【一夜明けて】【改】
【コンコン】
毎朝恒例、凱による【おはよう】の挨拶。
「おはよう、凱。」
私は窓を開け、少し体を伸ばしてから、にこっと挨拶する。
夢を見なかったせいだろう、ぐっすり眠れた私は、いつもより、心も気持ちもすっきりしているように感じる。
「おはよう、莉羽。
今日は、調子が良さそうだな?
昨日は…眠れた?」
あんな衝撃的な話の後…という事もあり、凱はきっと心配してくれていたのだろう。
もしかしたら、凱の方が眠れなかったのかも…と思いながら、
「うん!不思議なくらい。
ここ最近で、一番眠れたかも……。」
「さすがだな……。
肝が据わってる?」
そう言って笑う凱の笑顔に、安心を得た私は、いつものように、
「なによ~。」
そう言って、私はほっぺを膨らませる。
「昨日あんなことがあったから……、
と思って、ちょっと心配してたけど、
問題なさそうだな。
さすが俺の、主だな!」
私は、その【主】という響きになんだか、くすぐったくもあり、違和感もあり、抵抗感もあり…微妙な感覚に襲われ、
「ごめん、凱。
それ、止めて欲しいかも……。
まだ、受け入れられたわけじゃないし……。
凱には、普通に、
莉羽って、名前で呼んで欲しいから……。」
少し私が困惑しているのを感じ取ったのだろう、凱は、
「ああ、ごめん。
軽い気持ちで言った……。
お前の気持ち、
ちゃんと考えられてないな……。」
真面目な凱が、本気で反省しているのを見て、私は少し意地悪したくなって、
「そうだぞ、凱。
主である私の気持ちに、配慮が足らん!!
そんな事であるなら、
私の従者とは、認められん!!」
ふざけて言う。
そんな私の悪ふざけに、一瞬何事かと動きが止まってしまった凱だったが、しばらくすると、クククと笑い出し、
「はいはい、莉羽様。
申し訳ありませんでした~。」
そう言って、私の頭をポンポンとしながら、
「悪かった、莉羽。」
そう言って、私をじっと見つめて微笑む。
そして、
「そうやって、自分の気持ち、
自分の中で、押し殺したり、
抑え込んだりせず……、
これからも正直に伝えて欲しい。
これから、どんな事が起きても、
俺とお前の関係は、
ちゃんと守っていきたいから……。」
真剣な表情で伝える凱。
私は、その凱の【俺とお前の関係】のワードが、なんともくすぐったくなって、
「ありがとう、凱。
うふふ。
でもね……、私ってば、
夢の中で殺されそうになったり、
エルフィーと結婚するとか、
ほんとにいろいろありすぎて、
多分、神経が……、
か・な・り、
図太くなってると思うから、
大丈夫だよ。
嫌なものは嫌だーって、
ちゃんと伝えるから、安心して!」
少しだけ、ふざけながら伝える。
『人間って生き物は、
想像をはるかに超えた場面に遭遇すると、
時に無性に、
楽観的になりたくなる、
そういう生き物なのかもしれない。』
と、凱に伝えてから、ふと思う私。
この先、凱とは、主と従者という関係になってしまうのかもしれない。
でも、何も考えずに話せる、馬鹿話くらいをしていける、ラフな関係性で、ずっといれたらな…と、考えている自分が、自分の使命を無意識に受け入れようとしている事に気付き、驚く。
私が、無意識の自覚に、自分自身戸惑っていることなど知らない凱が、
「ならよかった。
用意出来てるなら、
そっち行ってもいいか?」
そう言って部屋に入ってこようとする。
「うん……。」
私がうわの空で答えると、その様子に気付いた凱が、少し不思議そうな顔をしながら、部屋に入ってきて、
「おい、莉羽?
大丈夫か?
何か、心配事?」
私の顔を覗き込みながら尋ねる。
私は、我に返り、
「ああ、ごめん。
何でもないから、大丈夫。」
さっき言われたばかりなのに、早速凱を心配させてしまったと感じた私は、
「お腹空いたから、ご飯食べよう!」
笑顔で話題を変え、凱の腕を引っ張る。
凱は、私の様子に、少し首をかしげるが、
「そうだな、下に降りよう。」
そう言って、私に引っ張られるまま、階段をおりる。
私たちがリビングに降りていくと、母が朝食の支度をしているところだった。
「おはよう。莉羽、凱。
昨夜は、眠れた?
あんな話の後だったけれど……。」
母は心配そうに話しかける。
「大丈夫だよ。
お母さんが話してくれたタイミングって、
多分、絶妙だったんだと思う。
もっと前に、その話をされても、
今よりきっと、いろんなことが、
受け入れられなかったと思う。
でも話を聞いた今、
なんかすっきりしたような、
そんな気がするから……。
ああ、あれは、
そういう事だったのかって。
今なら理解できることもあるし……。
だからと言って、
敵とか?戦うとか?
世界を救うとか?
全くもって実感わかないし、
正直、どうしていいのか、
分からないけどね。
ごめんね……、
まだ、ちゃんと、
受け入れられなくて……。」
母は、あんな無理難題とも言えるような事実を突きつけられた私が、たった一夜で、ここまで自分の考えを整理したのか…と感じ、少し涙目になって、
「すんなり受け入れるなんて、
そう簡単には出来ない……、
そんなの当り前のことよ。
でもお母さんね、
今のあなたの言葉を聞いて、
今のあなたの様子を見て、
正直、驚いているの。
昨日の今日でしょ?
聞かされた話のショックで、
あなたが部屋から出てこれないかと、
思っていたから。
だって、話しているお母さん自身、
もしこれが自分の立場だったら、
きっとしばらく、頭が混乱して、
取り乱してると思うから……。
……。
だから、莉羽も自分に無理に、
思い込ませなくていいし、
ゆっくり理解していって、
欲しいと思ってるから、
大丈夫。
自分なりに、ゆっくり、
考えてくれればいいんだから。
これから、どうしたいかって事も。」
優しく伝える。
私も、母の言葉から、そのいろんな思いが伝わって、目に涙を浮かべながら、
「うん。わかった。
少しずつ、考えてみるね。」
そんな私たちのやり取りを、温かい目で見守っていた凱が、
「莉月さん、
朝ごはん、
俺のも用意してくれたんですね?
ありがとうございます。」
そう言って、しんみりモードだったリビングの空気を、いつもの朝に引き戻してくれる凱。
「お礼なんて、今更言わないの。
あなたは家族同然なんだし、
凱は、たくさん食べてくれるから、
作ってる私も、嬉しいのよ。
今日もたくさん食べてね!」
母と凱のやり取りに、いつもの穏やかな日常を嬉しく思い、久々に神棚に向かって、手を合わせる。
『ここにおわします、八百万の神様。
いつも、私たちを見守り、
導いてくださり……、
心から感謝申し上げます。
……。
実は昨日、とんでもない事実?を、
告げられたのですが……、
正直、まだ実感がわいていない、
というのが現状でありまして……、
でも、
自分の心のままに、
自分の信じた道を、
自分に恥じることなく、
進んでまいりたいと……、
これまでの信条のまま、
変わらぬ思いで、
これからも過ごしてきたいと、
思っております。
それと……、
それぞれの星に、
平和な日常が戻り、
みんなが笑顔で過ごせる毎日を、
過ごせますように……、
今後とも、見守り、お導きいただきますよう、
心から、お願い申し上げます。
本日も、お祈りできます事、
心より、ありがとうございます。』
私は心の中で、神様にお伝えする。
ふと隣を見ると、凱も手を合わせ、呟くように神様に、この間のいろいろな思いをお伝えしているようだった。
『凱はどんなことをお伝えしているんだろう』
私の脳裏をよぎる。
夢の中を、あちこち行き来するようになる前は、ほぼ毎日一緒にお祈りをしていた私たちだったが、実際どんな事をお祈りしているのか?について、話したことがなかったので、今更ながらとても気になる。
私がいろいろと考えを巡らせながら、凱の顔を見る。
すると、ちょうどお祈りを終えた凱と目が合う。
「どうした、莉羽?」
凱が不思議そうに尋ねる。
私は、少し焦りながら、
「何でもないよ…って、
凱は、何か言おうとした?」
そう伝えると、
「え?
ああ、よく分かったな。
……。」
「何?どうしたの?」
「今日、
ちょっと付き合って欲しいんだけど。」
私は何事かと驚き、答える。
「え?何?
付き合うって、どこに?」
「ちょっと、気分転換しよう。」
そう言って、にこっと笑う凱の笑顔は、いつにも増して優しい。
私は何だか嬉しくなって、
「分かった!りょーかいです!」
食い気味に、即答する。
そんな私に凱は、微笑む。




