【第6夜② ~初陣~】(改)
それから1日半ほど走り、ようやく採掘場付近までたどり着いた騎士団一行。
採掘場はこの星最大級の規模を誇り、幅30キロ、奥行き50キロの面積、全ての施設が地下に作られており、地上からの外観は小高い緑あふれる山々という感じで、まさかこの地下に採掘場があるとは、誰一人として想像もし得ないだろう。
そんな緑あふれる自然豊かな風景の真下にある採掘場で、今、大規模な戦いが起きようとしていた。
採掘場付近を管轄する部隊の隊長によると、辺り一帯の状況は普段と変わりないとのことだった。
その報告を受け、採掘場の正面入り口をロイ団長率いる中央部隊、その周辺を中央部隊以外の全部隊が包囲するとの計画が立てられる。
その計画を元に、まず副団長のフィンが秘石の一つである「心伝石」を使い、この遠征に出動した全ての団員に向けて檄を飛ばす。
「心伝石」とは、ある一定の範囲内にいる特定の者に、石を所有する者の意志を伝えることが出来るもので、王宮騎士団のみが所有・使用を許可された特別な石である。
文献によると、安寧なシュバリエの歴史の中では、過去数回しか使用された事がないというほどの貴重な代物だった。
その「心伝石」を誇らしげに持ち、団員に向ける言葉を心を通して「石」に語りかけるフィン。
『騎士団の全団員に告ぐ。
俺の方からは作戦の概要を、団長からはその詳細を伝える。
よく聞いてくれ。
敵が何者かも分からない現状、不測の事態が起こり得ることは、
容易に想像できる。敵の正体や、状況が分かり次第、
逐一「心伝石」で指示を送る。
各自、その指示に従って行動する事。
作戦は状況で随時変更されることを念頭に…、
いつも以上に周りに目を配れ。分かったな!』
団員は無言のまま、拳を一度突き上げ、その拳を下ろし胸に当て、フィンの檄に応える。
続いて団長ロイが前に出る。
『騎士団、諸君。
先ほどのフィンの言葉の通り、
作戦は状況によって都度変更を余儀なくされるだろう…。
これから伝える、現時点での作戦を頭にしっかり叩き込んでほしい。
無駄死にはするなよ…。』
一度周りを見渡して続ける。
『まず魔物の好物クシャの実を入口にばらまき様子を窺う。
敵に動きが無ければ、「光石」を置いて中の様子を確認、
その状況で「心伝石」で指示を送る。
突入の際は、合図とともに私は左手から、フィンは右手から入る。
突入の合図、撤退の合図、すべて訓練のとおりだ。
イレギュラーがおきた場合は「石笛」を吹くので指示を待て。
わかったな。』
団員は再び、拳を突き上げ、それから力強く拳を胸にあてる。
総勢300人の騎士団中央部隊所属の精鋭部隊全員の顔が、いつになく強張っている。
皆がその時が近いことを理解する。
心臓の音が周りに聞こえそうなほどの緊張が、私を襲ってくる。
さあ、いよいよだ。
『始めるぞ。』
ロイが作戦の始まりを告げるとフィンが片手をあげ、作戦の口火が切られる。
クシャの実が計画通りの位置に置かれ、皆がその様子を固唾を飲んで見守っているが、まだ何の反応もない。
少し経って、暗闇の中に「光石」も投入されたが、空気の乱れを感じることもなく、聞こえてくるのは隣の団員の唾を飲み込む音のみ。
ロイはフィンに合図を送り、左右に分かれる。
いよいよ見えない敵との戦いが始まる。
それぞれの緊張が最高潮になったところでロイの指笛の合図。
それと共に控えていた騎士団中央部隊が、一斉に採掘場内に突入する。
団員が地面を蹴る音、甲冑がこすれる音、今までの静寂が嘘のように空気が乱れる。
その瞬間、その乱れた空気を断ち切るような鋭い音が響く。
『シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ』
放たれた無数の矢音と共に、多くの団員がバタバタと倒れ始める。
その数秒後、『ピピ―』という耳を劈くような高音の「石笛」が吹かれ、緊急事態を知らせる。
「あの矢は…。
盗賊だ!盗賊の弓矢だ!全員、岩陰に隠れろ!」
ロイの命令をフィンが「心伝石」を使う間もなく、採掘場に響き渡るような大声で伝える。
私の目の前を走っていた長身の団員もその標的となり、岩陰に隠れた私と凱の目の前に倒れこむ。
私は恐怖で身動き一つとれない。
『怖い、怖い、死ぬかもしれない』
体中の血管が脈打ち、心臓が爆発しそうに鼓動が早くなる。
それに伴って体温の異様な上昇を感じる…。
だが同時に、体は尋常ではない冷や汗をかき、甲冑の中を流れていく。
その汗が上半身の熱で蒸発し…、体の異常な状態に吐き気を感じる。
『これが生死をかけた戦いなんだ…。』
私は訓練時の自分を自ら嘲笑う。
この状況に比べたら、フィン副団長の地獄の特訓なんて呼んでいたものが、なんて生ぬるいものだったのだろうと…。
戦場を甘く見ていた自分を後悔する。
この岩陰から出た瞬間に、敵の刃が振り下ろされ、上方からは弓矢の嵐が降り注ぐだろう。
どうあってもこの状況で、戦いは避けられない。逃げることは出来ないのだ。
だからこそ、この状況において一瞬の隙は命取りになるし、勝機を見逃すことが死に直結することを意識しなければならない。
この緊張の糸が永遠に張り詰めていくのか…と思った矢先、突如、盗賊が煙幕を張り、辺り一面が煙に包まれる。
これに動揺した騎士団の多くが、視界を確保するために岩陰から飛び出し、次々に矢の雨に打たれていく。
「莉羽、莉羽。どこだ。」
凱の呼ぶ声が聞こえる。
傍にいたはずの凱と、いつの間にか離れてしまっていた私。
焦りと不安で必死に声をあげる。
「凱。凱…。」
辺りを見回しても凱の姿は見えない。
何とか目を開けながら辺りを確認していると、煙の中から突然盗賊が現れ、私の頭を目掛けて剣を振り下ろしてくる。
私は反射的にそれをよけるも、後ろに倒れてしまう。
そこに切りかかってくる男。
私は倒れた体を横に回転させ、何とか煙の中に身を隠すことに成功する。
しかしその刹那、起き上がろうとする私の顔の数センチ横をかすめる敵の矢が、地面に突き刺さる。
かわしても、かわしても、次から次へと繰り出される敵の猛襲…。
恐怖を感じる間もなく、ただひたすら反射的に動く事に意識を集中する。
感情を乱されることが死に直結する。
今この瞬間を本能で乗り切る。それが私にできる精一杯のことだった。
止むことなく続け様に繰り出される煙幕の中での攻防を通し、私は生まれ持った運動神経のおかげで相手が剣を振り上げてから振り下ろすまでの1秒に、自分がどう躱し、どう反撃するかの計算を組み立てられるようになっていた。
さらに、研ぎ澄まされた感覚で、矢が空気を切るわずかな振動と音に反応する技も体得した。
動くごとに私は自分が成長していくのを肌で感じていた。
そして今度は、凱を探すため積極的に煙幕の中に飛び込む。
ほんの一瞬だが、私の数メートル前に凱の姿を確認するも、上方から凱を狙う盗賊一人、私と凱の間にある岩陰から凱を狙う盗賊一人を視認し、剣を構える。
それと同時に、私の真後ろで、私に切りかかろうとする敵の、剣を振りかざす気配を感じる。
私はまず1秒で弓を構える上方の敵に、自分の腰に差してあった短刀を投げつけ、次に凱に切りかかろうとする敵に走りこんで切りつけ、その前にある岩を踏み台にバク転し、そのまま後ろの敵をしとめる算段を立て、即座に実行に移す。
私は予定通り、上方の敵に投げた短刀を突き差すことに成功し、凱に剣を向ける敵の手に私の剣が突き刺さったことを確認すると、すぐさまバク転し後ろの敵に向けて剣を振り下ろした。
その敵は、剣が振り下ろされる直前に、私の動きに合わせ応戦してくる。
それに気づいた凱がその敵を切りつけるが…、足元の石にバランスを崩した私は、虚しくも右腕と背中を切りつけられ、そのまま地面に倒れこむ。
一瞬目を開け、そして再び閉じる。ぼーっとする頭の片隅で、
『この感じ、この前見た夢?
目が覚めても怪我が残ってたやつだ…。
体が重いし、痛い。生暖かい血の感触…、気持ち悪い。
凱どこ?助けて…。』
そのまま再び、目を閉じる。




