【消えた莉奈】
目覚める私。起き上がろうとすると目から涙が溢れ、足から血が出ているのに気づく。
『何これ?こんな傷…。怪我なんかしてないけど…。えっ?なに?』
そして、こんなことが今までに何回かあったような…、と不安を覚える。その瞬間、何かが頭の中をよぎったような感覚に襲われ、私は意図的に夢の記憶を取り戻させられたようだ。
『そういえば…、さっき見ていた夢…。私はエルフィー皇子との結婚式の途中で…、そうだ!皇子が連れ去られたんだ!皇子はどこ?この傷は間違いなくさっきの夢で負った傷…。何これ、怖い…。』
私は階段を駆け下り、リビングに向かう。そこには母と凱がいる。
「お母さん。聞いて!」息を切らしながら話す私に母は、
「どうしたの?莉羽。そんなに焦って…。」
「ねえ、信じてもらえないかもしれないけど…、私、さっきまで夢見てて…。」
「夢?」凱が聞く。
「うん、夢の中で怪我したんだけど…、起きたらその怪我と同じ場所が怪我してるの…。」私が不安げに話すのを見て、母は、
「夢と現実がリンクしてる?」私が考えていた言葉そのままを口にした母に驚き、
「なんで言おうとしたことが分かったの?」母は、いつになく落ち着いた様子で、
「もう時は満ちたわね。莉羽、ここに座って。凱も一応聞いてね。でもまず先に伝えなくてはいけないことがあるわ…。莉奈がいなくなったの。」
「えっ?莉奈が?だって、倒れたまま寝込んでたんだよね?」私は血の気が引いていくのを感じる。
「そう。こまめに部屋に様子を見に行ってて、つい2時間前までは部屋にいたのよ。それが1時間前に見に行った時には姿がなくて…。そのまま凱と一緒に、家の周りを探しにいったんだけど…。」
「なんで私のことは起こさなかったの?」
「あなたも最近、体調悪そうだったから…、起こさないほうがいいと思って起こさなかったの。」
「そんなこと気にしなくて…、私も探しに行けたのに!」私は声を荒げる。
「病院にも、警察にも連絡はしたし、行きそうな場所は全部探した…。」母はうつむきながら話す。
「莉奈が起きて、自分でどこかに行く可能性は?」
「あり得ないと思う。…倒れてから何も食べてないし、点滴でどうにか保っていたけど…。体重も減って体力もなくなってるから、自力で歩くのは難しいはず…。」母の頬に我慢していた涙があふれる。
「もしかして連れ去られた可能性が?」私は心臓のドキドキが止まらない。
「可能性は高いと思う…。自分で動けない子が出かけるわけないもの…。」
「…。」
「あんな体で…。早く病院に連れて行かないと命に…。」母は最悪の事態を考えずにはいられない。その言葉に私も涙が止まらない。凱も下を向き顔を上げられない。でもこのままでは何も変わらない。何か行動しないと…、と思い立った私は、母に話があると言われたことも忘れ、
「ちょっと出てくる。」そう言って莉奈を探しにいくため家を出る。
「俺も…。」凱も私の後を追うように家を出て、
「莉羽、俺も行く。」と声をかけてくる。私は頷くが、その後しばらく無言の私たち。
家を出て10分程、思い当たる場所をあちこち探し回るが見当たらない。
「莉奈さんがこんなに遠くまで歩けるわけない。莉奈さん状態から行動範囲を考えて、全部思い当たるところは確認してきた。でもいない。考えたくないけど連れ去られたか、もしくは…、自ら出て行った…?」想定外の凱の言葉に驚いた私は、
「何言ってるの?凱…、自ら出て行くって?家出ってこと?」凱は答えない。
「ねえ、どういう意味?凱。そこまで言ったんだから、はっきり言って!」私は凱の胸元を両手でつかんで叫ぶ。凱は、渋い顔で一言。
「家に帰ろう。すべてはそれからだ。」と言って、歩き出す。
私は凱の真意が分からず凱の後ろをうつむいたまま歩いていく。




