【初?デート】
凱との久々のお出かけに、落ちていた気持ちも少し上向く。
『何を着て行こう…。あまり気合を入れすぎず、でもいつもよりも可愛い感じに…。凱に少しは意識してもらいたい…。デート前の女の子って、みんなこう思いながらドキドキしてるのかな?』
そんなことを思いながら、私は玄関を出る。目の前には凱が待っている。凱は、顔もスタイルも付け入るスキがないほど抜群なので、何を着ても様になる。Tシャツにシンプルなチェックのシャツを羽織り、下はジーンズにスニーカー。ただそれだけのスタイルなのに、すれ違う女子は皆、振り返り、こそこそ凱の話題で花を咲かせている。私はそんな凱の隣で歩いていることに、優越感を感じつつ、自分が凱に釣り合うほどの女性ではないことに劣等感を抱く。凱への気持ちがはっきりした今、今まで感じたことのない感情が次々に生まれ、気後れしてしまう自分。そんな私に、
「馬子にも何とかだな…。」凱が唐突に言う。
「普段ジャージばっかりだからって馬鹿にしないで!」私はそんな凱の言葉にイラつく素振りを見せる。しかし、私の精一杯のオシャレを冗談交じりにもちゃんと気づいてくれる、その嬉しさに、にやけた顔と自分が発した言葉が反比例していることに気恥ずかしくなる。
「付き合ってって、どこに行くの?」私は照れ隠しに話題を変える。
「遊園地。」凱の即答に驚き、
「決めてたの?」私は返事のあまりの速さに驚いて、すぐさま聞く。
「ああ…。」そう言うと、すたすた歩きだし、
「ほら、早くいくぞ。」と急かす。この時凱の顔が真っ赤だったことは、後ろを歩く私が気付かはずはなかった。その時の私と言えば、これが本当のデートだったら…と思いながら、凱の後を、
「待って、早いよ、凱!。」足早についていく。
※※※
日曜の遊園地はたくさんの親子連れでにぎわっている。ただ、昨日の話が引っ掛かり、乗り物に乗って楽しむというテンションではない。園内を楽しんでいる親子連れやカップルを見ながら、ただ何となく歩いている私たち。
高台にある展望台に着くと、
「少し休もうか。」凱は欄干に手を置いて、雲一つない蒼く澄んだ大空の、さらに遠くを見つめているように見える。私もその隣で、眼下に広がる馴れ親しんだ街を見下ろし、昔を思い出していた。
「凱とは、小さいときからずっーと一緒だったね。」今では信じられない話だが、引っ込み思案の私を放っておけない凱は、どこに行くのも、何をするにも常に一緒に付き合ってくれた。
「ああ。」風になびく前髪を手でかき分けながら答える凱。
「ほんとに、な~んでも一緒だった…。」
「ああ。」今度は微動だにせず答える。
「だから…、凱がいるからって思うと何も怖くなかった。」その言葉に私の方を向く凱。
「そうか…。」凱は少し照れながら笑う。
「ありがとう、今まで。」凱は最初きょとんとした顔で聞いていたが、見つめ合うと私の頭に手を置いて笑う。
「なんだよ、それ?」照れたのか、私の頭をくしゃくしゃっとする。私はそうされることに心地良さを感じて、
「なんだろうね。」と、ふふっと笑って再び凱を見る。そして、
「ねえ。覚えてる?場所も、いつだったかも忘れちゃったけど…、一緒に出掛けた場所に、小さな白馬がいて、それを見て私が凱にこう言ったの。
『この馬が大きくなったら、この白馬に乗ってエデンと地上を自由に飛び回りたい!』って…。
その時なんでそう思ったのか分からないけど、とにかく早くこの白馬が大きくならないかなって思ったんだ…。あれはいつの話で、場所はどこだったんだろう…?しかもエデンって…、あれ?」
私は途中まで笑って話していたが、エデンと口に出したことで、ハッとする。凱は、私の様子を見て少し考えてから、
「莉羽…。」真剣な眼差しで話し始める。
「えっ、何?今私なんて言った?」私は自分の発した言葉に驚く。
「それはお前の記憶じゃない。」凱のその言葉にさらに驚く私。
「え?」
「それは何千年も前の神遣士の記憶が、お前の記憶として混在しているんだ。」
「…。」驚いて何も言えない私の手に、凱は手を重ねて見つめる。
「先代の記憶が戻ってきてるんだな…。」私は凱から告げられた、その事実に困惑しながらも、重なる手に顔が真っ赤になっているのを意識する。その様子に気づいたのか、凱は重ねた手を今度は握って、
「遊園地に来たのに何も乗ってないし…、観覧車でも乗るか?」私の熱がさらに上昇して、この熱が凱にも伝わるのでは…、と思い言葉を発せず無言で頷くと、凱は手を強く握り直して、黙ったまま観覧車に向かって歩き始める。




