表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
794/811

涙の雫~兄の胸に秘められた過去を…~

それまで、ただ力なく横たわっていたジルヴェスターだったが、一気に警戒モードにスイッチを切り替え、気配を消し、状況を確認する。


その足音は、ゆっくりと、しかし確実にこちらに近づき、そして、止まる。


静かに目を開くと、目に映ったのは…、最愛の兄、エドヴァルドの姿だった。


「やっぱりここにいたか…。」


エドヴァルドはそう言うと、ゆっくりと私を抱き上げ、誰もいない、静まり返った家の中に入っていく。


そして、ベッドに私を静かにおろし、椅子に座ると頭を抱え、しばらく考えてから、私に治癒術をかけ始める。


その姿は、師団長として悠然と構える、あれほどまでに憧れていた兄の姿とは程遠く…、魂が抜けてしまったかのように小さく見える。


そんな兄に、私は消え入りそうな声で話しかける。


「兄さん…。」


私の声に驚いたのか、一瞬体をびくっとさせ、ゆっくり頭を上げ、こちらを見るその表情は、それを見る側の心をも苦しくさせるほど、暗く沈んだものだった。


先ほどの朔の家でのやり取りから、相当な精神的ショックを受けたのだろう…、水分を摂る事さえ忘れていたのか、その乾ききった唇を見て、その憔悴ぶりが見て取れる。


そしてその唇を噛んでから発した言葉は、悪に飲まれ、完全なる敵となった私に対する言葉ではなく、弟としての私を心から心配する言葉だった。


「ああ、ジルヴェスター…。


 話せる…のか?

 

 顔も血の気が引いて…。


 ああ…、こんなにも、


 弱ってしまうなんて…。」


私の顔を見て、両手で顔を覆い、涙を流す兄エドヴァルド。


あれほど、私の事を可愛がってくれていた兄…。


そんな私を悪にのまれる状況まで追い込んでしまった事を、目の前の私の痛ましい姿を見て、嘆いている。


「兄さん…。


 来てくれたんだね…。


 ………。


 石との契約には、成功したけど、


 制御出来ないみたいだ…。


 ハハ…。


 逆に…、自分のエネルギーも、


 全て、石に奪われて…。」


話す事すらやっとの状態で、状況を説明すると、兄は立ち上がってベッドに座り、自分の胸を背もたれになるようにして、右腕で私の肩を抱え、水を飲ませてくれる。


その残った水を、兄は飲み干してから…、自分の思いを話し始める。


「さっきも話したが…、


 俺は、お前に、


 謝っても謝り切れない程の事を、


 してきてしまった…。


 お前がこの状況になったのも、


 全て俺のせいだ…。


 今更なのは分かっているが…、


 本当に…、本当に…、


 ……、


 すまない。」


兄は、私を抱えながら頭を下げる。


「兄さん、さっきも言ったけど、


 謝ってもらっても、もう手遅れだよ…。


 一度でも、悪に飲まれた身は、


 もうそれから逃れることは出来ない。


 再び悪に心を占領され、


 おそらく自我を失うだろう。


 ここでさよなら…なんだよ…、


 兄さん。」


いよいよ、兄との別れの時が近い事を、自分の発した言葉で自覚した私の目から、自然と涙が溢れ出る。


その言葉に兄は、


「何を言ってるんだ。


 俺がそうはさせない。


 頼むから、罪を償わせてくれ…。」


兄の目からも、さらに涙が溢れる。


「こんな風にならないとさ、


 気づけない事って…、


 きっと世の中には、


 たくさんあるんだろうね…。


 きっとどうにかなる、


 大丈夫って…、


 最悪の事態になるまで、


 みんな自分に言い聞かせて…、


 やり過ごしてさ…。


 その結果がこれだよ…。


 あの時、兄さんに、


 もっと働きかければ…、


 よかったのかもしれない…ね。」


「お前は悪くない…。


 全て俺が…。」


兄は言葉を詰まらせ、さらに大粒の涙を流しながら、


「お前には本当に辛い思いをさせた。


 お前だけには…、


 そんな思いをさせたくないと、


 それだけを思ってきたのに…。」


声を震わせながら話すその姿に、兄の中の私への謝罪の気持ちが、嘘偽りないことを感じる。


そして兄の目から溢れた涙が、私の手の甲に雫となってこぼれ落ちる。


その瞬間、私の脳内にある光景が映し出される。


それは数年前からの、兄エドヴァルドの記憶だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ