激突し、大きな音を立てて砕け散った。
いくつかは天井を突き破り、夜空へと消えていった。いくつかは、魔族の兵士たちに直撃し、彼らを混乱させた。




