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【第16夜⑧ ~王になるということ~】

 私たちが外壁の頂上に着いた時、民の歓声は最高潮になった。何百万という人々の祝福の中、胸がいっぱいになり、自然に涙が溢れてくる。


『みんなが私と皇子の結婚を、こんなにも祝福してくれている』


 この上ない祝福の笑顔で迎える多くの人々の思いが伝わり、これが結婚というものなのかと心から嬉しいと思う一方、どうしてもこの声が、私と凱に向けられたものだったら…と考えてしまう自分に罪悪感を感じる。

 また、ここまでの祝福と期待を前にして、まだ力が解放されていないだけに焦りも感じていた。いろいろな思いがこみ上げて、ますます涙が止まらない。皇子はそんな私の様子を見て、指で涙をぬぐってくれる。それを見た人々はさらに大きな歓声を上げる。


「よくこの光景を目に焼き付けておきましょう。私たちの結婚がどれほど望まれ、祝福されているのかを。」私は頷く。


 そして私の腰に手を回す皇子にも、嬉しさと緊張と困惑で震える私の体の振動が伝わり、それを紛らすため、皇子は回していた手で私の手を握り、


「大丈夫。いつものあなたなら、この大勢の民の前でも思いを伝えられます。それに私が隣にいますよ。このまま2人で前に立ちましょうか?」そう言ってにこっと笑いかけ、頷く私をエスコートしながら民衆の前に立つ。

 当然私と皇子が1人ずつ前に立ち、誓いの言葉を話し始めると思っていた民衆は、私たちが仲睦まじく、寄り添いながら前に立つ姿に歓声を上げ、


『エルフィー皇子!』

『莉羽王女!』と私たちの名を叫んでいたが、兵士が手を上げると一斉に鎮まる。


 当初の予定でも1人ずつ前に出るはずだったので、私は少し困惑していたが、皇子の笑顔に安心して共に前に出る。おそらく皇子には、これから始まる戦いに不安を抱くであろう民衆に、2人の強い絆を示すことで、その思いを払拭させようという思いがあったに違いない。私はできるだけ皇子に寄り添い、皇子の言葉を一つ一つ心に刻んでいく。


「ここに集まってくれた、多くの民よ。今日は私たちの結婚を祝ってくれてありがとう。私とここにいる莉羽は、本日をもってこの国の次期国王、そして王妃となることが誓約された。私たちはここに誓う。私たちの命ある限り、この国の皆の平和を守り抜くことを。何者にも侵されない平和の実現を。」


ここまで静寂に包まれていた多くの民衆が集う広場は、皇子のこの誓いによって大きな歓声に満ち溢れる。


『エルフィー皇子!』

『莉羽王女!』


しばらく民の様子を見回していた皇子は、その歓声を手を上げて制し、続ける。


「皆も知っていると思うが、この星はかつてない脅威に脅かされている。いま、私たちはこの問題について全力で向き合っているが、この星の財産である皆の命が、今この瞬間狙われているのは事実だ。でも皆、安心してほしい。周知のことだが、私と莉羽には特別な『力』があり、私たちが結ばれることで、この力は絶大なものになる。必ずやこの危機からこの星を救う。私たちは命を懸けてこの星を守ることをここに誓う。」そう言って皇子は、腕を突き上げる。


 この言葉と行動に、歓声を上げる者、安堵の表情で涙する者、自分も一緒に戦うと誓う者。民衆が1つになる。私は話を終えた皇子を抱きしめ、


「素晴らしかったです。民衆の心が1つに…。」ここで感極まり涙がまたあふれ、皇子は安堵の表情を浮かべながら、私を強く抱きしめる。私たちのその姿に民衆はさらに歓喜の声を上げる。


「ははは。あなたにそう言われると照れくさいです。でも、これが私たちの思いですよね?」私を抱きしめたまま皇子はそう言って、その手を緩め、私の目を見て確認する。


「はい。」私は頷き、素直に答える。


「さあ、莉羽、あなたの番です。」皇子はそう言って前に出るよう促すが、つないだ手を離すことはない。


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