【第16夜⑦ ~緊張の中、愛にあふれる挙式~】【改】
式は、王宮の隣に構える神殿の中で執り行われる。
奥行きは優に100mは超え、高さは50mほどあり、築数千年以上は経っていると思われる、荘厳な雰囲気を漂わせる、この星最大の神殿である。
入り口を入って一番奥の壁に高さが20m、幅12m以上はあるであろう巨大な肖像画が飾られており、その前で私と皇子は、バーレイ神に永遠の愛を誓うことになっている。
初めてここに入り、この肖像画を見た時、その大きさにはもちろんだが、描かれている神、バーレイの圧倒的存在感に目を奪われた。
建物内部の装飾も、他の星のものと比べて、細部まで職人の技巧が施されており、豪華であるが、華美過ぎないところに、気品を感じる。
国内の、古き時代から残されている歴史的建造物に、風化以外の損傷がない事から、建国以来、平和を追求する諸王の安定した治世において、無駄な争いが起こることなく、国が堅実に、着実に栄えてきた結果なのだろうと思った。
そこで以前から、一つ気になっていた事を思い出す。
それは、この星の神バーレイが、他の星の神様と容姿が、酷似している事。
顔や髪型、衣服と、ほぼほぼ同じように見えるが、何となく、微妙に違っているように見える。
その醸し出す雰囲気なのか…、ある場所の絵画は、見ていると温かい気持ちになる。
しかし、別の場所の彫刻からは、その目の雰囲気なのか?冷たさを感じる。
それは、どの星における神様にも言える事で、さまざまな場所に祀られた神様から感じるものが違うのだ。
それは、別人なのか?と思えるほどで、ファータ国内にある、様々なバーレイ神の絵画や像が醸し出す雰囲気にも違いがあり、それが何を意味するのか…と、ふと考えていた私。
しかし、そんな事を考えても、分かるはずもない、これはきっと、夢の中「あるある」なのだろうと、今日まで見過ごしいていた。
だが、この巨大な壁画を見て、ふと思い出し、再び気になり始める。
※※※
ファータの王族の結婚式は、花嫁が神殿に入る前に、まず神殿前にある洗礼の泉で身を清める。
とはいえ、それは昔の話で、今ではその泉を渡る橋の上に花嫁が立ち、その脇に立つ聖女の像の、その天を仰ぐように上げられた手から泉に降り注ぐ、聖水のミストを浴びる事が、洗礼の儀式となっている。
緊張のあまり、今にも泣き出しそうな気持ちを何とか抑えて、私は泉にかかる橋を渡り、その中央までゆっくりと歩いていく。
橋の欄干の上に、ちょこんととまり、こちらを見ながらさえずる小鳥の、その美しく響く声が、まるで、この日を祝うかのように、そして、緊張でガチガチの私を励まし、応援してくれているかのように感じる。
泉の周りに咲き誇る、たくさんの花々の周りを、美しく軽やかに舞う、鮮やかな蝶たちも、まるで今日という日を喜んでくれているかのようだ。
『こんな経験、
夢でしか出来ない事。
そうだ、夢なんだもん。
楽しまないで、どうする?
莉羽!!!
今を楽しもう!』
小鳥や蝶の祝福で、だいぶ緊張がほぐれた私の中に、周りを見る余裕が生まれ、この結婚を祝う為に姿を現した、多くの精霊たちの笑顔にも出会うことが出来た。
天気にも恵まれた今日、初夏のような陽気の中、顔に降り注ぐミストがとても心地よく、私は祈りながら、体いっぱいに聖水のミストを浴びる。
心も身体も、全てリフレッシュされた私は、泉の橋の中央で、両手を上げ、天を仰ぐ。
『ファータでの新しい自分、
新しい環境を受け入れて、
この国も、世界も……、
全部幸せにしてみせる!!』
私は自分を納得させるかのように頷くと、聖水で清められた私の誕生石と、皇子の誕生石を入れた器を、聖女の像の脇に控えていた准神仕教から受け取り、そこから皇子の待つ神殿に入る。
神殿の中には、諸外国の王族を始め、多くの参列者たちが、私の入場を迎えようと、一斉にその視線を後方の入り口に向けている。
私は、その厳かな雰囲気の中、静かに歩みを進める。
私が洗礼の儀式を終えるまでの間、バーレイ神の肖像画の前で、祈りを捧げていた皇子は、私が神殿の中央まで進むと、私を出迎える為に、後方まで下がり、私の目の前で立ち止まると、嬉しさのあまり、顔をくしゃっとさせて、にこっと笑う。
それから皇子は跪き、私の手の甲にキスをしてから立ち上がると、そのまま手を引き、神殿の一番奥の肖像画の前まで、私をエスコートする。
そして私たちは、神の前で跪き、准神仕教に神の教えを説かれ、続いて夫婦としての儀式、次期国王、王妃の継承儀式を行うことになっている。
准神士教による説教が終わると、私たちは立ち上がり、先ほど聖水で清められた自分の誕生石を受け取る。
そして、予めこの石をはめ込むための枠が作られた懐中時計に、お互いの誕生石をはめ込む。
そしてそれを相手に渡す。
ここに来て、再び極度の緊張に襲われた私の手が、大きく震えてしまい、なかなかはめ込むことが出来ないのを見た皇子は、優しく微笑みながら、
「大丈夫。
落ち着いて……、
私が付いているからね。」
そう優しく囁き、手を添え、一緒にはめ込んでくれる。
石を無事、はめ込んだ私は、ほっとして皇子の顔を見る。
すると、皇子は微笑みながら、私を安心させるかのように、私の頭にキスをする。
その仲睦まじい様子に、場内がどよめき、皆の顔に笑顔が溢れる。
特に、この懐中時計の儀式には、
『あなたとともに、時を刻む』
そう言った意味が込められている為、余計に私たちのやり取りが、参列者の心を幸せな気持ちでいっぱいにしたようだった。
ちなみに、この儀式は、、この国独自のもので、古き時代から行われているそうだが、時を経て、今ではそれに憧れた、他国の王族や庶民も、同じように行っているとの事である。
儀式を終えた私たちは、大勢の参列者からの祝福の拍手を浴び、そのまま神殿を出る。
次に向かうのは、王城の正門、その城壁のはるか上部にある屋上広場。
高さ30mほどある城壁の下には、私たちの結婚を祝うために、ファータとジークの各地からやってきた何十万という人々が、見渡す限り、私たちの登場を待っている。
私と皇子はこの後、この結婚にあたり、両国の未来への思いと誓いを、それぞれ自らの言葉で伝えることになっている。
そして、その後…式のクライマックスである、大勢の民の前で行う、
『永遠の愛を誓うキス』により、この結婚が成立するのだ。
建国以来、最強の力を持つ言われる王と妃の誕生を、両国の民は、今か今かと首を長くして待つ。




