兄エドヴァルド 守りたかったもの
ファータのザックライト家の一室。
ジルヴェスターは、そのエドヴァルドの過去を見ることによって、あまりに悲しい事実が隠されていた事を知り、一方的に兄を責めた自分を呪う事となるとは、この時の彼自身、知る由もなかった…。
それは、エドヴァルドが師団長になって数年後のこと。
「おい、師団長さんよぉ。
お前の父親は、
師団長だったかなんだか知らんが…、
そこまで偉くなったら、
なんでもやって良いのか?
俺の妻を愛人として抱え込むなんて、
どういうつもりだ。」
相手は父の愛人の夫、この村で表向きは金貸しを営み、裏ではいくつもの、あくどい商売を行っていると、何かと噂の絶えない有名な悪玉であった。
自分の中で、浮気のような、非人道的、非常識な事は、ただでさえ有り得ない事なのに、よりによって、こんな男の妻に手を出す父の気が知れなかった。
しかもその妻との関係は、どうやら母と結婚する前からのもの…。
それを知り、余計にはらわたが煮えくり返るような思いがしていた。
その悪党は、事あるごとに金の無心にきた。
【ザックライト家の名を汚したくなければ、慰謝料を支払え…。
支払えば、一切口外しないと約束する…そう言って…。】
父がこの話に取り合わない以上、ザックライト家の長男として、自分がどうにかするしかないと考え、慰謝料を支払ってしまった自分。
一度支払ったが最後…、その後も幾度となく現れては…、金をむしり取られることになった。
その上、その家の長女が、自分に気があるとの事で、慰謝料の代わりに、娘を嫁にしろ…と無理な要求までするようになった。
師団長となってから、日々忙しい生活を送っている中で、その娘は、暇さえあればと約束を取り付けてきた。
私は、仕事以外のほとんどの時間を、彼女に奪われていった。
そんな生活に、気持ちを休める事も出来ず、彼女との約束を、仕事を理由に断ろうと話を持ち出した際、今度は精神的に参っている母に、危害を加えることを匂わしてきた。
何て卑怯なんだと思った…。
だから尚更、そんな娘を愛せるはずもなかった。
こんなにも嫌気がさすような日々が続く中、何度父に直談判しようと思ったか分からない…。
ただ、父に直訴することで、おそらく、父は母に、さらに暴力をふるうだろう。
全てお前のせいだと…。
それがきっかけで、何とか安定している母の病状が悪化し、それにより母を看てくれている弟に、そのしわ寄せが及ぶのではないか…、それを考えたら、自分が全て処理すればいいのだと…、結局同じ結論に至る。
それを繰り返している内に、父への直訴…の考えもなくなっていった。




